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椎名くんが死んでいる。いつものことだ。キーボードから指を離し、前の文章から読み返す。うん、ちゃんとつながってる。大丈夫だ。
小西の小説の中では、椎名くんはいつも死んでしまう。気づいたら亡くなっている。むしろ椎名くんが亡くなる前提で進むプロットを書いてしまう。愛があるのになぜそんな物語を書くのかと言われても、小西にはわからない。思考が自然とそちらに足を向けるのだ。
ふぅ、と一息ついてノートパソコンの右隣、アーモンドグリーンのマグカップに口をつける。すっかり冷めてしまった夏限定のレモンの紅茶が、集中で渇いた喉を潤していく。爽やかな風味が小西の体から緊張をほどく。家事を早めに終え、推しのことだけを考えていられる休日のこの時間が、小西にとって至福のひとときだった。
小西の趣味は二次創作、それも夢小説を書くことだ。職場のオタク友達に勧められた某人気少年漫画の登場人物・椎名くんに心惹かれ、彼の夢小説をちまちまと書き溜めている。投稿サイトに発表もしており、反応は上々。界隈の中で少ない闇を含んだ作風に物珍しさを感じて見に来る人がいるのだろう、と小西は一人分析している。一切イベントに出ない姿勢、孤高なスタイルが彼女のことをよりミステリアスにしている、と匿名メッセージで言われたことがあるが、小西は一瞬モヤモヤを抱いたものの、何もなかったかのように作品を発表している。
小西の目にパソコンの画面が映る。クリーム色の用紙にずらりと並んだ文字、文字、文字。カーソルが最後の行でチカチカと点滅している。字数を見てみると五万を超えている。
しかし、ここから先の展開をどうしても書く気になれない。思えば、最近の作業の進捗は芳しくない。プロットノートを見返すも、やる気はどこかに遠出してしまっているようだ。自分で決めたプロットなのに、ここからがクライマックスなのになぜだろう、と思う。積み上げた字数が逆にプレッシャーになってしまっているのか。ノートの付箋に綴られた、過去の自分が書いた文字を見る。あの頃はあんなに燃えていたのに。
この状況は何度も経験してきた。小西はスマホに手を伸ばす。気分転換をしよう。二十五分のうち残り十六分の作業タイマーを止め、情報の魔窟であるSNSを開く。指はタイムラインの隣のリストをタップする。この動きは随分前から染みついている。界隈の人たちの投稿が更新され、流れていく。
小西の小説の中では、椎名くんはいつも死んでしまう。気づいたら亡くなっている。むしろ椎名くんが亡くなる前提で進むプロットを書いてしまう。愛があるのになぜそんな物語を書くのかと言われても、小西にはわからない。思考が自然とそちらに足を向けるのだ。
ふぅ、と一息ついてノートパソコンの右隣、アーモンドグリーンのマグカップに口をつける。すっかり冷めてしまった夏限定のレモンの紅茶が、集中で渇いた喉を潤していく。爽やかな風味が小西の体から緊張をほどく。家事を早めに終え、推しのことだけを考えていられる休日のこの時間が、小西にとって至福のひとときだった。
小西の趣味は二次創作、それも夢小説を書くことだ。職場のオタク友達に勧められた某人気少年漫画の登場人物・椎名くんに心惹かれ、彼の夢小説をちまちまと書き溜めている。投稿サイトに発表もしており、反応は上々。界隈の中で少ない闇を含んだ作風に物珍しさを感じて見に来る人がいるのだろう、と小西は一人分析している。一切イベントに出ない姿勢、孤高なスタイルが彼女のことをよりミステリアスにしている、と匿名メッセージで言われたことがあるが、小西は一瞬モヤモヤを抱いたものの、何もなかったかのように作品を発表している。
小西の目にパソコンの画面が映る。クリーム色の用紙にずらりと並んだ文字、文字、文字。カーソルが最後の行でチカチカと点滅している。字数を見てみると五万を超えている。
しかし、ここから先の展開をどうしても書く気になれない。思えば、最近の作業の進捗は芳しくない。プロットノートを見返すも、やる気はどこかに遠出してしまっているようだ。自分で決めたプロットなのに、ここからがクライマックスなのになぜだろう、と思う。積み上げた字数が逆にプレッシャーになってしまっているのか。ノートの付箋に綴られた、過去の自分が書いた文字を見る。あの頃はあんなに燃えていたのに。
この状況は何度も経験してきた。小西はスマホに手を伸ばす。気分転換をしよう。二十五分のうち残り十六分の作業タイマーを止め、情報の魔窟であるSNSを開く。指はタイムラインの隣のリストをタップする。この動きは随分前から染みついている。界隈の人たちの投稿が更新され、流れていく。
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