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「ナル。これ、最後のお刺身なんだけど。わかめばっかり食べてるけど大丈夫?」

 気づけば、口の中はわかめだらけだった。思考にふけっているうちに、箸はわかめのトレーと僕の口を往復するだけだったらしい。よく噛んで白米と一緒に飲み込む。

「……ごめん、一年前のこと思い出してた」
「ふーん? 私たちが出会ったときのこと?」

 頷くと、ラブは「そう」と興味なさそうに返答した。
 すっかり冷めた味噌汁をすする。塩味が強くて、残った白米はこれで食べ切ろうと僕は計画する。

 本当にこれでよかったのかな。僕は考える。あのとき提案せず、ラブをそのまま水族館に行かせたり、海に返すことだってできたはずだ。しかし、彼女は怪我をしていた。あの弱肉強食の世界に戻りたくないとも言っていた。それなら、人間の世界でこうやって匿っている方がいいのか?

 ラブが笑ってお刺身を食べてくれるなら、それでいいのかな。しかし、それが偽りの笑顔だったら? 本当は海に帰りたいのに、僕のために無理して笑ってくれているとしたら?

 疑問は堂々巡りで、終わりが見えない。

 最後のマグロのお刺身を食べ終え、すっかり空になったトレーを見つめる。特別な日にしか食べられない味の余韻に浸っていると、ラブが口を開く。

「海が、恋しいわ」

 彼女の唇は、確かにそのように動いた。

「……え?」

 ふと漏れた同居者の本音に僕は動揺する。静かな一室に、ちゃぷちゃぷと尾ひれが人工海水を動かす音が反響した。

「あはは、なんでもないの。ただ、こうも長い間故郷から離れていると寂しいって感情が浮かんでくるのよ。人間もそうでしょう? ホームシックってやつかしら」

 少しの静寂が風呂場に漂う。

「大丈夫、きっとすぐ終わるから。心配しないで」

 ラブはそう言って微笑む。その笑みさえ純粋に受け取れない僕がいた。
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