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「水族館? 説明されたけどあんなところただの地獄じゃない! 狭すぎる上に人間に見られるだなんて、耐えられないわ! 私は敵のいないところで静かに暮らしたいだけなのよ!」

 人魚は頬を膨らませて反抗している。

「でも、安全は保証される。毎日餌がもらえて、住むところもある。それじゃあだめなのか?」

 父が聞いても人魚は眉を寄せたままだ。

「だめ! 餌ですって? そんなもの食べたくないわ! どうせまずいんでしょう?」
「じゃあ、ご飯だったらいいの? おいしいご飯なら」
「おいしければ……まぁ、いいけど……」

 僕の問いかけに人魚は眉をひそめた。

「おいしいご飯を約束する。うちに来ればいいよ!」

 にこやかに笑いながら、僕は提案した。曇り空の下の海がざぱんと波音を響かせる。

「朝陽、なに言って……」
「風呂場に住んでもらえばいいじゃん! ちょっと狭いかもしれないけどご飯はあるよ!」

 妙案を披露する僕に、父は大きくため息をついた。

「あのな、朝陽。こんなこと言いたくないが、うちは三人食っていくので精一杯なんだ。しかも人魚のせいで風呂に入れないだって? そんなのこっちが耐えられない。冗談はよせ」

「そっか。じゃあ、僕そろそろ引っ越すじゃん。そこに連れていく!」

 父は口を開けたまま固まった。僕はとにかく彼女と一緒にいたいという願望を叶えることに夢中だった。どうにかして、水族館行きを諦めてもらわないと。

「一緒に暮らそう?」
「なにそれ、知らない人間といきなり同棲しようだなんて言われて、首を縦に振ると思う?」
「毎日ご飯が食べられるよ。君はいてくれるだけでいい。なにもしなくていい。それじゃあ、だめかな?」
「……」

 人魚は僕を見たかと思うと水面を見つめ、視線を交互に移している。その様子を見て、僕は立ち直って父に微笑む。

「ね、なんとかなりそうでしょ」
「……そんな同居を許してくれる物件があると思っているのか?」
「あ」

 父の疑問によって、僕の完璧なアイデアは一瞬にして破壊される。割れたアイデアの破片が、僕の頭の中の理想という部分に突き刺さる。

 ここで両者の合意が得られたとしても、住む場所がなければ意味がない。そうしたら人魚ともお別れになってしまう。心奪われた彼女ともう会えなくなるのだ。

 人魚の方を見ると、彼女は僕に視線を向けていた。これから天候が悪化しそうな空の下の荒波のように、スカイブルーの瞳は不安に揺れている。

「一晩ちょうだい!」

 僕は父に願い出る。

「今夜絶対にその物件見つけるから!」
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