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一年前。僕が実家にいた頃。もうすぐ上京するために引越しの準備をしなければいけない頃。
父が困った顔をして帰ってきた。いつも仏頂面な父がそんな顔をしているのが珍しくて、リビングにいた僕は彼に声をかけた。
「どうしたの?」
「……見にくるか?」
僕はゲーム機を置いて父についていく。外は曇天でいまにも雨が降り出しそうだ。父の白いトラックの助手席に乗ると、車が発進する。エアコンの吹き出し口に取り付けた消臭剤のおかげで、父の車はいつも無臭で快適だった。彼は目的地まで連れて行ってくれるようだった。
たまに来る対向車の音が耳につく。曇り空の灰色が父の心情を表しているような気がして、僕は少し不安になる。
「困ったって、どういうこと?」
「見た方が早い」
そう答えると、父はそれ以上話してくれなかった。僕は仕方なくシートに体重を預けた。
トラックが止まったのは、父の仕事場である港だった。ドアを開けると慣れた潮の香りが鼻腔を満たしていく。父は停めてある彼の漁船へ歩いていく。もう仕事の終わった時間なのか、他には人がいなかった。
父は漁師だ。きっと僕も漁師を継ぐのだろうと思って夢を諦めていたら、継いでも継がなくてもどっちでもいいと言ってくれた。だから僕は、漁業とは全然関係のない理系の大学に通っていた。
父は船に乗り込み、僕を手招く。先を進む彼はたまに首を傾げている。不安だということが感じ取れた。
魚倉の蓋を開けると、そこには何かがいた。一メートル五十センチくらいの魚だ。しかし、体の真ん中で色が分かれている。
おや、と僕は目をこする。その上半身は……人間の女性ではないか。
「にん、ぎょ?」
事実を確認するようにぼそっと呟くと人魚は僕の方を向いた。そして水面へ浮上した。
「早く出してちょうだい! こんな窮屈なところ勘弁だわ!」
水色の目が僕をキッと睨む。その瞳の美しさに、僕は一瞬で撃ち抜かれた。思わず人魚を見つめてしまう。僕の視線に気づいた人魚は、僕をねめつけたのちふいと顔をそらした。
父が困った顔をして帰ってきた。いつも仏頂面な父がそんな顔をしているのが珍しくて、リビングにいた僕は彼に声をかけた。
「どうしたの?」
「……見にくるか?」
僕はゲーム機を置いて父についていく。外は曇天でいまにも雨が降り出しそうだ。父の白いトラックの助手席に乗ると、車が発進する。エアコンの吹き出し口に取り付けた消臭剤のおかげで、父の車はいつも無臭で快適だった。彼は目的地まで連れて行ってくれるようだった。
たまに来る対向車の音が耳につく。曇り空の灰色が父の心情を表しているような気がして、僕は少し不安になる。
「困ったって、どういうこと?」
「見た方が早い」
そう答えると、父はそれ以上話してくれなかった。僕は仕方なくシートに体重を預けた。
トラックが止まったのは、父の仕事場である港だった。ドアを開けると慣れた潮の香りが鼻腔を満たしていく。父は停めてある彼の漁船へ歩いていく。もう仕事の終わった時間なのか、他には人がいなかった。
父は漁師だ。きっと僕も漁師を継ぐのだろうと思って夢を諦めていたら、継いでも継がなくてもどっちでもいいと言ってくれた。だから僕は、漁業とは全然関係のない理系の大学に通っていた。
父は船に乗り込み、僕を手招く。先を進む彼はたまに首を傾げている。不安だということが感じ取れた。
魚倉の蓋を開けると、そこには何かがいた。一メートル五十センチくらいの魚だ。しかし、体の真ん中で色が分かれている。
おや、と僕は目をこする。その上半身は……人間の女性ではないか。
「にん、ぎょ?」
事実を確認するようにぼそっと呟くと人魚は僕の方を向いた。そして水面へ浮上した。
「早く出してちょうだい! こんな窮屈なところ勘弁だわ!」
水色の目が僕をキッと睨む。その瞳の美しさに、僕は一瞬で撃ち抜かれた。思わず人魚を見つめてしまう。僕の視線に気づいた人魚は、僕をねめつけたのちふいと顔をそらした。
