3
目的の駅で降りる。田舎にしては大きめの駅だろう。降りる人は都会に比べたら少ないが、確かにいた。ここで降りろと言われているけれど、でも僕は相手の見た目も声も知らない。どうすればいいのだろう。
他の人がホームからいなくなる。ホームの時計の針が二十一時を指している。電灯は少なく、都会よりも暗く、夜は静けさを増す。上京する前飽きるほど聞いていた、夏の夜の虫の声だけが聞こえる。人の立てる物音のしない駅でぽつんと取り残された僕は、ただひとり立ちつくす。
「鳴瀬朝陽」
落ち着いた低い声。振り返ると、知らない男性がそこに静かに立っていた。彼は中肉中背で黒いスーツを着ている。電話の声と同じ温度の冷たそうな表情が目についた。見たところ外国人ではないが、知らない顔だった。
こいつが、ラブをさらったのか。その無表情は、見れば見るほど憎悪が湧く。
「お前、僕の同居人を……!」
「……ついてこい」
怒りを露わにしても、男の表情は変わらない。彼は駅の出口へ歩いていく。仕方なくその後ろをついていく。ホームにある駅弁屋にはシャッターが降りており、男の履いている尖った黒い革靴の音が耳についた。
改札を出て切符売り場を抜け、外に出ると車が止まっていた。黒いワゴン車だった。
「乗れ」
それだけ男は言うと、助手席のドアを開けた。言われたとおりに乗り込むと、男も運転席に座る。ドアが閉まる。父のトラックとは違い、車特有の匂いがした。
そして男はおもむろに足元のカバンから、黒く太い一メートルくらいのリボンを取り出した。
「目隠しをする」
「え、いや、困るんですけど」
「……従わないと人魚の命はないぞ」
低い声の男の脅しに僕は従うしかなかった。大人しくリボンをつけてもらう。頭の後ろできゅっと縛る感覚があった。薄い布なら透けて見えるかもしれないと思ったが、何も見えない。頭を動かすと、明暗だけがほのかにわかった。
「出るぞ」
ワゴン車が動き出す。エンジンの振動を感じる。窓の外の方に顔を向けると、等間隔で光が過ぎていく。電灯だろうか。
他人の車に乗るのは久しぶりだ。上京してから電車と徒歩でなんとかなってしまっているから。一体どこに連れていくのだろう。僕はラブを心配しながら、どんなことが待ち受けているのだろうかと恐怖に体を震わせた。
車が止まる。何回か交差点で停止しているだろうけど、この男は運転がうまい。静かなブレーキだった。きっと運転に慣れているのだろう。
なぜか、波の音がする。
他の人がホームからいなくなる。ホームの時計の針が二十一時を指している。電灯は少なく、都会よりも暗く、夜は静けさを増す。上京する前飽きるほど聞いていた、夏の夜の虫の声だけが聞こえる。人の立てる物音のしない駅でぽつんと取り残された僕は、ただひとり立ちつくす。
「鳴瀬朝陽」
落ち着いた低い声。振り返ると、知らない男性がそこに静かに立っていた。彼は中肉中背で黒いスーツを着ている。電話の声と同じ温度の冷たそうな表情が目についた。見たところ外国人ではないが、知らない顔だった。
こいつが、ラブをさらったのか。その無表情は、見れば見るほど憎悪が湧く。
「お前、僕の同居人を……!」
「……ついてこい」
怒りを露わにしても、男の表情は変わらない。彼は駅の出口へ歩いていく。仕方なくその後ろをついていく。ホームにある駅弁屋にはシャッターが降りており、男の履いている尖った黒い革靴の音が耳についた。
改札を出て切符売り場を抜け、外に出ると車が止まっていた。黒いワゴン車だった。
「乗れ」
それだけ男は言うと、助手席のドアを開けた。言われたとおりに乗り込むと、男も運転席に座る。ドアが閉まる。父のトラックとは違い、車特有の匂いがした。
そして男はおもむろに足元のカバンから、黒く太い一メートルくらいのリボンを取り出した。
「目隠しをする」
「え、いや、困るんですけど」
「……従わないと人魚の命はないぞ」
低い声の男の脅しに僕は従うしかなかった。大人しくリボンをつけてもらう。頭の後ろできゅっと縛る感覚があった。薄い布なら透けて見えるかもしれないと思ったが、何も見えない。頭を動かすと、明暗だけがほのかにわかった。
「出るぞ」
ワゴン車が動き出す。エンジンの振動を感じる。窓の外の方に顔を向けると、等間隔で光が過ぎていく。電灯だろうか。
他人の車に乗るのは久しぶりだ。上京してから電車と徒歩でなんとかなってしまっているから。一体どこに連れていくのだろう。僕はラブを心配しながら、どんなことが待ち受けているのだろうかと恐怖に体を震わせた。
車が止まる。何回か交差点で停止しているだろうけど、この男は運転がうまい。静かなブレーキだった。きっと運転に慣れているのだろう。
なぜか、波の音がする。
