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電車を乗り継いで二時間、海って意外と近いもんだ、と僕は思う。アプリを起動してラブと通話する準備をする。真夏の海にさんさんと照りつける太陽はものすごく暑くて、早くしないと熱中症になってしまいそうだった。
少し考えたのち、大家さんのアイデアを試してみようと思った僕は、その日のうちに海に来ていた。夏のビーチは混んでいる。カップルや家族連れの水着姿であふれる中、適当な服のおひとり様の僕は周りから浮いているように見えているだろう。
繁忙期でも、海はあのときラブと出会ったときの海と変わらず、波は寄せては返していく。その音も心地いい。そこは同じで、僕は懐かしい気持ちになった。潮の香りも毎日風呂場で嗅いでいるけれど、やっぱり本物は違う。
「ラブ、見える?」
僕は画面に向かって話しかける。ラブが液晶越しににこりと笑う。
「えぇ、見えるわよ」
「じゃあ、いくよ……」
僕はインカメラからアウトカメラに変えた。小さな画面に海が映る。通信エラーになることもなく、通話アプリはしっかり動いている。
「海だよ!」
「おー……」
ラブは水色の瞳をぱちぱちさせて、画面に顔を近づけた。それは期待していたリアクションではなかった。ラブはまだじっと画面の海を見つめている。僕のスマホのカメラ越しに見える、真昼の日差しが降り注ぐ海を。
大丈夫かな。たくさんの人の声で騒がしい中、僕ら二人の会話は穏やかな海よりずっと静かだった。額から汗がつたった。
「どう、かな」
「ナル。もっと近づいて。スマホが濡れるぎりぎりまで」
僕は言われた通りに波打ち際まで歩いて、カメラを水面ぎりぎりまで近づける。波が来ると砂の色が濃く変わる。そして砂に海水がしみこんでいく。また次の波が来る。
「次は海水をすくってみて」
「こう?」
海水をすくう。ぬるい。そして落とす。繰り返す。ちゃぱちゃぱと音がした。
傍から見たら僕は変な人だろう。一人で海に来て、スマホを水面に近づけてなにか会話している。でも、僕はラブと会話しているのだ。このスマホを使ったやり取りは、二人しか知らない。
「ナル」
次は何だろう、と不安でドキドキしているとラブはこう告げた。
「ありがとう。満足よ」
画面を見ると、彼女の口はゆるやかに弧を描いていた。
「本当? こんなもんでいいの?」
「えぇ、大丈夫」
なんだ、僕が海に行けばいいだけだったんだ。僕は安心してはぁ、とため息をついた。
少し考えたのち、大家さんのアイデアを試してみようと思った僕は、その日のうちに海に来ていた。夏のビーチは混んでいる。カップルや家族連れの水着姿であふれる中、適当な服のおひとり様の僕は周りから浮いているように見えているだろう。
繁忙期でも、海はあのときラブと出会ったときの海と変わらず、波は寄せては返していく。その音も心地いい。そこは同じで、僕は懐かしい気持ちになった。潮の香りも毎日風呂場で嗅いでいるけれど、やっぱり本物は違う。
「ラブ、見える?」
僕は画面に向かって話しかける。ラブが液晶越しににこりと笑う。
「えぇ、見えるわよ」
「じゃあ、いくよ……」
僕はインカメラからアウトカメラに変えた。小さな画面に海が映る。通信エラーになることもなく、通話アプリはしっかり動いている。
「海だよ!」
「おー……」
ラブは水色の瞳をぱちぱちさせて、画面に顔を近づけた。それは期待していたリアクションではなかった。ラブはまだじっと画面の海を見つめている。僕のスマホのカメラ越しに見える、真昼の日差しが降り注ぐ海を。
大丈夫かな。たくさんの人の声で騒がしい中、僕ら二人の会話は穏やかな海よりずっと静かだった。額から汗がつたった。
「どう、かな」
「ナル。もっと近づいて。スマホが濡れるぎりぎりまで」
僕は言われた通りに波打ち際まで歩いて、カメラを水面ぎりぎりまで近づける。波が来ると砂の色が濃く変わる。そして砂に海水がしみこんでいく。また次の波が来る。
「次は海水をすくってみて」
「こう?」
海水をすくう。ぬるい。そして落とす。繰り返す。ちゃぱちゃぱと音がした。
傍から見たら僕は変な人だろう。一人で海に来て、スマホを水面に近づけてなにか会話している。でも、僕はラブと会話しているのだ。このスマホを使ったやり取りは、二人しか知らない。
「ナル」
次は何だろう、と不安でドキドキしているとラブはこう告げた。
「ありがとう。満足よ」
画面を見ると、彼女の口はゆるやかに弧を描いていた。
「本当? こんなもんでいいの?」
「えぇ、大丈夫」
なんだ、僕が海に行けばいいだけだったんだ。僕は安心してはぁ、とため息をついた。
