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翌日。土曜日の朝は近所の小学生の遊ぶ声が聞こえて、普段静かな住宅街は少しだけにぎやかだ。僕はぐるぐると答えの出ない疑問に頭を悩ませながら、一〇一号室のインターホンを押していた。
「はーい」
「鳴瀬です。同居人のことで相談があって」
「鳴瀬くん? 今行くね」
インターホン越しの声は相変わらず軽やかで、僕は安心する。ドアが開くと、そこにいるのは茶髪のミディアムヘアーの女性。オレンジのサマーニットに青いデニムを履いていて、僕を出迎えるようにふんわりとした笑顔をしている。いつもと変わらない大家さんがいた。
「なにか困りごと?」
「それが……」
僕はラブが海に行きたいと言っていることを話した。
「そんなに海に行きたいなら別れちゃえばいいのに」
「えっ、いや、それは……」
確かにそれができればラブは楽になるかもしれないけど、僕は。……僕は?
「なんてね、わかってるわ。だからこのアパートにいるんでしょう?」
大家さんは少し考えたのち、ピコンとひらめいた顔をして僕の疑問にこう答えた。
「鳴瀬くんが海に行けばいいじゃない!」
「えっ」
僕が行ったところで、それがラブの悩みの解決にどうやって繋がるのだろう。
「海に行った鳴瀬くんが海を実況中継すればいいんじゃない? ビデオ通話で。どうかな?」
「ビデオ通話、ですか……」
ビデオ、という言葉を聞いて、スマホで海の映像を見せたときのラブの顔が思い浮かんだ。大家さんには申し訳ないけど、どうせこのアイデアもスマホの二の舞になる気がする。だってラブが望んでいるのは本当の海だから。
でも、どうしたらいい? また活魚運搬車を頼む? 僕の貯金が吹っ飛ぶことを百歩譲って考えても、もし業者にバレたら? 前は父の知り合いに秘密にしてくれるよう頼んだから大丈夫だったけど、その連絡先を僕は知らない。父にまたお願いしてもいいが、父は同棲に反対していた。だから断られる気がする。もし運べたとしても、その先で他の人に目撃されてしまったら?
湧き上がる不安に思考を支配されて言葉を出せないでいると、大家さんは「鳴瀬くん」と声をかけてくれた。僕ははっとなって不安の海から這い上がる。
「まぁ、あくまでアイデアだからね。実行するかは鳴瀬くん次第。……うちのは人間に擬態できるからねぇ……大変ね、鳴瀬くんのところは」
そう言って大家さんは苦笑いする。確か、大家さんの旦那さんも人じゃないんだっけ。どんな人……いや、生き物だったか思い出せない。
「……そうだ、ラブちゃんは元気? 人工海水の入れ替え、いつでも手伝うからね」
大家さんは本当に生き物に詳しい。浴槽にはってある人工海水、最初は大家さんに準備してもらったんだっけ。
僕は「ありがとうございます」と感謝を伝え、一〇一号室をあとにした。
「はーい」
「鳴瀬です。同居人のことで相談があって」
「鳴瀬くん? 今行くね」
インターホン越しの声は相変わらず軽やかで、僕は安心する。ドアが開くと、そこにいるのは茶髪のミディアムヘアーの女性。オレンジのサマーニットに青いデニムを履いていて、僕を出迎えるようにふんわりとした笑顔をしている。いつもと変わらない大家さんがいた。
「なにか困りごと?」
「それが……」
僕はラブが海に行きたいと言っていることを話した。
「そんなに海に行きたいなら別れちゃえばいいのに」
「えっ、いや、それは……」
確かにそれができればラブは楽になるかもしれないけど、僕は。……僕は?
「なんてね、わかってるわ。だからこのアパートにいるんでしょう?」
大家さんは少し考えたのち、ピコンとひらめいた顔をして僕の疑問にこう答えた。
「鳴瀬くんが海に行けばいいじゃない!」
「えっ」
僕が行ったところで、それがラブの悩みの解決にどうやって繋がるのだろう。
「海に行った鳴瀬くんが海を実況中継すればいいんじゃない? ビデオ通話で。どうかな?」
「ビデオ通話、ですか……」
ビデオ、という言葉を聞いて、スマホで海の映像を見せたときのラブの顔が思い浮かんだ。大家さんには申し訳ないけど、どうせこのアイデアもスマホの二の舞になる気がする。だってラブが望んでいるのは本当の海だから。
でも、どうしたらいい? また活魚運搬車を頼む? 僕の貯金が吹っ飛ぶことを百歩譲って考えても、もし業者にバレたら? 前は父の知り合いに秘密にしてくれるよう頼んだから大丈夫だったけど、その連絡先を僕は知らない。父にまたお願いしてもいいが、父は同棲に反対していた。だから断られる気がする。もし運べたとしても、その先で他の人に目撃されてしまったら?
湧き上がる不安に思考を支配されて言葉を出せないでいると、大家さんは「鳴瀬くん」と声をかけてくれた。僕ははっとなって不安の海から這い上がる。
「まぁ、あくまでアイデアだからね。実行するかは鳴瀬くん次第。……うちのは人間に擬態できるからねぇ……大変ね、鳴瀬くんのところは」
そう言って大家さんは苦笑いする。確か、大家さんの旦那さんも人じゃないんだっけ。どんな人……いや、生き物だったか思い出せない。
「……そうだ、ラブちゃんは元気? 人工海水の入れ替え、いつでも手伝うからね」
大家さんは本当に生き物に詳しい。浴槽にはってある人工海水、最初は大家さんに準備してもらったんだっけ。
僕は「ありがとうございます」と感謝を伝え、一〇一号室をあとにした。
