ふたりぼっちの裂ケル

 冷凍パスタを電子レンジに入れる。時間を合わせる。いつもならしっかり作るところだが、疲れているから仕方ないと割り切る。

「姉ちゃーん、ご飯だよー」
「……はーい」
 少し遅れて、くぐもった返事が聞こえる。数分後、姉ちゃんが部屋から出てきた。薄茶色のふわふわの髪に茶色いくりっとした瞳、縁の細い大きな丸眼鏡。

「ありがとねぇ」
 へにゃ、と笑う姉ちゃん。部屋着をダボっと着ている。毛玉がついている。今度新しい服を買いに行こう。

「いいって」
 姉ちゃんは集中すると本当に部屋から出てこないから、俺が呼ばないといけない。

「食べますか」
「食べようか」
 椅子に座る。四角い机に、二人だけの椅子。

「いただきます」
 今日の夕飯はしらすのパスタだ。フォークに麺をくるくると絡める。

「今日も会社お疲れ様」
「ありがとう」
「へへ」
「姉ちゃんこそ打ち合わせあったんだろ? お疲れ様」
「ありがとね、|駆《かける》」
「ははっ、いえいえ」
 姉ちゃんは家で仕事をしている。いわゆる在宅勤務ってやつだ。

「どう? 作曲の調子は」
「ん〜……そこそこって感じ。まぁ普通だよ」
「そうか」
 姉ちゃんの仕事は作曲。いや、作編曲と言うべきか。俺は音楽関係はあまり知らないから、よくわからない。

 後藤沙也香。名の知れている作曲家だ。この前なんか、年末の歌番組に「作曲:後藤沙也香」というテロップが五回も入った。人気のあるバンドや歌手に曲を提供している。

 そのほかにも、姉ちゃんは「裂ケル」として活動している。こっちは完全に趣味の活動で、作曲だけでなくアニメーションも作っている。才能を遺憾なく発揮している。ちなみに、裂ケルというのは、姉ちゃんの沙也香のさ、と俺の駆のけるを繋げて作ったのだそうだ。

 対して俺は、普通の会社員。なんの才能もない、ただの会社員だ。つまらない仕事を毎日こなすだけ。
 それでも、帰れば姉ちゃんがいる。たったそれだけのことで、俺は頑張れるんだ。

 このパスタうまいな。今度また買い足しておこう。姉ちゃんもおいしそうに食べている。
 姉ちゃんの笑顔を見ながら食べていると、いつの間にか皿は空になっていた。

「ごちそうさま。皿洗いやっておくよ」
「駆、ありがとねぇ。本当助かってるよ」
「いや、別に……」
「私がやったらお皿割っちゃうもんね」
「確かにな」
 姉ちゃんは椅子に座ってぼーっとし始めた。そしてがくっと机に突っ伏した。
 ……今日も体力ぎりぎりまでやっていたのか。心配だな。

 俺は皿を洗う。姉ちゃんはちゃんとお昼を食べたみたいで、昨日の残りもののケチャップの付いた皿が流しに置かれていた。
 部屋に水の流れる音が響く。静かな夜だった。
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