ノイズな僕は生きてはいけない

 生きることに、疎外感を感じている。
「またベストヒットですね! 後藤さん、すごいです!」
「……はい」
 喉から出たのは低く、小さな声。窓のない面談室で一人、褒め言葉の豪速球を受け止めていた。温かくなってきたから、クーラーの音すら響かない。明るい声が鼓膜の内側にぐいぐい入ろうとする。
「劇伴を担当されたアニメも売れ行き好調で、この調子なら覇権だとか……これは素晴らしいことですよ!」
「……はい」
 シミもクマも一つもない陶器のような肌に、主張の控えめなメイク。ヘアアイロンで整えられた髪の毛は、僕のそれと違って広告のモデルのようにまっすぐだ。
 仕事という場にふさわしい美を、女性は身にまとうべき。
 そんな言葉が似合う女性の前には、十数年前にやめた、ネトゲで染みついた隈を隠しもしないすっぴんの僕。社会人女性として失格の烙印を押されかけている気がする。視線を逸らしながら肯定の返事をするので精一杯だった。
 劇伴、との言葉を聞いて、ついこの前音楽を担当したアニメのことを思い浮かべる。独特な世界設定で、原作を読みながらその物語の魔力に引き込まれていた。
 アニメの劇伴の仕事は好きだ。引きこもりのときアニメをたくさん見て助けられたから。作曲家のインタビュー記事がおもしろくて、その道を目指そうと志したのだ。
 どんな作品でも、その場面に合った音楽を作り、提供する。世界観を壊さぬよう、アニメーションや声優の声も邪魔しないように。それでいて、監督からのゴーサインが出るものを。
 今でもアニメは見ている。僕が関わった作品はもちろん、ほかのものも見る。同業者の作品を分析するためという側面も少しあるが、シンプルに、消費者として楽しんでいる。物語に浸っているときだけは、すべてを忘れられるから。
 残りは惰性だ。惰性の方がウケている。年末の番組で聴くような、いわゆる大ヒットと呼ばれるような、僕の作った曲。大きな街の大きなビルの大きな液晶パネルから大きな音で聞こえてくる曲。それを聴くとみんな歌手に注目していて、作編曲するだけの僕なんて、ただの脇役なのに。
 どうしてこの人は僕を褒めるのだろう。
 仕事がウケているから、インタビューも何度も受けている。本当は顔出しだなんて嫌だけど、お金になるから承諾の返事をする。そこに必ず描かれるのは、「天才」という文字。
 僕は天才なんかじゃない。
 そのへばりついた肩書きを見てか、講師の仕事をしないか、と母校の専門学校から何度もメールが送られてくるが、すべて断っている。
 僕にとっては作ることは、生きること。作曲が命綱なのだ。
「ところで、後藤さん」
 来た。毎回ではあるがこの鋭い切り出しに、僕は身を縮こまらせる。
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