X高校文芸部リレー小説「扉」

6 さるすべり(三年)
「お兄様、何を躊躇っているの?」
 あおいは僕に囁く。耳がこそばゆい。

「キスがそんなに怖いの?」
「違うんだあおい、僕は、僕は」
「なに?」
「……なんでも、ない」
「そう」

 あおいは黒いドレスに身を包んで、僕を誘惑しようとしていた。
 ここは都会、ホテルの一室。大きなキングサイズのベッドが僕たちをまだかまだかと待っている。

 あおいはため息をつく。なんだかそれだけで僕は興奮してしまって、実の妹なのにいいのだろうかと僕は熱で回らない頭で考えてしまう。

「お兄様、キス、しましょう?」
「だめだよ、あおい。僕たちは兄妹なんだから」
「それがなんだっていうの? 愛さえあれば、どんなことでも覆すことができるわ」

 ふふ、とあおいは笑う。
「ねぇ、一回だけよ。それ以上はもうしないから」

 この攻防で、僕は一回だけならいいか、と半ば諦めのような感情を抱いていた。

 あおいの唇はやわらかくて、熱を持っていた。僕はかさかさの唇だったから、急に自分が恥ずかしくなった。

「お兄様。好きよ」
 口づけを交わして、あおいは愛の告白をする。

「僕もだよ、あおい」
 今まで嘘をついていたけれど、あおいのことは本当に大好きなんだ。こうやってキスも交わしてしまうくらいに。兄妹で結婚できたらいいのにな、なんて思ってしまう。

 妹が僕を見つめている。彼女の黒い瞳の中に映る僕が、だんだんと歪んでいく。
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