X高校文芸部リレー小説「扉」

4 まがつ 影流かげる(三年)
「勇者様ですか!?」

 俺は目の前の老人から聞かれた。そんなわけない。

「違いま……」
「おぉ、勇者さまじゃ……! 何百年に一度の存在が……!」
「は? ってかここはどこなんだ」
「あぁ、勇者様……。ここは、聖チェアエル寺院でございます……!」

 聖チェアエル寺院。聞いたこともない。もしかして、これが
「異世界転生、ってことだね! おにいちゃん!」
「げ」

 こいつ、まだついてきてたのか。ぎゅーと俺に抱きついている。少し前までフラペチーノを飲む可憐で健気な妹だったというのに。今回は甘えん坊のパッシブスキルをもっているのか。

「勇者様。今からギルドに行ってステータスの確認をしてはいかがですか?」
「それもいいな。せっかく転生しちゃったんだし、早速確認しに行こう」
「わたしも行くー!」
「はいはい」
 やれやれ。まぁ妹の分のステータスも一緒に調べてもらおう。

 寺院は山の奥にあったらしい。城下町も近く、参拝者は後を絶たないのだそうだ。なんでも、ここに来ると光属性の魔法をマスターできるとかなんとか。聖ってついているし、寺院はそういった魔法に特化しているのかもしれない。

 山を降りて、城下町に着く。町はいろいろな格好をした人間で溢れかえっていた。
「迷子になりそうだな」

 俺がぼやいて隣を見ると、なんと妹がいない!

「妹!?」
 名前を叫ぼうにも名前がわからない! だから俺は「妹!」と叫ぶことしかできない!

「いもうとー! いーもーうーとー!」
 叫びながら歩く。皆が俺のことを不審者だと思って避けられる。これじゃ、ギルドで「さっき叫んでた人でしょ、「妹!」って」と言われかねない!

「おにーちゃん!」
 妹は露店を物色していて、声に気がつくとすぐ走って戻ってきた。

「もう、勝手に行動するな!」
「わかったよー。ごめんね、おにいちゃん」
「わかればいい」
 妹はしゅんとしている。

「じゃ、ギルド行きますか」
「うん」

 てくてくと二人で町を歩く。目の前には大きな城が見えていて、城下町なんだなぁと実感させられる。

「おにいちゃん、ここじゃない?」
「ん?」

 ギルド、と木の看板がくっついたその建物は、かなり大きかった。人が集まるところだから当然か。
 からんからんとベルを鳴らしながら入ると、受付のお姉さんが「いらっしゃいませ!」と頭を下げた。

「あの、ステータスを見てほしいんですが」
「わかりました! お客様はギルドは初めてですか?」
「はい」
「じゃあ、説明いたしますね!」

 結論から言うと、お姉さんの説明は非常に長かった。妹は寝ていた。適当にまとめてみよう。

 クエストを受注し、達成すると報酬がもらえ、ギルドポイントももらえる。
 ギルドポイントがある一定値に達すると、冒険者のランクが上がる。
 ランクが上がれば、危険だがもっと報酬の多いクエストに参加できる。

 こんな感じだ。
 つまりできそうなクエストを探し、地道に報酬を稼いでいこう。こういうことだ。

「ふーん」
「おにいちゃん、わたし全然わからない」
「ま、そのうちわかってくるだろう」

 妹は「えー」と不満げである。小さい子には理解できないのも無理もない。俺だって、元いた世界で異世界転生モノを読んでいなければ、難しかっただろう。

「それでは、ステータス測定しますね!」
 お姉さんは目の前の透明な箱の中に立つよう言う。ここに入るだけでステータスが測れるのだそうだ。ハイテクだな。

 中に入ると、妹がついてきた。
「あ、妹さんはあとでやりましょうね」

 お姉さんに引き剥がされる妹。
「やだー! おにいちゃんと一緒がいいー!」
 箱の外からくぐもった声が聞こえた。

 数分後。

「ステータス測定終了です! ギルドカード発行まで少し時間がかかりますので、お待ちくださいね。妹さん、いきますよ」
「うん。わかった!」

 妹はあの透明な箱に入った。いやいやでもなく、するりと。新しいものって楽しいよな。わかる。

「えぇっ!」
 お姉さんの声が聞こえた。驚きの声だった。何があったのだろう。まさか俺のステータスがゴミクズだったのか!?

 十数分後。お姉さんがカードと紙を持ってきた。
「こちらがお兄様、こちらが妹さんになります」
「わーい!」
「ありがとうございます」

 カードは光の反射でキラキラ輝く仕様になっている。早速読んでみると、職業:勇者と書かれていた。得意属性は光。俺は寺院での爺さんが言っていたことと同じで驚いた。

「ゆーしゃだって! おにいちゃんも?」
「おお。妹もか?」
「うん! 見て見て」

 カードを交換する。確かに妹のカードにも勇者と文字が刻まれていた。名前はあおいと書いてある。

「あおい、なのか?」
「うん? そうだよおにいちゃん」

「兄妹そろって勇者だなんて、おもしろいよな」
 妹にカードを返す。自分のカードを妹からもらう。

「珍しいんですよ、きょうだいで勇者なんて」
 先ほど驚きの声をあげていたお姉さんに話しかけられる。

「そうなんですか」
「はい。きっと世界を救ってくれる、いい勇者になることを祈っております」
 お姉さんはにこりと微笑んだ。

「おし、じゃあ早速クエスト行きますか」
「いいね! どれにする?」

 ギルド内の掲示板はランクごとに分かれていて、どれを見ればいいかすぐわかるようになっていた。俺たちはFランクだから、このグレーの掲示板だ。

「これにするか?」

 討伐:スライム20体
 推奨レベル:1
  スライムを狩って狩って狩りまくってください!

「これなら、わたしたちでもいけそうだね」
「お姉さん、これお願いします」
「はーい! あ、勇者様、もしかして武器持ってないですよね」
「あ、確かに」
「わすれてた〜」

「すぐそこに武器屋があります。この依頼はとっておきますので、装備も終わったら声をかけてください」
「はーい」

 さ、俺たちの冒険はまだ始まったばっかりだ! まずは武器! いくぞー!
 ギルドのドアを開ける。どんな武器たちが俺を迎えてくれるのだろうか!
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