青瞳の戦闘人形

 十年後。
 目の前には黒髪の戦闘人形がいる。電源を入れる。目が開く。黒い瞳の中には照準がデザインされている。

「おはようございます、ご主人様。今日は何をいたしましょう?」
 異常なし。

「ご主人様?」
 電源を切ると、ロボットは目を閉じた。

 私はロボットの技師として働いていた。出荷前の最終点検ってやつだ。
 父がリストラされて大学に行けなくなった。だから、独学で機械工学を学んでそれなりの職場に就いた。

 満足はしている。かつての友人の改良型を作るなんて、気分はあまりよくない。でも、そんな感覚にも麻痺してしまっていた。

「アヤさん」
 振り返ると、後輩がいた。バイトの女性だ。

「これ、不良品です」
 指さした先にはエラーメッセージを吐き続けるロボットがいた。

「わかった。ありがとう」
 私はロボットの元へ歩き、「大丈夫だよ」と心の中で言って聞かせる。電源を切り、台車に乗せてメンテナンス室へ運ぶ。

 部屋のドアを開ける。ふわり、オイルの香り。綺麗な点検室とは違う。でも、私はこっちの方が好きだ。部屋には誰もいないし、メンテナンスできるのは私だけだから、人が来ることはあまりない。実質私だけの作業室だ。

 パソコンとロボットの首元のケーブルを繋ぎ、エラーを細かく見る。原因を特定し、私はパソコンをいじったり蓋を開けて中をいじったりして最後の修正を行う。

 おもむろに作業着のポケットから自作の青いチップを取り出し、埋め込む。元の状態に戻す。電源を入れると、「おはようございます、ご主人様」と返ってきた。
 問題なし。電源を切る。

 私はこっそりとプログラムを改変している。あの青いチップの中には、彼らロボットがひとりぼっちになったときに誰も襲わないようにするというプログラムが入っている。

 こうすれば、人々からの偏見もなくせる……かもしれない。「いつ暴れるかわからない」という不安を取り除けるように。攻撃の対象にならないように。そんな微かな希望を持って、不良品を改良している。

 道具を片づけ、台車に乗せ、部屋を出る。また繰り返しだ。
 それでもいい。戦闘人形に携われるのなら。

 私は一人の友達を思い浮かべる。静かで、瞳が綺麗で、優しくて。博物館にいる彼女は、今日もうまくやっているだろうか。

「リュシー、元気かな」
 みんなの作業する音に、私の独り言が混じって消えた。
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