青瞳の戦闘人形
一週間が経った。私は毎晩食事を届け続けた。
ビスケットはもちろん、キャンディーにチョコレート、パンなどなど、色々なものを食べてもらった。食べて欲しかった。せっかくこっちの国にいるんだから、あっちの国では食べられないものを食べて欲しいと思ったのだ。
おこづかいは減る。でも、リュシーのためだからいいんだ。
周りの大人はまだ気づいていないようだ。博物館も「脱走したロボットを探しています」という張り紙を出すくらいで、特に人を動員しているわけではなさそうだった。
リュシーが壁を登り、私は周りの監視をする。そして、食事をとるのだ。その食事の間に少しだけ二人で会話する。たったそれだけの数分の時間が、私の楽しみになっていた。
「リュシー」
「なんでしょうか、お嬢様」
リュシーはキャンディーを噛み砕いている。パキッと小気味いい音がする。
「大人って嫌い?」
口の動きを止め、リュシーは少し考えていた。
「嫌いです」
「本当? 一緒だね!」
「ですが……私の『嫌い』とお嬢様の『嫌い』は少し違うかもしれません」
どういうことかな。首を傾げる。
リュシーはぼそぼそと話し始めた。
「私はどちらかというと……その……『叛逆』とか『憎しみ』に近いものです」
はんぎゃく? にくしみ? まだ子供の私にはよくわからない。
「リュシーは……難しい言葉を知っているんだね」
「まぁ……辞書のデータは全て入っておりますが」
すごいなぁ。感心していると、リュシーは含み笑いをした。
「不良品の個体を展示するなんて、あの館長なかなか趣味悪いと思いますよ」
博物館の館長には会ったことがある。優しそうなメガネのおじさんだ。悪い人には見えない。けど、リュシーからしたらあまり好きになれないのも当然のことだと思う。だって、飾っちゃうんだもん。見せ物にしちゃうんだもん。展示と言えば聞こえはいいけど、それはただの館長の趣味だ。隣の国に返しておけば、今頃リュシーは幸せなのかもしれないのに。
考えていると、「お嬢様」と声をかけられた。
「お嬢様は、大人のどこが嫌いなのですか」
ママ。パパ。大人って聞くとこの二人を真っ先に思い浮かべる。いつも私のことを見ている、近いところにいる、親という役目を抱えた二人。
「厳しいところかな」
周りの子供は遊んでいるのに勉強ばかりさせられていること、少しでもサボると怒鳴られること。そんなことをリュシーにぽつぽつと話した。
リュシーはキャンディーをゆっくりと舐めながら、静かに聞いてくれていた。
「それで、私ね。今、あなたと会うことしか楽しみがないの。だから、その。なんていうのかな」
続ける言葉が見つからない。こんなこと、言ってしまっていいのか。
「あなたと、一緒にいたいなって思うの」
「左様ですか」
いつの間にか泣いていたみたいで、私は涙を拭う。
「お友達に、なってくれない?」
「……構いませんよ。私なんかでよければ、ですが」
「本当?」
「えぇ」
「ありがとう!」と言うと勝手に口角が上がってしまった。嬉しい。初めてのお友達、かもしれない。ちゃんとした、ぐちゃぐちゃな人間関係のない、お友達。いじめられることのない、本当のお友達。
相手は、敵国のロボットだけど。
「では、今日はここまでといたしましょう。私はまた、身を隠します。おやすみなさい、お嬢様」
「リュシーもおやすみ!」
ばいばい、と手を振るとリュシーはぺこりとお辞儀をして夜の闇に消えていった。
ビスケットはもちろん、キャンディーにチョコレート、パンなどなど、色々なものを食べてもらった。食べて欲しかった。せっかくこっちの国にいるんだから、あっちの国では食べられないものを食べて欲しいと思ったのだ。
おこづかいは減る。でも、リュシーのためだからいいんだ。
周りの大人はまだ気づいていないようだ。博物館も「脱走したロボットを探しています」という張り紙を出すくらいで、特に人を動員しているわけではなさそうだった。
リュシーが壁を登り、私は周りの監視をする。そして、食事をとるのだ。その食事の間に少しだけ二人で会話する。たったそれだけの数分の時間が、私の楽しみになっていた。
「リュシー」
「なんでしょうか、お嬢様」
リュシーはキャンディーを噛み砕いている。パキッと小気味いい音がする。
「大人って嫌い?」
口の動きを止め、リュシーは少し考えていた。
「嫌いです」
「本当? 一緒だね!」
「ですが……私の『嫌い』とお嬢様の『嫌い』は少し違うかもしれません」
どういうことかな。首を傾げる。
リュシーはぼそぼそと話し始めた。
「私はどちらかというと……その……『叛逆』とか『憎しみ』に近いものです」
はんぎゃく? にくしみ? まだ子供の私にはよくわからない。
「リュシーは……難しい言葉を知っているんだね」
「まぁ……辞書のデータは全て入っておりますが」
すごいなぁ。感心していると、リュシーは含み笑いをした。
「不良品の個体を展示するなんて、あの館長なかなか趣味悪いと思いますよ」
博物館の館長には会ったことがある。優しそうなメガネのおじさんだ。悪い人には見えない。けど、リュシーからしたらあまり好きになれないのも当然のことだと思う。だって、飾っちゃうんだもん。見せ物にしちゃうんだもん。展示と言えば聞こえはいいけど、それはただの館長の趣味だ。隣の国に返しておけば、今頃リュシーは幸せなのかもしれないのに。
考えていると、「お嬢様」と声をかけられた。
「お嬢様は、大人のどこが嫌いなのですか」
ママ。パパ。大人って聞くとこの二人を真っ先に思い浮かべる。いつも私のことを見ている、近いところにいる、親という役目を抱えた二人。
「厳しいところかな」
周りの子供は遊んでいるのに勉強ばかりさせられていること、少しでもサボると怒鳴られること。そんなことをリュシーにぽつぽつと話した。
リュシーはキャンディーをゆっくりと舐めながら、静かに聞いてくれていた。
「それで、私ね。今、あなたと会うことしか楽しみがないの。だから、その。なんていうのかな」
続ける言葉が見つからない。こんなこと、言ってしまっていいのか。
「あなたと、一緒にいたいなって思うの」
「左様ですか」
いつの間にか泣いていたみたいで、私は涙を拭う。
「お友達に、なってくれない?」
「……構いませんよ。私なんかでよければ、ですが」
「本当?」
「えぇ」
「ありがとう!」と言うと勝手に口角が上がってしまった。嬉しい。初めてのお友達、かもしれない。ちゃんとした、ぐちゃぐちゃな人間関係のない、お友達。いじめられることのない、本当のお友達。
相手は、敵国のロボットだけど。
「では、今日はここまでといたしましょう。私はまた、身を隠します。おやすみなさい、お嬢様」
「リュシーもおやすみ!」
ばいばい、と手を振るとリュシーはぺこりとお辞儀をして夜の闇に消えていった。