大空の下で

「なかなか裁判官も大変?」
「そうだね……でもその分、やりがいもあるよ。責任が強く求められるからね」
 そう言うとセキは水を一口飲んだ。
 私とセキはあるカフェに来ていた。日曜のカフェは混んでいて、予約していなければ座れなかったかもしれない。この店は人気だからだ。特に、そう、スイーツがおいしいのだ。
 私たちは大人になり、それぞれ仕事に就いた。私は花屋の店員。セキはなんと裁判官。私は昔からなりたかった職業だから嬉しいし、セキは私の父親と仕事ができて嬉しいそうだ。
「セキ兄、モニカ姉! いらっしゃいませ」
 エプロンを着たクミが私たちのテーブルに来る。セキが嬉しそうに小さく手を振る。私もにこっと微笑む。
「お仕事お疲れ様」
「いえいえ、別にわたしはそんな、二人に比べたら」
「でも頑張ってるじゃん。えらいよ、クミ!」
 私が褒めるとクミは恥ずかしそうに微笑んだ。
 あの会議から十数年。天界と地上は行き来が簡単にできるようになった。天使と人間が協力して開発した技術を使って、私たちはものの数分で、しかも無料の移動が可能になったのだ。
 そんな状態だから、もちろん戦争も終結した。国同士が仲良くなったのだ。
 天界は地上の、地上は天界のものがとても良いとわかった。それぞれの国のお偉いさんは「戦争なんかしている場合じゃない、技術の開発に力を注がなければ!」という話になったのだ。
 クミは天界に一人引っ越してカフェを開いた。天使も人間も来ていいし、天使も人間も皆平等に働ける評価の良い店だ。
 クミの褐色の肌にベージュのエプロンがよく似合っている。制服の黒いシャツも。
「クミ、似合ってるよ」
「……セキ兄、照れるって」
「ははは」
「あ! その、ご注文は何にしますか?」
 営業スマイルでクミが聞く。接客が板についている。
「もちろんあれだね」
「決まってる」
 私たちは顔を見合わせ、そしてクミに向かってこう注文した。
「『クミのベリーパイ』で」
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