大空の下で
先生の合図で、みんな飛び降りる。
雲の上から飛び降りる。
私は飛び降りられずにいた。
ここは天使の国。天使しかいない。私も例に漏れず天使だ。頭上には天使の輪が浮いている。これと翼は天使の証だ。人間とは違う。
大人になるための試験があって、それがこの学校のテラスから飛び降りるというものなのだ。そこで翼を出して飛べた者は大人への仲間入り、そうでない者は用済みなのだそうだ。
「モニカ」
先生がこちらに歩いてくる。
先生たちは「用済み」の意味について詳しくは教えてくれない。きっと地面に落ちることを言っているのだろう。つまりそれは……もうこちらへは戻れないことを意味している。
「飛び降りないのか」
「ごめんなさい。飛び降ります」
そう伝えると先生はにこっと笑った。さっきまであんなに険しい顔をしていたのに。
テラスの端まで歩く。今日は風が弱く、試験には最適だろう。
でも、私は。私は生まれつき……。
「早くしてくれないか、モニカ。今年はあと君だけだ」
「すみません」
すぐ下を見ると、同級生たちが私を見つめていた。空は私を拒んでいるように見える。
足がすくむ。震えてしまう。
あぁ、でも。仕方ないのだ。私は何をしようと用済みなのだ。
テラスの床を蹴る。
そもそもないのだからもちろん翼を出すことなどできず、私はそのまま急降下する。みんながじろりと私を見つめる。視線が痛い。風が痛い。
あぁ、落ちるってこんなに怖いんだな。でも、心臓は不思議といつもの速さだ。もう諦め切ってしまっているからだろうか。
目を閉じる。どうせ生き残れないのなら、このまま。
「大丈夫かい?」
背中と膝の裏になにか感触があった。温かかった。重力が私を襲う。地面かと思ったけど、地面じゃない。まだ風を感じる。
ぎょっとして目を開くと、そこには赤髪の青年がいた。他の人より一際大きな翼に天使の輪。輪っかは標準的な黄色ではなく赤みを帯びている。
青年が私を抱えている。
「あ、あなたは……」
その顔はよく知っていた。
「おい、セキ! 何をしている! そいつは用済みだ!」
上の方から声が降ってくる。
「はっはっは! 先生、それっておかしいことだと思いませんか? 僕は貴重な人材が天界からいなくなるのを危惧して、助けたんですよ」
「小言はいい。翼の出せぬものなど、翼のないものなど天界には不要だ! そいつを捨てて戻ってこい!」
「嫌ですねぇ」
そういうとセキは私を抱えたままゆっくりと降下していく。先生の怒鳴り声が段々聞こえなくなってくる。
「え、ちょっと待ってよ。このまま降りるの?」
「そうだけど?」
セキは「それが何か問題でも?」と付け足した。いや、まぁ確かに今戻ると大問題になるけどさ。
雲の上から飛び降りる。
私は飛び降りられずにいた。
ここは天使の国。天使しかいない。私も例に漏れず天使だ。頭上には天使の輪が浮いている。これと翼は天使の証だ。人間とは違う。
大人になるための試験があって、それがこの学校のテラスから飛び降りるというものなのだ。そこで翼を出して飛べた者は大人への仲間入り、そうでない者は用済みなのだそうだ。
「モニカ」
先生がこちらに歩いてくる。
先生たちは「用済み」の意味について詳しくは教えてくれない。きっと地面に落ちることを言っているのだろう。つまりそれは……もうこちらへは戻れないことを意味している。
「飛び降りないのか」
「ごめんなさい。飛び降ります」
そう伝えると先生はにこっと笑った。さっきまであんなに険しい顔をしていたのに。
テラスの端まで歩く。今日は風が弱く、試験には最適だろう。
でも、私は。私は生まれつき……。
「早くしてくれないか、モニカ。今年はあと君だけだ」
「すみません」
すぐ下を見ると、同級生たちが私を見つめていた。空は私を拒んでいるように見える。
足がすくむ。震えてしまう。
あぁ、でも。仕方ないのだ。私は何をしようと用済みなのだ。
テラスの床を蹴る。
そもそもないのだからもちろん翼を出すことなどできず、私はそのまま急降下する。みんながじろりと私を見つめる。視線が痛い。風が痛い。
あぁ、落ちるってこんなに怖いんだな。でも、心臓は不思議といつもの速さだ。もう諦め切ってしまっているからだろうか。
目を閉じる。どうせ生き残れないのなら、このまま。
「大丈夫かい?」
背中と膝の裏になにか感触があった。温かかった。重力が私を襲う。地面かと思ったけど、地面じゃない。まだ風を感じる。
ぎょっとして目を開くと、そこには赤髪の青年がいた。他の人より一際大きな翼に天使の輪。輪っかは標準的な黄色ではなく赤みを帯びている。
青年が私を抱えている。
「あ、あなたは……」
その顔はよく知っていた。
「おい、セキ! 何をしている! そいつは用済みだ!」
上の方から声が降ってくる。
「はっはっは! 先生、それっておかしいことだと思いませんか? 僕は貴重な人材が天界からいなくなるのを危惧して、助けたんですよ」
「小言はいい。翼の出せぬものなど、翼のないものなど天界には不要だ! そいつを捨てて戻ってこい!」
「嫌ですねぇ」
そういうとセキは私を抱えたままゆっくりと降下していく。先生の怒鳴り声が段々聞こえなくなってくる。
「え、ちょっと待ってよ。このまま降りるの?」
「そうだけど?」
セキは「それが何か問題でも?」と付け足した。いや、まぁ確かに今戻ると大問題になるけどさ。
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