第一部
名前変換
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名前とリリー、そしてセブルスの3人は大きな菩提樹の木陰に腰を下ろした。
「それで、2人の最初の魔法薬はどうだった?」
リリーがサンドイッチを頬張りながら聞いた。
「セブルスは凄かったよ。」名前は自分の数々の失態をひた隠しにしながら答えた。
「作るのもクラスで一番早かったし、出来上がりも一番だってスラグホーン先生が褒めてた」
「すごいじゃない!」リリーがセブルスを力いっぱい小突いたので、セブルスは持っていたサンドイッチを落としそうになった。
「こいつのは全然ダメだった」セブルスが照れ隠しをするように、名前の魔法薬に話を移した。「爆発させるわ、飛び散らすわで…」
「でもちゃんと手伝ってあげたんでしょう?」そう言うリリーは、まるでお姉さんのようだと名前は思った。太陽の光を受けて、彼女の赤毛がキラキラ輝いている。
「そうそう、爆発した時もセブルスがすぐに原因を教えてくれたし、牙をすり潰す作業とかはかなり手伝ってもらったよ。かなりっていうか全部…」
名前はセブルスのご機嫌取りのつもりでフォローを入れたが、セブルスがこちらを見る目は相変わらず死んだように無感情だった。
もう何も褒めるまい。名前はそう決心して、サンドイッチを真ん中からガブッと食べた。
「あら、セブ、顔にすすがついてるわ」ふと、リリーがセブルスの額の汚れに気付いて言った。セブルスが自分で触れるのよりも早く、リリーがその汚れを撫でてはらった。
その瞬間、セブルスの顔が赤くなったのを名前は見逃さなかった。
「…ありがとう」小声で呟くセブルスに、リリーがにっこりと笑いかけた。天使のような笑顔だった。セブルスもわずかに口角を上げたように見えた。まるで一瞬時が止まったかのような光景だった。
もしかして、セブルスはリリーの事が好きなんじゃないか?直感的に、ふとそんな考えが名前の脳裏をよぎった。
もしそうだとすれば、今までの言動に全て説明がつく。幼馴染だとか、そんな境遇だけの話ではなく、セブルスにとってのリリーが本当に特別な存在だとしたら…。
名前の視線に気付いたセブルスは、気まずそうに下を向き、黙ってサンドイッチを食べ始めた。
「名前、あなたのことをもっと聞かせてよ」リリーが名前に向き直って言った。「家族の事とか、ホグワーツに来る前の事とか。好きな事とか、誕生日とか」
リリーは新しい友達が出来たことを無邪気に喜んでいるようだった。
名前はリリーに自分のことを話し始めた。自分以外の家族はハッフルパフである事を話すと、リリーは目を丸くして言った。
「あなたがどうしてこんなに親しみやすいのか分かったわ。初めて話した日からスリザリンらしくない子って思ってたの、いい意味でね。」
「そう?…でも、自分でも最近そう思うの。」
名前は思わず本音をこぼした。"スリザリンらしい"セブルスはサンドイッチを食べ終えて、うわの空で聞いている。
入学した日から抱え込んでいた気持ちを、今ここで吐露しても誰も責めないだろう。
「組分け帽子が本当に正しかったのか、不安になってきてる…」名前は胸の内のモヤモヤを打ち明け始めた。寮の友達とあまり気が合わないこと、グリフィンドールへの異常なまでの敵対心や、純血主義についていけないこと…。
「寮が地下で暗いから、朝は起きれないし」不満を語りすぎてしまったと思い、名前はジョークのつもりで笑って言った。しかし、リリーは心配そうな顔でこちらをまっすぐ見つめている。
「そもそも組分け帽子はどうしてあなたをスリザリンに入れたのかしら?」リリーは言った。
セブルスが「頭もハッフルパフ並なのに」と呟いたので、リリーが再び彼を小突いた。
「それが…」名前は迷ったが、リリーになら話しても良いかもしれないと思った。人の心を開かせるような不思議な力が、彼女にはある気がした。
「帽子が、私には何か才能があるとか……それで、それを伸ばすきっかけがスリザリンにあるんだって…」
あの時帽子が何を言ったのか、緊張と動揺で細かい内容は忘れてしまった。だが、「スリザリンにきっかけがある」そう言われた事だけは確かに覚えている。
「それが何の才能かは分からないの?」リリーの問いかけに、名前は首を振った。
「まずはそれが何か知りたいんだけど……魔法薬でないことは確かね」名前は蛇の牙の粉がまだローブについていたのに気付き、それを払いながら言った。よく見ると、セブルスの左腕あたりにも自分が飛び散らした粉の汚れが残っている。名前は気付かないフリをした。
「言い換えれば、そのきっかけはスリザリンにだけある、って事よね?」リリーは首をかしげた。「スリザリンにしかないものって何かしら?ねえ、セブ、あなた入学前からスリザリンに詳しいじゃない。何か知らない?」
「さあ…」真剣に考える気がセブルスには無さそうだった。これがリリーに関する事だったら、セブルスは必死に思い当たるふしを探そうとするんだろうな、と名前は思った。
「まあ、まだ授業も始まったばかりだし…。これからゆっくり探していけたらいいな。」
名前は大広間のドアを遠目に見ながら言った。
本当はもう才能の事なんて二の次で、出来ることなら寮を変えたい。しかしそんな最大の本音に関しては、さすがに今は言えなかった。
大広間から、昼食を終えた生徒たちが人混みと化して次々と出てくる。赤、青、黄、そして緑…。名前は4つの色が混じり合う光景を眺めながら、綺麗だな、と思った。
しかしその中から、小さな緑が他を押しのけるようにして手前に出てきたかと思うと、まっすぐ名前の方へ向かってきた。アニーだ。
「名前」アニーは険しい顔で、名前の前に立ちはだかった。魔法薬の教室に置いていった事をそれほど怒っているのだろうか、いや、違う。名前は嫌な汗が流れるの感じた。
「アニーごめんね、忙しそうだったからー…」
「驚いた。ほんとにグリフィンドールなんかと仲良くしてるのね。」
名前の言葉を遮るようにアニーが言った。思った通り、彼女は謝罪を求めにきたわけでは無さそうだ。
「そうだけど」名前は平静を装いながら続けた。「別にいいでしょ。友達は寮に縛られるべきじゃないわ」
「本気で言ってるの?」アニーが冷たい目で名前を睨んだ。こんな目線を向けられたのは初めてだった。
「もちろん」そう言いながら、名前の声は少し震えていた。アニーから良くない答えが返ってくるのは明らかだ。
「じゃあ言うけどー…」アニーは一息吸ってから、言い放った。「グリフィンドールと仲良くするなんて、スリザリンの恥よ。あなたはスリザリンの名に泥を塗ってるようなもんだわ!この恥さらし!」
アニーの言葉は想像以上のものだった。一瞬のうちに、名前の心は怒りと悲しみでいっぱいになった。何か言い返さなくては。しかし、憤りのあまり言葉が出てこない。
名前の気持ちを察したのか、見かねたリリーが立ち上がった。
「いい加減にしなさいよ!」彼女は勇敢にもアニーに詰め寄って言った。
「名前の言う通りよ、寮なんて関係ないわ。友達は自分で選ぶものでしょ!」
「はっ」アニーはせせら笑った。「どうぞ、あんたは好きに選べばいいわよ。あたしは今スリザリンとしてのプライドの話をしてるの。」
「あなたの歪んだ価値観を名前に押し付けないで!」リリーは一歩も引かなかった。
「あのねえ、スリザリンの生徒は代々誇り高く生きてるのよ」そう言ってから、アニーはリリーの顔を見てにやりと笑った。
「知ってるわよ、あんた、マグル生まれなんですってね。あんたには魔法使いの誇りなんて一生理解出来ないでしょうよ。この穢れた血!」
頭をハンマーで打たれたような衝撃が、名前の体に走った。
リリーは言われた事の意味をよく分かっていないようだった。しかし罵りの言葉だという事は、マグル生まれにだって察しがつく。
名前の中で、アニーに対する何かがプツッと切れた。
「アン、あっちに行って。もう私に関わらないで。」
名前はリリーの肩を抱いて、アニーから引き離そうとした。しかし名前がリリーに手を伸ばすよりも早く、いつの間にか立ち上がったセブルスがアニーに杖をつきつけていた。
「彼女を、その言葉で、呼ぶな」
セブルスの不機嫌な顔は散々見てきたつもりの名前だったが、こんなにも怒りに満ちた表情は初めてだった。
その気迫にアニーも一瞬たじろいだが、素直に退く気は無いようだった。
「何なの、あんたたち、寄ってたかってグリフィンドールなんか庇っちゃって。」応戦するつもりなのか、アニーも自分の杖に手を伸ばしていた。
「一年生に脅されたって何にも怖くないわよ。スネイプ、元はと言えばあんたがこの穢れた血と仲良しこよしなのよね。」
「ディフィンド!」
セブルスが低い声で杖を振った瞬間、アニーのローブの裾が剣で切りつけられたかのように裂けた。ローブの破片がはらりと地面に落ち、セブルス以外の全員が悲鳴をあげた。
アニーの顔は恐怖で引きつっていた。名前もリリーもショックのあまり血の気が引いて、手が小刻みに震えるのを感じた。
一体どこでこんな呪文を?一年生はまだ浮遊呪文しか習っていないのに。
「今度その言葉で彼女を呼んでみろ」セブルスはアニーの顔に杖を突きつけて言った。「次は顔を引き裂くぞ」
「セブ、やめて」リリーがセブルスの腕をつかんだが、セブルスは杖を下ろさなかった。
アニーは3人をキッと睨みつけて、何も言わずに去っていった。
アニーが立ち去り、セブルスが杖をしまったことで、その場の緊張は次第に解けていった。
セブルスは再び木陰に腰掛け、リリーはアニーのローブの破片を拾い上げて菩提樹の裏に隠した。
名前は自責の念でいっぱいだった。自分のせいでリリーを酷い目にあわせてしまった。それなのに、自分はろくに言い返す事も出来なかった。
どうして今まで、アニーなんかと一緒にいたんだろう。あのノートを見せられた時、勇気を出して決別すれば良かった。
「名前、大丈夫?」リリーが名前の顔をのぞきこんで言った。自分が屈辱的な言葉を受けたのにも関わらず、真っ先に友人を心配してくれている。その優しさに、名前は思わず涙が出そうだった。
「リリー、ごめんね、私のために、立ち向かってくれたせいで…」
名前は涙をこらえながら、小さく声を絞り出すので精一杯だった。
「気にしないで」リリーは名前の両手を握って言った。「あんな人の事なんか忘れて。今のあなたには私という友達がいるんだから、大丈夫よ」
その柔らかな笑顔につられて、名前も弱々しく微笑んだ。
リリーの言葉がじんわりと心を温めてくれるのを感じた。あの意地悪なセブルスが、彼女の事を好きかもしれない理由がよく分かった。
「それにしてもセブ」リリーがセブルスに向き直って言った。「さっきのあれはやりすぎよ!怪我をさせるところだったわ!」
これに関しては名前も全く同感だった。
「ちゃんと狙ったさ、あいつを殺す気なんてないよ」セブルスはアニーの立っていた場所を睨みながら呟いた。
「当たり前じゃない!」リリーは幼馴染の顔を覗き込んだ。リリーがどう感じたかは分からないが、純粋にリリーを守ろうとしたゆえの行動だったと、その目は語っているようだった。少なくとも、名前にはそう思えた。
程なくして、大広間から廊下に出る生徒の群れが中庭まで溢れてきた。もうすぐ授業が始まる。スリザリンは魔法史の教室に向かわなければならない。
「本当に」別れ際、リリーが名前とセブルスに言った。「あなたたちがグリフィンドールだったら良かったのに」
名前は小さく笑いながら、手を振ってセブルスとその場を後にした。リリーに背を向けた瞬間、抑えていた涙が一気に溢れてきた。
セブルスはそれに気付いたのか、気付いていないのか、いずれにせよ何も言わなかった。
グリフィンドールだったら良かったのにー。
リリーの言葉が、心の奥で波のように繰り返し響いていた。
「それで、2人の最初の魔法薬はどうだった?」
リリーがサンドイッチを頬張りながら聞いた。
「セブルスは凄かったよ。」名前は自分の数々の失態をひた隠しにしながら答えた。
「作るのもクラスで一番早かったし、出来上がりも一番だってスラグホーン先生が褒めてた」
「すごいじゃない!」リリーがセブルスを力いっぱい小突いたので、セブルスは持っていたサンドイッチを落としそうになった。
「こいつのは全然ダメだった」セブルスが照れ隠しをするように、名前の魔法薬に話を移した。「爆発させるわ、飛び散らすわで…」
「でもちゃんと手伝ってあげたんでしょう?」そう言うリリーは、まるでお姉さんのようだと名前は思った。太陽の光を受けて、彼女の赤毛がキラキラ輝いている。
「そうそう、爆発した時もセブルスがすぐに原因を教えてくれたし、牙をすり潰す作業とかはかなり手伝ってもらったよ。かなりっていうか全部…」
名前はセブルスのご機嫌取りのつもりでフォローを入れたが、セブルスがこちらを見る目は相変わらず死んだように無感情だった。
もう何も褒めるまい。名前はそう決心して、サンドイッチを真ん中からガブッと食べた。
「あら、セブ、顔にすすがついてるわ」ふと、リリーがセブルスの額の汚れに気付いて言った。セブルスが自分で触れるのよりも早く、リリーがその汚れを撫でてはらった。
その瞬間、セブルスの顔が赤くなったのを名前は見逃さなかった。
「…ありがとう」小声で呟くセブルスに、リリーがにっこりと笑いかけた。天使のような笑顔だった。セブルスもわずかに口角を上げたように見えた。まるで一瞬時が止まったかのような光景だった。
もしかして、セブルスはリリーの事が好きなんじゃないか?直感的に、ふとそんな考えが名前の脳裏をよぎった。
もしそうだとすれば、今までの言動に全て説明がつく。幼馴染だとか、そんな境遇だけの話ではなく、セブルスにとってのリリーが本当に特別な存在だとしたら…。
名前の視線に気付いたセブルスは、気まずそうに下を向き、黙ってサンドイッチを食べ始めた。
「名前、あなたのことをもっと聞かせてよ」リリーが名前に向き直って言った。「家族の事とか、ホグワーツに来る前の事とか。好きな事とか、誕生日とか」
リリーは新しい友達が出来たことを無邪気に喜んでいるようだった。
名前はリリーに自分のことを話し始めた。自分以外の家族はハッフルパフである事を話すと、リリーは目を丸くして言った。
「あなたがどうしてこんなに親しみやすいのか分かったわ。初めて話した日からスリザリンらしくない子って思ってたの、いい意味でね。」
「そう?…でも、自分でも最近そう思うの。」
名前は思わず本音をこぼした。"スリザリンらしい"セブルスはサンドイッチを食べ終えて、うわの空で聞いている。
入学した日から抱え込んでいた気持ちを、今ここで吐露しても誰も責めないだろう。
「組分け帽子が本当に正しかったのか、不安になってきてる…」名前は胸の内のモヤモヤを打ち明け始めた。寮の友達とあまり気が合わないこと、グリフィンドールへの異常なまでの敵対心や、純血主義についていけないこと…。
「寮が地下で暗いから、朝は起きれないし」不満を語りすぎてしまったと思い、名前はジョークのつもりで笑って言った。しかし、リリーは心配そうな顔でこちらをまっすぐ見つめている。
「そもそも組分け帽子はどうしてあなたをスリザリンに入れたのかしら?」リリーは言った。
セブルスが「頭もハッフルパフ並なのに」と呟いたので、リリーが再び彼を小突いた。
「それが…」名前は迷ったが、リリーになら話しても良いかもしれないと思った。人の心を開かせるような不思議な力が、彼女にはある気がした。
「帽子が、私には何か才能があるとか……それで、それを伸ばすきっかけがスリザリンにあるんだって…」
あの時帽子が何を言ったのか、緊張と動揺で細かい内容は忘れてしまった。だが、「スリザリンにきっかけがある」そう言われた事だけは確かに覚えている。
「それが何の才能かは分からないの?」リリーの問いかけに、名前は首を振った。
「まずはそれが何か知りたいんだけど……魔法薬でないことは確かね」名前は蛇の牙の粉がまだローブについていたのに気付き、それを払いながら言った。よく見ると、セブルスの左腕あたりにも自分が飛び散らした粉の汚れが残っている。名前は気付かないフリをした。
「言い換えれば、そのきっかけはスリザリンにだけある、って事よね?」リリーは首をかしげた。「スリザリンにしかないものって何かしら?ねえ、セブ、あなた入学前からスリザリンに詳しいじゃない。何か知らない?」
「さあ…」真剣に考える気がセブルスには無さそうだった。これがリリーに関する事だったら、セブルスは必死に思い当たるふしを探そうとするんだろうな、と名前は思った。
「まあ、まだ授業も始まったばかりだし…。これからゆっくり探していけたらいいな。」
名前は大広間のドアを遠目に見ながら言った。
本当はもう才能の事なんて二の次で、出来ることなら寮を変えたい。しかしそんな最大の本音に関しては、さすがに今は言えなかった。
大広間から、昼食を終えた生徒たちが人混みと化して次々と出てくる。赤、青、黄、そして緑…。名前は4つの色が混じり合う光景を眺めながら、綺麗だな、と思った。
しかしその中から、小さな緑が他を押しのけるようにして手前に出てきたかと思うと、まっすぐ名前の方へ向かってきた。アニーだ。
「名前」アニーは険しい顔で、名前の前に立ちはだかった。魔法薬の教室に置いていった事をそれほど怒っているのだろうか、いや、違う。名前は嫌な汗が流れるの感じた。
「アニーごめんね、忙しそうだったからー…」
「驚いた。ほんとにグリフィンドールなんかと仲良くしてるのね。」
名前の言葉を遮るようにアニーが言った。思った通り、彼女は謝罪を求めにきたわけでは無さそうだ。
「そうだけど」名前は平静を装いながら続けた。「別にいいでしょ。友達は寮に縛られるべきじゃないわ」
「本気で言ってるの?」アニーが冷たい目で名前を睨んだ。こんな目線を向けられたのは初めてだった。
「もちろん」そう言いながら、名前の声は少し震えていた。アニーから良くない答えが返ってくるのは明らかだ。
「じゃあ言うけどー…」アニーは一息吸ってから、言い放った。「グリフィンドールと仲良くするなんて、スリザリンの恥よ。あなたはスリザリンの名に泥を塗ってるようなもんだわ!この恥さらし!」
アニーの言葉は想像以上のものだった。一瞬のうちに、名前の心は怒りと悲しみでいっぱいになった。何か言い返さなくては。しかし、憤りのあまり言葉が出てこない。
名前の気持ちを察したのか、見かねたリリーが立ち上がった。
「いい加減にしなさいよ!」彼女は勇敢にもアニーに詰め寄って言った。
「名前の言う通りよ、寮なんて関係ないわ。友達は自分で選ぶものでしょ!」
「はっ」アニーはせせら笑った。「どうぞ、あんたは好きに選べばいいわよ。あたしは今スリザリンとしてのプライドの話をしてるの。」
「あなたの歪んだ価値観を名前に押し付けないで!」リリーは一歩も引かなかった。
「あのねえ、スリザリンの生徒は代々誇り高く生きてるのよ」そう言ってから、アニーはリリーの顔を見てにやりと笑った。
「知ってるわよ、あんた、マグル生まれなんですってね。あんたには魔法使いの誇りなんて一生理解出来ないでしょうよ。この穢れた血!」
頭をハンマーで打たれたような衝撃が、名前の体に走った。
リリーは言われた事の意味をよく分かっていないようだった。しかし罵りの言葉だという事は、マグル生まれにだって察しがつく。
名前の中で、アニーに対する何かがプツッと切れた。
「アン、あっちに行って。もう私に関わらないで。」
名前はリリーの肩を抱いて、アニーから引き離そうとした。しかし名前がリリーに手を伸ばすよりも早く、いつの間にか立ち上がったセブルスがアニーに杖をつきつけていた。
「彼女を、その言葉で、呼ぶな」
セブルスの不機嫌な顔は散々見てきたつもりの名前だったが、こんなにも怒りに満ちた表情は初めてだった。
その気迫にアニーも一瞬たじろいだが、素直に退く気は無いようだった。
「何なの、あんたたち、寄ってたかってグリフィンドールなんか庇っちゃって。」応戦するつもりなのか、アニーも自分の杖に手を伸ばしていた。
「一年生に脅されたって何にも怖くないわよ。スネイプ、元はと言えばあんたがこの穢れた血と仲良しこよしなのよね。」
「ディフィンド!」
セブルスが低い声で杖を振った瞬間、アニーのローブの裾が剣で切りつけられたかのように裂けた。ローブの破片がはらりと地面に落ち、セブルス以外の全員が悲鳴をあげた。
アニーの顔は恐怖で引きつっていた。名前もリリーもショックのあまり血の気が引いて、手が小刻みに震えるのを感じた。
一体どこでこんな呪文を?一年生はまだ浮遊呪文しか習っていないのに。
「今度その言葉で彼女を呼んでみろ」セブルスはアニーの顔に杖を突きつけて言った。「次は顔を引き裂くぞ」
「セブ、やめて」リリーがセブルスの腕をつかんだが、セブルスは杖を下ろさなかった。
アニーは3人をキッと睨みつけて、何も言わずに去っていった。
アニーが立ち去り、セブルスが杖をしまったことで、その場の緊張は次第に解けていった。
セブルスは再び木陰に腰掛け、リリーはアニーのローブの破片を拾い上げて菩提樹の裏に隠した。
名前は自責の念でいっぱいだった。自分のせいでリリーを酷い目にあわせてしまった。それなのに、自分はろくに言い返す事も出来なかった。
どうして今まで、アニーなんかと一緒にいたんだろう。あのノートを見せられた時、勇気を出して決別すれば良かった。
「名前、大丈夫?」リリーが名前の顔をのぞきこんで言った。自分が屈辱的な言葉を受けたのにも関わらず、真っ先に友人を心配してくれている。その優しさに、名前は思わず涙が出そうだった。
「リリー、ごめんね、私のために、立ち向かってくれたせいで…」
名前は涙をこらえながら、小さく声を絞り出すので精一杯だった。
「気にしないで」リリーは名前の両手を握って言った。「あんな人の事なんか忘れて。今のあなたには私という友達がいるんだから、大丈夫よ」
その柔らかな笑顔につられて、名前も弱々しく微笑んだ。
リリーの言葉がじんわりと心を温めてくれるのを感じた。あの意地悪なセブルスが、彼女の事を好きかもしれない理由がよく分かった。
「それにしてもセブ」リリーがセブルスに向き直って言った。「さっきのあれはやりすぎよ!怪我をさせるところだったわ!」
これに関しては名前も全く同感だった。
「ちゃんと狙ったさ、あいつを殺す気なんてないよ」セブルスはアニーの立っていた場所を睨みながら呟いた。
「当たり前じゃない!」リリーは幼馴染の顔を覗き込んだ。リリーがどう感じたかは分からないが、純粋にリリーを守ろうとしたゆえの行動だったと、その目は語っているようだった。少なくとも、名前にはそう思えた。
程なくして、大広間から廊下に出る生徒の群れが中庭まで溢れてきた。もうすぐ授業が始まる。スリザリンは魔法史の教室に向かわなければならない。
「本当に」別れ際、リリーが名前とセブルスに言った。「あなたたちがグリフィンドールだったら良かったのに」
名前は小さく笑いながら、手を振ってセブルスとその場を後にした。リリーに背を向けた瞬間、抑えていた涙が一気に溢れてきた。
セブルスはそれに気付いたのか、気付いていないのか、いずれにせよ何も言わなかった。
グリフィンドールだったら良かったのにー。
リリーの言葉が、心の奥で波のように繰り返し響いていた。