第一部
名前変換
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セブルスに対する、リリーの効果は絶大だった。
名前とリリーが友達になってから初めての魔法薬学の時間、セブルスは名前の挨拶を無視することなく、渋々とそれに言葉を返した。挨拶を交わすという一見当たり前の行動も、名前にとっては大きな成果だった。
「さてさーて。」大小さまざまな瓶を用意しながら、スラグホーン先生が授業を始めた。
「前回学んだ"おできを治す薬"を、今日は実際に作ってもらう。材料はこの瓶から各自取っていくように。」
教卓の上には見たこともない植物や液体が並んでいた。よく見ると、なめくじのようなものが詰まった瓶もある。他の女子達もそれに気づいたようで、みんな嫌そうな表情を浮かべた。
「1年生の最初の実技には、トラブルがつきものだ」生徒たち全員の顔を見渡しながら、スラグホーン先生は言った。
「なので、ペアで2回作るチャンスをあげよう。1人1つ、鍋を持参しているね。それを使って合計2回だ。提出するのは、上手く出来たほうで結構。必ず協力して作ること。それでは、はじめ!」
生徒たちはザワザワと作業に取りかかった。まずは材料を取りにいかなければ。あのナメクジを手で拾い上げるのかと思うと、名前は体がゾワっとした。ナメクジはセブルスに頼もうか…。
「セブルス、材料の事なんだけどー」
名前がそう言いかけて隣を見た時、セブルスの姿は無かった。いつの間に席を離れたのか、彼は既に教卓の前でてきぱきと材料を集めている。
セブルスは何食わぬ顔で全ての材料を持って戻ってきた。器には蛇の牙や山嵐の針にまぎれて、ネバネバしたナメクジが4匹のっていた。名前は思わずウエーと顔をしかめた。
「何をボケっとしてるんだ?」セブルスは眉をひそめて言った。「早く材料を取りに行ってこいよ」
よく見るとセブルスの手元には一人分の材料しかない。一瞬でも彼に期待した自分がバカだったと名前は思った。周りの生徒は「ペアで協力して」材料を集めていたが、自分たちのチームにそれを求めるのは野暮だ。
名前は材料を求めてずらっと並ぶ生徒の列に遅れて加わり、ナメクジも自らの手で取らなくてはならなかった。
魔法薬の調合は、思っていたよりもずっと器用さが求められる作業だった。
第1段階の「蛇の牙を砕いて粉にする」作業ですら、名前には難しく感じられた。牙が硬いせいで、すりこぎは何度も表面をすべるばかりでうまく牙を砕けない。やっと砕けたかと思いきや、ムラなく潰すのがまた難しい。
すりこぎを握る手も、すり鉢を支える手も痺れるように痛くなってきた。セブルスを見ると、彼はもうとっくに牙を擦り終えていて、鍋の加熱も済ませ、杖を取り出して次の段階に入ろうとしていた。
名前は自分がかなり遅れをとっているのではと不安になり、慌てて周りを見渡した。が、他の生徒も牙のすり潰しに手こずっているようで、セブルスだけが異様に進んでいるのだとわかった。
「セブルス、早いね…」
名前はやっとこさ擦り終えた蛇の牙を計量しながら話しかけた。セブルスは杖を使っての作業も終えて、魔法薬が醸造する様子を黙って見ていた。
名前が牙の粉を4匙分加えて、鍋を加熱し始めた頃、それは起こった。鍋の温度が100度を越えたあたりで、急にボンッという爆発音とともに鍋の中の粉末が燃え上がり、空中に飛び出したと思いきや、一瞬で灰になった。
あまりに突然の出来事だったので、名前は何が起きたのか理解できなかった。ただ、自分の顔とローブがすすだらけになっているのは分かった。そして、それは隣にいるセブルスも同じだった。
「何をやってるんだ!!」セブルスは顔にかかったすすを払い落としながら名前に詰め寄った。「こんな簡単な手順で何を間違えるんだ!?」
「ごめん、自分でも分かんないんだけど…」
名前はうろたえた。本当に心当たりがなかったのである。
後ろの方で、自分の時と同じような爆発音がするのが聞こえた。セブルスは大きくため息をつきながら、名前の脇にあるすり鉢をちらっと見て言った。
「…牙の粉を入れ過ぎたな?」
そういえばそうだったかな、と名前は思った。牙の粉をはかっている時、ちょうどセブルスのスピードに驚かされて、一瞬よそ見をしたんだった。言われてみれば、少し多めに入れてしまったかもしれない。
「牙の粉の量は」セブルスは名前の教科書を奪い取って言った。「4匙もいらない。3.5で丁度いいんだ。」彼は教科書の手順にある「4」にバツをし、隣に3.5と書き加えた。
「えっ、でも先生だって4匙って言ってたじゃない」名前は思わず反論した。
「君は加減を見ながら作業をするって事が出来ないのか?」セブルスは名前の教科書を投げ返しながら声を荒らげた。「魔法薬の調合は繊細なんだ。材料を一滴でも入れたら、その変化を見ながら調整してくのが常識だろ?」
何もそんなきつく言わなくても、と名前は口を開きかけたが、セブルスをこれ以上イラつかせては、リリーの協力も泡になる可能性がある。名前は黙って作業に戻った。
実際、セブルスの魔法薬は順調に進んでいるのだから、ここは素直に従った方がいいかもしれない。名前は渋々、牙をすり潰す嫌な作業に戻った。
「…そんなんじゃ、いつまでたっても粉にならないぞ」
醸造を待つ間、セブルスは暇なのか、名前の作業に文句をつけ始めた。
「じゃあ教えてよ!」名前はセブルスを睨みつけながら言った。「先生が言ってたでしょ、この1年はチームワークを磨く授業でもあるんだから」
「それが教えてもらう態度か?」セブルスは悪態をつきながら、名前からすり鉢とすりこぎを奪って牙を潰し始めた。「横にすり潰すんじゃなくて、上から叩きつけるんだ。叩いて潰した方が早く細かく砕ける。」
実際、セブルスの手際は驚くほど良かった。名前が苦戦していたものと同じとは思えないほど、簡単に牙が砕けていく。あっという間にサラサラの粉が出来上がった。
「…もう分かっただろ?残りは自分でやれ」
そう言われて、名前は残りの牙にすりばちを上から叩きつけた。叩いた時の衝撃で、砕け散った牙がセブルスの方へ飛んだ。
「どうしてそんな上から叩きつけるんだ!」セブルスは髪にかかった牙の破片をはらいのけながらうめいた。「何を見てたんだ?もっとすり鉢に近い位置から叩くんだ!」
名前が頼む前に、セブルスは道具を奪って再びすり潰し始めた。名前は散々悔しさがこみ上げていたが、次第にこれはこれで良いパートナーかもしれない、と思い直した。牙のすり潰しは、結局セブルスが文句を言いながら全て済ませてくれたのである。
それから名前は、セブルスの作業を注視しながら調合を続けることにした。ナメクジの入れ方も、鍋のかき混ぜ方も、セブルスのやり方をそっくりそのまま真似た。
セブルスは一挙一動をまじまじと見られる事に鬱陶しさを感じているようだったが、ナメクジをぶちまけられるよりはマシと思ったのか、文句は言わなかった。
最終的にセブルスの鍋からは鮮やかなピンクの煙が上がり、それを見たスラグホーン先生が彼の出来を素晴らしく褒めた。クラスで最初に完成させただけでなく、最も完璧に仕上げたと、先生はセブルスに拍手を贈った。
名前の方もなんとか淡いピンクの煙をあげることに成功し、初めての魔法薬の実技は無事終わった。
「教えてくれて、ありがとうございました」
片付けを終えた後、名前は一応の礼儀として、セブルスにわざと堅苦しく礼を言った。
セブルスは呆れ顔で頷いて、すぐ教室を出ていってしまった。
仲良くなるつもりではいるが、思っていたよりも道は険しいかもしれない。そう感じさせられた2時間だった。
名前は席を立ってから、ちらっとアニーの方を見た。アニーはペアのレイブンクロー生と何か揉めているようだった。2人の机にはまだ材料が散らかっていて、アニーが不機嫌極まりないという顔でレイブンクローの女の子に詰め寄っている。
正直、今の厄介そうな彼女とはとても関わりたいと思えなかった。名前はアニーがこちらに視線を向ける前に、急ぎ足で教室を出た。
ちょうどお昼の時間だった。いつもはアニーと大広間で並んでランチを食べるが、特に約束をしているわけでもなく、授業終わりの流れで一緒に行くのがお決まりになっていた。
先に食べていても、怒られる事はないだろう…。
一人で食べるのはなんだか寂しい気もするが、スリザリンのテーブルに行けば誰かしら1年生がいるだろう。名前は顔のすすをもう一度払って、大広間へ向かった。
地下室を後にし、階段をのぼると、眩しいばかりの日差しが目に入ってきた。見事な青空だった。東の風が回廊を通り過ぎていく。名前は秋晴れの空を仰ぎながら歩き出した。
曲がり角に差し掛かった時、雲一つない空に夢中だった名前は死角に気づかず、前から来る生徒にぶつかってしまった。
「うわ、ごめんなさ…」
名前はジンジンする鼻をおさえながら相手の顔を見た。もはや見慣れた、眉間にしわを寄せるセブルスの姿がそこにあった。
「…君の目は背中についてるのか?」
セブルスの嫌味もさきの魔法薬学の時間にたっぷり聞いたので、名前の心には1ミリも刺さらなかった。
「セブルスは大広間に行かないの?」
生徒たちが皆ランチに向かう中、逆方向に歩いてきたセブルスが気になって名前は訊ねた。
「行かなきゃいけない決まりなんかないだろう。他にやる事があるんだ」
昼食を食べるより大事な事があるだろうか。
名前にはセブルスがますます不思議な少年に思えた。
「お昼休みなのに?」
「図書館にこれを返しに行くんだよ。分かったら早くどいてくれないか」
セブルスはため息をつきながら答えた。よく見ると、彼は分厚い本を2冊抱えていた。さっき自分がぶつかったのはこの本のかたい表紙かもしれないと、名前は再び鼻をおさえた。
「えらいな〜セブルス、勉強家なんだね。魔法薬の事も前から勉強してたの?」
名前はセブルスのイライラをなだめるように機嫌を取ろうとしたが、無駄だった。先を急ぐセブルスにとっては、何を言っても逆効果のようだった。
「関係ないだろ、もう行くからなー…」
セブルスが名前の脇を抜けて立ち去ろうとした時、急に名前は背後から誰かに肩をバッと抱かれた。
「セブルス、名前!」
リリーだった。リリーは満面の笑みで、名前の肩とセブルスの背中を抱きながら、2人の間に身を乗り出した。
「良かった、二人とも友達になったのね!」
リリーはとても嬉しそうだった。セブルスが否定しようと口を開く前に、名前はすかさず「そう、そうなの!」と答えた。セブルスが嫌そうな目で名前を見た。
「魔法薬の授業はどうだった!?ちょうどいいわ、お昼の時間だし、3人でランチしましょうよ!」
リリーは名案、というように手を合わせながら言った。ちょうど一人だった名前にとっては願ってもいない提案だ。
セブルスは断るかと思いきや、「ね!?」とリリーにおされたあと、「うん…」と小声で答えた。名前は自分に対するものとは真逆のセブルスの態度に驚いた。本当にこの子はリリーに弱いんだ。
「いいお天気だし、大広間からサンドイッチでも取ってきて、外で食べましょ!」
リリーは2人の手を引っ張りながら楽しそうに大広間へ向かった。
名前とセブルスは無意識に目を合わせた。図書館に行くんじゃなかったの?と名前は顎で本をさして目配せしたが、セブルスは知らん顔で前に向き直った。
大広間に入ってすぐ、名前はスリザリンのテーブルをちらっと見た。アニーがいないのは勿論だったが、意外にも他の1年生の姿も無かった。みんなまだ魔法薬の仕上げに苦戦しているのかもしれない。自分もセブルスとペアでなければ、とても時間内に終えられなかっただろうと名前は思った。
何にせよリリーがいなければ一人になるところだった。名前は偶然の幸運に感謝した。
3人はそれぞれテイクアウト用のバスケットにサンドイッチをいれて、大広間を後にし、廻廊に囲まれる中庭に出た。
色づきはじめた木々たちが、秋の日差しの中に涼やかな木陰を作っていた。
名前とリリーが友達になってから初めての魔法薬学の時間、セブルスは名前の挨拶を無視することなく、渋々とそれに言葉を返した。挨拶を交わすという一見当たり前の行動も、名前にとっては大きな成果だった。
「さてさーて。」大小さまざまな瓶を用意しながら、スラグホーン先生が授業を始めた。
「前回学んだ"おできを治す薬"を、今日は実際に作ってもらう。材料はこの瓶から各自取っていくように。」
教卓の上には見たこともない植物や液体が並んでいた。よく見ると、なめくじのようなものが詰まった瓶もある。他の女子達もそれに気づいたようで、みんな嫌そうな表情を浮かべた。
「1年生の最初の実技には、トラブルがつきものだ」生徒たち全員の顔を見渡しながら、スラグホーン先生は言った。
「なので、ペアで2回作るチャンスをあげよう。1人1つ、鍋を持参しているね。それを使って合計2回だ。提出するのは、上手く出来たほうで結構。必ず協力して作ること。それでは、はじめ!」
生徒たちはザワザワと作業に取りかかった。まずは材料を取りにいかなければ。あのナメクジを手で拾い上げるのかと思うと、名前は体がゾワっとした。ナメクジはセブルスに頼もうか…。
「セブルス、材料の事なんだけどー」
名前がそう言いかけて隣を見た時、セブルスの姿は無かった。いつの間に席を離れたのか、彼は既に教卓の前でてきぱきと材料を集めている。
セブルスは何食わぬ顔で全ての材料を持って戻ってきた。器には蛇の牙や山嵐の針にまぎれて、ネバネバしたナメクジが4匹のっていた。名前は思わずウエーと顔をしかめた。
「何をボケっとしてるんだ?」セブルスは眉をひそめて言った。「早く材料を取りに行ってこいよ」
よく見るとセブルスの手元には一人分の材料しかない。一瞬でも彼に期待した自分がバカだったと名前は思った。周りの生徒は「ペアで協力して」材料を集めていたが、自分たちのチームにそれを求めるのは野暮だ。
名前は材料を求めてずらっと並ぶ生徒の列に遅れて加わり、ナメクジも自らの手で取らなくてはならなかった。
魔法薬の調合は、思っていたよりもずっと器用さが求められる作業だった。
第1段階の「蛇の牙を砕いて粉にする」作業ですら、名前には難しく感じられた。牙が硬いせいで、すりこぎは何度も表面をすべるばかりでうまく牙を砕けない。やっと砕けたかと思いきや、ムラなく潰すのがまた難しい。
すりこぎを握る手も、すり鉢を支える手も痺れるように痛くなってきた。セブルスを見ると、彼はもうとっくに牙を擦り終えていて、鍋の加熱も済ませ、杖を取り出して次の段階に入ろうとしていた。
名前は自分がかなり遅れをとっているのではと不安になり、慌てて周りを見渡した。が、他の生徒も牙のすり潰しに手こずっているようで、セブルスだけが異様に進んでいるのだとわかった。
「セブルス、早いね…」
名前はやっとこさ擦り終えた蛇の牙を計量しながら話しかけた。セブルスは杖を使っての作業も終えて、魔法薬が醸造する様子を黙って見ていた。
名前が牙の粉を4匙分加えて、鍋を加熱し始めた頃、それは起こった。鍋の温度が100度を越えたあたりで、急にボンッという爆発音とともに鍋の中の粉末が燃え上がり、空中に飛び出したと思いきや、一瞬で灰になった。
あまりに突然の出来事だったので、名前は何が起きたのか理解できなかった。ただ、自分の顔とローブがすすだらけになっているのは分かった。そして、それは隣にいるセブルスも同じだった。
「何をやってるんだ!!」セブルスは顔にかかったすすを払い落としながら名前に詰め寄った。「こんな簡単な手順で何を間違えるんだ!?」
「ごめん、自分でも分かんないんだけど…」
名前はうろたえた。本当に心当たりがなかったのである。
後ろの方で、自分の時と同じような爆発音がするのが聞こえた。セブルスは大きくため息をつきながら、名前の脇にあるすり鉢をちらっと見て言った。
「…牙の粉を入れ過ぎたな?」
そういえばそうだったかな、と名前は思った。牙の粉をはかっている時、ちょうどセブルスのスピードに驚かされて、一瞬よそ見をしたんだった。言われてみれば、少し多めに入れてしまったかもしれない。
「牙の粉の量は」セブルスは名前の教科書を奪い取って言った。「4匙もいらない。3.5で丁度いいんだ。」彼は教科書の手順にある「4」にバツをし、隣に3.5と書き加えた。
「えっ、でも先生だって4匙って言ってたじゃない」名前は思わず反論した。
「君は加減を見ながら作業をするって事が出来ないのか?」セブルスは名前の教科書を投げ返しながら声を荒らげた。「魔法薬の調合は繊細なんだ。材料を一滴でも入れたら、その変化を見ながら調整してくのが常識だろ?」
何もそんなきつく言わなくても、と名前は口を開きかけたが、セブルスをこれ以上イラつかせては、リリーの協力も泡になる可能性がある。名前は黙って作業に戻った。
実際、セブルスの魔法薬は順調に進んでいるのだから、ここは素直に従った方がいいかもしれない。名前は渋々、牙をすり潰す嫌な作業に戻った。
「…そんなんじゃ、いつまでたっても粉にならないぞ」
醸造を待つ間、セブルスは暇なのか、名前の作業に文句をつけ始めた。
「じゃあ教えてよ!」名前はセブルスを睨みつけながら言った。「先生が言ってたでしょ、この1年はチームワークを磨く授業でもあるんだから」
「それが教えてもらう態度か?」セブルスは悪態をつきながら、名前からすり鉢とすりこぎを奪って牙を潰し始めた。「横にすり潰すんじゃなくて、上から叩きつけるんだ。叩いて潰した方が早く細かく砕ける。」
実際、セブルスの手際は驚くほど良かった。名前が苦戦していたものと同じとは思えないほど、簡単に牙が砕けていく。あっという間にサラサラの粉が出来上がった。
「…もう分かっただろ?残りは自分でやれ」
そう言われて、名前は残りの牙にすりばちを上から叩きつけた。叩いた時の衝撃で、砕け散った牙がセブルスの方へ飛んだ。
「どうしてそんな上から叩きつけるんだ!」セブルスは髪にかかった牙の破片をはらいのけながらうめいた。「何を見てたんだ?もっとすり鉢に近い位置から叩くんだ!」
名前が頼む前に、セブルスは道具を奪って再びすり潰し始めた。名前は散々悔しさがこみ上げていたが、次第にこれはこれで良いパートナーかもしれない、と思い直した。牙のすり潰しは、結局セブルスが文句を言いながら全て済ませてくれたのである。
それから名前は、セブルスの作業を注視しながら調合を続けることにした。ナメクジの入れ方も、鍋のかき混ぜ方も、セブルスのやり方をそっくりそのまま真似た。
セブルスは一挙一動をまじまじと見られる事に鬱陶しさを感じているようだったが、ナメクジをぶちまけられるよりはマシと思ったのか、文句は言わなかった。
最終的にセブルスの鍋からは鮮やかなピンクの煙が上がり、それを見たスラグホーン先生が彼の出来を素晴らしく褒めた。クラスで最初に完成させただけでなく、最も完璧に仕上げたと、先生はセブルスに拍手を贈った。
名前の方もなんとか淡いピンクの煙をあげることに成功し、初めての魔法薬の実技は無事終わった。
「教えてくれて、ありがとうございました」
片付けを終えた後、名前は一応の礼儀として、セブルスにわざと堅苦しく礼を言った。
セブルスは呆れ顔で頷いて、すぐ教室を出ていってしまった。
仲良くなるつもりではいるが、思っていたよりも道は険しいかもしれない。そう感じさせられた2時間だった。
名前は席を立ってから、ちらっとアニーの方を見た。アニーはペアのレイブンクロー生と何か揉めているようだった。2人の机にはまだ材料が散らかっていて、アニーが不機嫌極まりないという顔でレイブンクローの女の子に詰め寄っている。
正直、今の厄介そうな彼女とはとても関わりたいと思えなかった。名前はアニーがこちらに視線を向ける前に、急ぎ足で教室を出た。
ちょうどお昼の時間だった。いつもはアニーと大広間で並んでランチを食べるが、特に約束をしているわけでもなく、授業終わりの流れで一緒に行くのがお決まりになっていた。
先に食べていても、怒られる事はないだろう…。
一人で食べるのはなんだか寂しい気もするが、スリザリンのテーブルに行けば誰かしら1年生がいるだろう。名前は顔のすすをもう一度払って、大広間へ向かった。
地下室を後にし、階段をのぼると、眩しいばかりの日差しが目に入ってきた。見事な青空だった。東の風が回廊を通り過ぎていく。名前は秋晴れの空を仰ぎながら歩き出した。
曲がり角に差し掛かった時、雲一つない空に夢中だった名前は死角に気づかず、前から来る生徒にぶつかってしまった。
「うわ、ごめんなさ…」
名前はジンジンする鼻をおさえながら相手の顔を見た。もはや見慣れた、眉間にしわを寄せるセブルスの姿がそこにあった。
「…君の目は背中についてるのか?」
セブルスの嫌味もさきの魔法薬学の時間にたっぷり聞いたので、名前の心には1ミリも刺さらなかった。
「セブルスは大広間に行かないの?」
生徒たちが皆ランチに向かう中、逆方向に歩いてきたセブルスが気になって名前は訊ねた。
「行かなきゃいけない決まりなんかないだろう。他にやる事があるんだ」
昼食を食べるより大事な事があるだろうか。
名前にはセブルスがますます不思議な少年に思えた。
「お昼休みなのに?」
「図書館にこれを返しに行くんだよ。分かったら早くどいてくれないか」
セブルスはため息をつきながら答えた。よく見ると、彼は分厚い本を2冊抱えていた。さっき自分がぶつかったのはこの本のかたい表紙かもしれないと、名前は再び鼻をおさえた。
「えらいな〜セブルス、勉強家なんだね。魔法薬の事も前から勉強してたの?」
名前はセブルスのイライラをなだめるように機嫌を取ろうとしたが、無駄だった。先を急ぐセブルスにとっては、何を言っても逆効果のようだった。
「関係ないだろ、もう行くからなー…」
セブルスが名前の脇を抜けて立ち去ろうとした時、急に名前は背後から誰かに肩をバッと抱かれた。
「セブルス、名前!」
リリーだった。リリーは満面の笑みで、名前の肩とセブルスの背中を抱きながら、2人の間に身を乗り出した。
「良かった、二人とも友達になったのね!」
リリーはとても嬉しそうだった。セブルスが否定しようと口を開く前に、名前はすかさず「そう、そうなの!」と答えた。セブルスが嫌そうな目で名前を見た。
「魔法薬の授業はどうだった!?ちょうどいいわ、お昼の時間だし、3人でランチしましょうよ!」
リリーは名案、というように手を合わせながら言った。ちょうど一人だった名前にとっては願ってもいない提案だ。
セブルスは断るかと思いきや、「ね!?」とリリーにおされたあと、「うん…」と小声で答えた。名前は自分に対するものとは真逆のセブルスの態度に驚いた。本当にこの子はリリーに弱いんだ。
「いいお天気だし、大広間からサンドイッチでも取ってきて、外で食べましょ!」
リリーは2人の手を引っ張りながら楽しそうに大広間へ向かった。
名前とセブルスは無意識に目を合わせた。図書館に行くんじゃなかったの?と名前は顎で本をさして目配せしたが、セブルスは知らん顔で前に向き直った。
大広間に入ってすぐ、名前はスリザリンのテーブルをちらっと見た。アニーがいないのは勿論だったが、意外にも他の1年生の姿も無かった。みんなまだ魔法薬の仕上げに苦戦しているのかもしれない。自分もセブルスとペアでなければ、とても時間内に終えられなかっただろうと名前は思った。
何にせよリリーがいなければ一人になるところだった。名前は偶然の幸運に感謝した。
3人はそれぞれテイクアウト用のバスケットにサンドイッチをいれて、大広間を後にし、廻廊に囲まれる中庭に出た。
色づきはじめた木々たちが、秋の日差しの中に涼やかな木陰を作っていた。