第一部
名前変換
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扉の先は、名前が想像していたよりもずっと広い空間だった。すでに大勢の上級生が席に着いている。それぞれのローブの色から、寮別にテーブルが分けられている事がすぐに分かった。
広間には何千という蝋燭がユラユラと浮かんでいる。天井を見上げると、そこには真っ黒な空が広がり、無数の星が降り注いでいた。まるで暖かな屋外に出たかのようだ。
大広間の奥で新入生たちを待っていたのは、つぎはぎだらけでボロボロの帽子だった。
くたびれきった帽子が背のない丸椅子に置かれており、マクゴナガルを始めとする教師たちはその薄汚い帽子をじっと見つめ、厳かに沈黙を守っている。
そのちぐはぐな光景を新入生たちは戸惑いながら見つめていたが、その直後にあっと驚く出来事があった。なんと帽子に急に表情がうまれ、歌い出したのである。突然の出来事に一年生の何人かがビクッと体を反らした。
帽子は高らかに長々と歌い上げたが、組分けに対する緊張から、名前には帽子の歌などまったく頭に入ってこなかった。周りの生徒たちも、恐らく同じ様子だ。いつの間にか歌は終わり、各寮のテーブルから起こった拍手に名前はハッと我に返った。正面の帽子は表情だけを残したまま、再び黙りこくっている。
大広間が静まるのを待って、マクゴナガルが小さく咳払いをした。
「名前を呼ばれたものは前へ出てきなさい」
全員が息を飲んだ矢先、1人目の生徒の名前が呼ばれた。
1人目は、気弱そうな小柄な女の子だった。女の子はおぼつかない足取りで前へ進み出て、真ん中に置かれた椅子に座った。その頭にマクゴナガルが帽子を被せると…
「ハッフルパフ!!」
帽子が叫び、ハッフルパフのテーブルから歓声が上がった。女の子は丸い頬を赤く染めながら、上級生たちの待つテーブルへ小走りで向かっていった。
帽子を被って、寮が決まるのを待つだけだー。その宣告に緊張しながらも、組分けの儀式が思っていたよりも単純だった事に名前は安堵した。
しかし、その後ヒヤヒヤする事もあった。帽子を被っても、すぐに結論が出ない子がいたのである。名前が汽車に乗る前に見かけた、ハンサムな男の子がそうだった。その子に関しては、帽子が難しそうな顔で悩み始めたので、上級生のテーブルでもざわつきが起こった。しかし最終的に帽子は「グリフィンドール!」と叫び、彼はホッとした表情でテーブルへ向かっていった。
何人かが呼ばれた後、あの赤毛の女の子の番になった。先の部屋で集まった時、男の子の方はスリザリンを望んでいた…そう名前は思い出した。しかし赤毛の子が帽子を被るやいなや、組分け帽子は「グリフィンドール!」とすぐに決断を下した。
名前は思わずあの男の子を見たが、彼は名前より前の列に立っており、その表情は見えなかった。女の子は帽子を椅子に置いて立ち去る時、ちらっと寂しそうな顔を彼に向けたように見えた。
組分けも後半に差し掛かった頃、リーマスの名前が呼ばれた。いよいよだ。名前に軽く目配せをして、リーマスは丸椅子へと進み、ぎゅっと目を瞑って帽子の判断を待った。
「グリフィンドール!」
帽子が叫び、リーマスは「やった!」と顔いっぱいに笑顔を浮かべた。彼は帽子を脱ぎながら、嬉しさに溢れる瞳を名前に向けた。希望の寮に決まった友人を祝福して、名前は微笑みながら拍手をした。
リーマスと同じ寮になれたら、と名前は心の中で再び思った。しかしグリフィンドールになれるかというと、その自信は無い。グリフィンドールの掲げる「勇猛果敢」という言葉は、どうも自分にはしっくりこない要素に思える。
その後はレイブンクロー、ハッフルパフ、またレイブンクローと続き、名前が汽車で見かけたメガネの男の子がグリフィンドールとなった。彼は「当然」と言わんばかりに余裕たっぷりな表情で、グリフィンドールのテーブルに悠々と向かっていった。
「スネイプ・セブルス」
例の黒髪の男の子が呼ばれたのはその後間もなくだった。
男の子は唇をきゅっと噛んで、帽子を被りながら、グリフィンドールのテーブルにちらっと目を向けたように見えた。あの女の子を見たに違いないと名前は思った。しかし、帽子はほどなくして「スリザリン!」と叫んだ。
彼の表情からその気持ちは読めなかった。嬉しいのかも、がっかりしたのかも分からない。彼はまっすぐに上級生の待つテーブルへ歩いていった。その途中、グリフィンドールの方へ目線を向けることは無かった。
彼が赤毛の子と一緒の寮になれなかった事に名前は同情したが、他人への心配はすぐさま遠くへ吹き飛んだ。「苗字・名前」自分の名前が呼ばれたのである。
おずおずと前に進み椅子に座ると、ホグワーツのきらびやかな大広間全体が視界に広がった。上級生も先生も、全員が自分を見つめている。そのプレッシャーだけで、名前は顔が熱くなり、汗がぶわっと全身からにじみ出るのを感じた。
帽子は名前の頭にはあまりに大きく、かぶった瞬間に目の前が真っ暗になってしまった。帽子に視界を奪われ、名前はますます不安を覚えた。
「苗字家の子供だな?」
帽子が名前の頭上で囁いた。未知の生き物が頭の上で動いている。とても快適とは言えない状況に、名前は目眩がする思いだった。
「苗字はハッフルパフの家系だったな。君も優しく、努力を惜しまない心を持っている」
帽子は思っていたよりもよく喋る。聞こえていなかっただけで、他の生徒の時もこれくらい喋っていたのだろうか。そしてこの時点で、名前は自分がハッフルパフになることを確信した。
「だが…」
名前が気を緩めたその時、帽子の声色が急に低くなった。
「興味深い、実に興味深い…。まだ誰も気付かないだろうが…君には、ひとつ天才的な才能がある」
名前は耳を疑った。天才的な才能?
今まで自分がどこか突出しているなんて思ったこともない。どちらかと言えばその逆だ。帽子は何を言っているんだろうか。名前の心臓がバクバクと鳴り始めた。
「なんの…才能…?」
震える声で、名前は思わず帽子に問いかけた。
「それは私の口からは言えん」
帽子は厳しい声で答えた。
「君の能力はそのままでも素晴らしい。が、スリザリンであれば更なる飛躍を遂げられる。偉大な人物になれるぞ。スリザリンには、そのきっかけがある…」
帽子が何を言っているのか、名前には全く理解が出来なかった。まるで外国語のようだ。耳に入ってはくるが、脳でそれを処理する前に言葉が消えてしまう。動揺のあまり、思考が止まってしまったのだ。
しんと静まり返った大広間全体が、自分をじっと見つめている。帽子はもう喋らない。質問にも答えてくれない。そして名前自身、考えを言葉にまとめる事が出来なくなっていた。
残された道はひとつしかない。名前は目を閉じて、黙って頷いた。
「よろしい。……スリザリン!」
帽子が叫び、スリザリンのテーブルからワアッと歓声があがった。
名前は信じられない思いで目を開いた。頭の中は、組分け帽子を被る前よりも真っ白だった。顔が火照って、足がもつれそうだ。名前は転ばないよう足下を慎重に見つめながら、スリザリンのテーブルに向かってぎこちなく歩き出した。
広間には何千という蝋燭がユラユラと浮かんでいる。天井を見上げると、そこには真っ黒な空が広がり、無数の星が降り注いでいた。まるで暖かな屋外に出たかのようだ。
大広間の奥で新入生たちを待っていたのは、つぎはぎだらけでボロボロの帽子だった。
くたびれきった帽子が背のない丸椅子に置かれており、マクゴナガルを始めとする教師たちはその薄汚い帽子をじっと見つめ、厳かに沈黙を守っている。
そのちぐはぐな光景を新入生たちは戸惑いながら見つめていたが、その直後にあっと驚く出来事があった。なんと帽子に急に表情がうまれ、歌い出したのである。突然の出来事に一年生の何人かがビクッと体を反らした。
帽子は高らかに長々と歌い上げたが、組分けに対する緊張から、名前には帽子の歌などまったく頭に入ってこなかった。周りの生徒たちも、恐らく同じ様子だ。いつの間にか歌は終わり、各寮のテーブルから起こった拍手に名前はハッと我に返った。正面の帽子は表情だけを残したまま、再び黙りこくっている。
大広間が静まるのを待って、マクゴナガルが小さく咳払いをした。
「名前を呼ばれたものは前へ出てきなさい」
全員が息を飲んだ矢先、1人目の生徒の名前が呼ばれた。
1人目は、気弱そうな小柄な女の子だった。女の子はおぼつかない足取りで前へ進み出て、真ん中に置かれた椅子に座った。その頭にマクゴナガルが帽子を被せると…
「ハッフルパフ!!」
帽子が叫び、ハッフルパフのテーブルから歓声が上がった。女の子は丸い頬を赤く染めながら、上級生たちの待つテーブルへ小走りで向かっていった。
帽子を被って、寮が決まるのを待つだけだー。その宣告に緊張しながらも、組分けの儀式が思っていたよりも単純だった事に名前は安堵した。
しかし、その後ヒヤヒヤする事もあった。帽子を被っても、すぐに結論が出ない子がいたのである。名前が汽車に乗る前に見かけた、ハンサムな男の子がそうだった。その子に関しては、帽子が難しそうな顔で悩み始めたので、上級生のテーブルでもざわつきが起こった。しかし最終的に帽子は「グリフィンドール!」と叫び、彼はホッとした表情でテーブルへ向かっていった。
何人かが呼ばれた後、あの赤毛の女の子の番になった。先の部屋で集まった時、男の子の方はスリザリンを望んでいた…そう名前は思い出した。しかし赤毛の子が帽子を被るやいなや、組分け帽子は「グリフィンドール!」とすぐに決断を下した。
名前は思わずあの男の子を見たが、彼は名前より前の列に立っており、その表情は見えなかった。女の子は帽子を椅子に置いて立ち去る時、ちらっと寂しそうな顔を彼に向けたように見えた。
組分けも後半に差し掛かった頃、リーマスの名前が呼ばれた。いよいよだ。名前に軽く目配せをして、リーマスは丸椅子へと進み、ぎゅっと目を瞑って帽子の判断を待った。
「グリフィンドール!」
帽子が叫び、リーマスは「やった!」と顔いっぱいに笑顔を浮かべた。彼は帽子を脱ぎながら、嬉しさに溢れる瞳を名前に向けた。希望の寮に決まった友人を祝福して、名前は微笑みながら拍手をした。
リーマスと同じ寮になれたら、と名前は心の中で再び思った。しかしグリフィンドールになれるかというと、その自信は無い。グリフィンドールの掲げる「勇猛果敢」という言葉は、どうも自分にはしっくりこない要素に思える。
その後はレイブンクロー、ハッフルパフ、またレイブンクローと続き、名前が汽車で見かけたメガネの男の子がグリフィンドールとなった。彼は「当然」と言わんばかりに余裕たっぷりな表情で、グリフィンドールのテーブルに悠々と向かっていった。
「スネイプ・セブルス」
例の黒髪の男の子が呼ばれたのはその後間もなくだった。
男の子は唇をきゅっと噛んで、帽子を被りながら、グリフィンドールのテーブルにちらっと目を向けたように見えた。あの女の子を見たに違いないと名前は思った。しかし、帽子はほどなくして「スリザリン!」と叫んだ。
彼の表情からその気持ちは読めなかった。嬉しいのかも、がっかりしたのかも分からない。彼はまっすぐに上級生の待つテーブルへ歩いていった。その途中、グリフィンドールの方へ目線を向けることは無かった。
彼が赤毛の子と一緒の寮になれなかった事に名前は同情したが、他人への心配はすぐさま遠くへ吹き飛んだ。「苗字・名前」自分の名前が呼ばれたのである。
おずおずと前に進み椅子に座ると、ホグワーツのきらびやかな大広間全体が視界に広がった。上級生も先生も、全員が自分を見つめている。そのプレッシャーだけで、名前は顔が熱くなり、汗がぶわっと全身からにじみ出るのを感じた。
帽子は名前の頭にはあまりに大きく、かぶった瞬間に目の前が真っ暗になってしまった。帽子に視界を奪われ、名前はますます不安を覚えた。
「苗字家の子供だな?」
帽子が名前の頭上で囁いた。未知の生き物が頭の上で動いている。とても快適とは言えない状況に、名前は目眩がする思いだった。
「苗字はハッフルパフの家系だったな。君も優しく、努力を惜しまない心を持っている」
帽子は思っていたよりもよく喋る。聞こえていなかっただけで、他の生徒の時もこれくらい喋っていたのだろうか。そしてこの時点で、名前は自分がハッフルパフになることを確信した。
「だが…」
名前が気を緩めたその時、帽子の声色が急に低くなった。
「興味深い、実に興味深い…。まだ誰も気付かないだろうが…君には、ひとつ天才的な才能がある」
名前は耳を疑った。天才的な才能?
今まで自分がどこか突出しているなんて思ったこともない。どちらかと言えばその逆だ。帽子は何を言っているんだろうか。名前の心臓がバクバクと鳴り始めた。
「なんの…才能…?」
震える声で、名前は思わず帽子に問いかけた。
「それは私の口からは言えん」
帽子は厳しい声で答えた。
「君の能力はそのままでも素晴らしい。が、スリザリンであれば更なる飛躍を遂げられる。偉大な人物になれるぞ。スリザリンには、そのきっかけがある…」
帽子が何を言っているのか、名前には全く理解が出来なかった。まるで外国語のようだ。耳に入ってはくるが、脳でそれを処理する前に言葉が消えてしまう。動揺のあまり、思考が止まってしまったのだ。
しんと静まり返った大広間全体が、自分をじっと見つめている。帽子はもう喋らない。質問にも答えてくれない。そして名前自身、考えを言葉にまとめる事が出来なくなっていた。
残された道はひとつしかない。名前は目を閉じて、黙って頷いた。
「よろしい。……スリザリン!」
帽子が叫び、スリザリンのテーブルからワアッと歓声があがった。
名前は信じられない思いで目を開いた。頭の中は、組分け帽子を被る前よりも真っ白だった。顔が火照って、足がもつれそうだ。名前は転ばないよう足下を慎重に見つめながら、スリザリンのテーブルに向かってぎこちなく歩き出した。