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第一部

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名前
苗字

3ヶ月前までの寒さが嘘だったかのように、初夏のホグワーツには太陽が眩しく降り注ぎ、軽装になった生徒達をさんさんと照らすようになった。緑に生い茂る草木や、キラキラと水面を輝かせる湖が人々を夏の遊びへと誘う。しかし大半の生徒はそれを苦々しそうに眺めながら、憂鬱な気持ちで勉学に励まなければならなかった。期末試験がいよいよ迫ってきたのだ。図書館は満席状態になり、張りつめた空気が廊下まで流れてくるかのようだった。名前は変身術の教室からの帰り道、図書館から漂う重々しい雰囲気に当てられて深く溜息をついた。

変身術の特別授業は、今日が2年生で最後の機会だった。期末試験まで1週間を切り、マクゴナガルは名前の他科目の成績を考慮して試験勉強に集中するよう命じたのだ。試験が終わればすぐさま夏休みに入る。魔法が使えない2ヶ月間だ。動物もどきの練習を9月まですることが出来ないなんて。せっかく積み上げてきたものが、夏の間にサラサラと崩れ落ちていってしまうのではないかと、名前は不安でたまらなかった。


『ミス・苗字、今のあなたに必要な練習は魔法を使う事ではありません』

夏休みを前にしてうなだれる名前の気持ちを察してか、授業の終わりにマクゴナガルが言った。

『共感できる動物を見つけること。これが何よりも大事な動物もどきの要になります』


マクゴナガルの言葉を頭の中で繰り返しながら、名前は機械的に大広間へと向かっていた。動物もどきの理論を理解し、足がかりとなる呪文を覚えたものの、さすがの名前も最難関の変身術を1ヶ月で習得する事は不可能だった。変身するべき対象を思い描けない事には何も始まらない。名前は手当り次第様々な動物を思い浮かべてみたが、どれも上手くいかなかった。猫、ふくろう、ネズミ…ホグワーツでよく見かける身近な動物だったらどんなに簡単だったか。名前は大広間に差し掛かる階段をのぼりながら、再びため息をついた。しかしのぼった先に広がった景色の中に黒髪の少年を見つけて、名前の心臓は一瞬弾むように鼓動した。セブルスも名前に気付き、大広間へと向かう速度を少し緩めた。その些細な動作が嬉しく、名前は小走りで彼の元に駆け寄った。

「セブルスもこれからお昼?」

「そうでなきゃこんな所には来ない」

生徒達で賑わうテーブルを鬱陶しそうに眺めながら、セブルスは名前と並んで大広間に入った。朝からずっと同じ席で食事と勉強を交互にしているグループも何組か見受けられる。二人がスリザリンのテーブルに着くと、目の前のサンドイッチがふわりと浮かび、出口に向かってひとりでに飛んでいった。

「ああ、今の多分ミランダのだ」

新たに現れたサンドイッチを掴みながら、名前が何気なく呟いた。ミランダは昼食の場に決して姿を現さない。きちんと食べていないのではと心配した名前に、彼女は笑ってそのわけを話したのだ。

「どういう事だ?」

飛んでいったサンドイッチの先を見つめながら、セブルスがたずねた。彼がその光景を見るのはどうやら初めてらしい。

「ミランダってね、お昼は絶対大広間に来ないの。呼び寄せ呪文でサンドイッチだけ呼んで、好きな所で食べてるんだって」
"孤独だった一年生時代の癖で"というミランダの言葉を名前は言いかけて飲み込んだ。
「びっくりだよね?」

セブルスは感心したように頷いて、ぽつりと言った。

「そうか、その手があったか…」

「えっ」
名前はサンドイッチを頬ばったまま、慌ててセブルスの顔を見た。
「セブルスはそんな事しないでね?見つかったら怒られるし、それに…私が一緒に食べれる人がいなくなっちゃうから…」

「君も同じようにすればいいじゃないか。外でフラメルと一緒に食べれば問題ないだろう」

「そういう事じゃなくて」
名前は顔を赤らめて反論したが、本当に言いたいことは口をついては出ないものだ。セブルスは名前の本音を露とも知らぬまま、何を言ってるのか分からないという顔で首をかしげた。

「…何でもない」
名前は自分の言った事を少し後悔しながら、俯いてサンドイッチの半分を口に入れた。一年生から断続的に保てている、セブルスとのこの時間が無くなるのは何としてでも避けたかった。リリーと三人という形ではない、二人だけの時間が名前は欲しかったのだ。

「ねえ、セブルス」
名前は気を取り直して、いま自分が期末試験以上に悩んでいる事柄について彼の手を借りる事にした。
「私って動物に例えるなら何だと思う?」

「動物?」
少し間を置いて、セブルスが答えた。
「……亀」

「亀?」
自分では考えてみたことも無かった回答に、名前は思わず目を丸くした。
「なんで?」

「のろいから」

「ちょっと!」
鼻で笑うセブルスを平手打ちせんばかりの勢いで、名前は身を乗り出した。セブルスは全く動じずに、中央の皿から2枚目のサンドイッチを取ろうとしている。

「動物もどきになるためには、共感できる動物を見つける事がカギなんだって。だから…」

「じゃあ、猿。うるさいから」

「セブルス!」
面白そうに笑うセブルスからサンドイッチをひったくって、名前は苦虫を噛み潰したような表情で彼を見た。

「ほら、やっぱり猿だ。人からサンドイッチを取る動作が猿そっくり」

「真剣に考えてってば!」
名前はそのままサンドイッチを口にくわえ、怒りにまかせてそれを勢いよく平らげた。セブルスはまだおかしそうに笑っている。名前はその様子に苛立ってはいたが、セブルスがリリー無しでこんなにも笑うのは初めてな様な気がして、少しだけ頬が緩んだ。

「まあ試してみて損は無いんじゃないか?亀だとしたら、さぞ使える人材になるだろうな」
求める限り無限に現れるサンドイッチを手にしながら、セブルスが言った。名前は「試しません」ときっぱり言い放った後、食後のかぼちゃジュースを複雑な思いで口にしながら、思わずむせそうになった。



セブルスと大階段下の踊り場で別れ、名前はいつものように8階の部屋へと向かった。秘密の自習室の扉を開くと、既にミランダが机に向かってレポートを書き進めているところだった。

「ハロー、名前
羊皮紙から目を離さずにミランダが口を開いた。その手は自動速記羽根ペンのように止まることなく動いており、名前はその速さにしばし見入ってしまった。

「ミランダ、40分前くらいにお昼呼んだでしょう」

「ああ、私のサンドイッチに会った?」

ミランダの物言いに名前はプッと噴き出した。あのサンドイッチが大階段を駆け上がり、壁を通過してこの部屋に入ってきたかと思うと、また更におかしさが込み上げてきた。

「うん、目の前の皿から飛んでった」

名前は少し離れた席に荷物を置いてから壁際に立ち、深呼吸して動物もどきの呪文を心のうちで念じ始めた。これまでに試したことの無い、新たな動物のイメージを思い起こしながら…。

「何してるの?」

名前のため息に気付き、ミランダが鈴のような声で呼び掛けた。名前は何も起きなかった事にほっとしつつ、やや失望しながらミランダに向き直った。

「動物もどきの練習。共感できる動物を思い起こす事が必要なんだって…」

「ふうん」

「それでね、セブルスに私が似てる動物が何かって聞いてみたら、亀とか猿って言うんだよ!ひどい冗談だけど、もし本当にそうだったらどうしようと思って念のため試してみたの…違ったみたいで良かった」

名前は大きく伸びをしてから、ミランダの隣の席に腰掛けた。鞄からノートと教科書、そして一昨年のクリスマスにミランダから貰った羽根ペンを取り出し、魔法史の暗記に取り組む準備をした。

名前、あなたそんな事言われても彼のことが好きなの?」

不意をつかれた問いかけに、名前は手にしたばかりの羽根ペンを落としそうになった。ミランダは相変わらず羊皮紙に文字を書き連ねていたが、その顔には明らかに呆れ果てたような色が浮かんでいる。

「あーウン、好き、かな…」

自分の言葉に顔を真っ赤にしながら、名前は誤魔化すように教科書のページをめくった。しかし勢いあまったせいか、めくった拍子にページの端が切れてしまった。名前は咳払いをして、さきの発言を無かった事にしようと、ミランダに質問を投げかけた。

「ミランダは私が動物だったら何だと思う?」

「そうねえ…」
ミランダは初めて手を止めて、ゆっくりと視線を起こした。
「はっきりとは分からないけど…でも、きっと美しい動物でしょうね」

「そ、そう?」
まさかミランダからの言葉に赤面する事になるとは思っていなかった名前は、照れ隠しに慌てて顔を教科書にうずめんばかりに下を向いた。

「そうよ。あなた美しいもの、外見も内面も」

「あ、ありがとう…」
名前は消え入るような声で呟き、教科書に書かれた年号を闇雲に書き取りはじめた。しかしその後一時間は何も頭に入らぬまま、延々とノートに曖昧な記述を書くだけの時間になってしまった。




圧倒的な準備不足で迎えた期末試験だったが、その出来は名前が思っていたよりも悪くなかった。薬草学ではスプラウト先生が事前に告知した範囲が親切にもそのまま出題され、呪文学の実技は名前の得意なスコージファイだった。一年生の頃、魔法薬の授業でセブルスが何度も名前の机に向けて放っていた呪文だ。それほどに思い出深い魔法を、名前が完璧に習得しないはずがなかった。

しかしそのスコージファイの修練場ともなった魔法薬学の試験に関しては、前年度のような奇跡は起きず、実力相応の結果となった。試験が始まる5分前にセブルスの顔を見て、名前はどうして彼なりのコツを全て聞いておかなかったのだろうと初めて後悔した。しかしこの一年で習った膨大な量の魔法薬の作成手順を、5分のうちにセブルス流に置き換えるなどとても出来ない。名前は泣く泣く諦め、鍋から見事な白色の煙を上げるセブルスの隣で、灰色がかった煙の魔法薬を煎じ終えたのだった。


学期の終わりはあっという間にやって来た。
名前は駅に向かう馬なしの馬車にミランダと乗り込み、夏の緑一色の風景をぼんやり眺めていた。どこもかしこもスリザリンのローブと同じ、輝くような深緑に溢れている。結局今年もまた、自分がなぜスリザリンに組分けされたのか明確に分からないまま過ぎ去ってしまった。

「じゃあ、私はここで」

ホグズミード駅の入口に差し掛かった頃、ミランダが足を止めて名前に言った。

「え?」
名前は目をぱちくりさせて、身軽な格好の親友を見つめた。
「どういう事?汽車に乗らないの?」

「そうなの。今年はちょっとだけ、家族とホグズミードに滞在する予定なの」

「えーっ」
予想外の出来事に、名前は思わず声を上げた。
「そんな!一緒に車内販売のお菓子食べるの楽しみにしてたのに」

「言い忘れててごめんね」
首にかけた石のネックレスをジャラジャラ言わせながら、ミランダがにっこりと笑った。
「でもあなたには他にも友達がいるんだから。帰りの汽車くらい、困らないでしょう?」

「困る」
自分が友達と言える人物を頭の中に思い浮かべながら、名前は固い表情で答えた。グリフィンドールのグループにさっと混ざれるはずも無い。名前はミランダとの名残惜しい別れの後、急いで汽車に乗り、車両の端から端までを見渡す勢いで車内を小走りに渡り歩いた。

「あっ、いた!」
最後尾に差し掛かった人気のない車両で、名前はやっと見つけた友人の姿に安堵して叫んだ。

「…何の用だ」
コンパートメントの扉を開けて入ってきた名前を不審そうに見つめながら、セブルスが口を開いた。

「良かった、セブルスが一人で」
セブルスと向かい合うようにして一対一で腰掛けながら、名前は満面の笑みを浮かべた。四人用の席は広々として心地が良い。セブルスは読んでいた本を脇に置き、眉根にしわを寄せながら名前を見た。

「フラメルと一緒なんじゃなかったのか?」

「それが…ミランダ、ホグズミードに用があるから汽車には乗らないんだって。そんな事あるんだね?」
名前は鞄からフィフィフィズビーを取り出して、その一つをセブルスに差し出した。
「だからセブルスと一緒に帰ろうと思って…はい、これあげる」

「この先何時間も君と顔を突き合わせてなきゃならないって事か?頼むから変な物は食べるなよ、部屋いっぱいに膨らむガムとか」

「えっ」
セブルスの言葉に名前は取り出しかけたドルーブルの風船ガムを慌てて仕舞い、鞄の奥底におしやった。
「うん、大丈夫大丈夫、大人しくしてる」

ミランダとの別れが突然来てしまったことに落胆していた名前だったが、目の前にいるセブルスを見ながら、これはこれで願ってもいない奇跡だと心の奥で感謝した。セブルスがルシウス・マルフォイといる可能性は十分にあったのに、運良く今こうして二人きりでキングス・クロスへの旅を過ごせている。セブルスと今年度最後に過ごすのはリリーでもルシウスでもない、自分なのだ。そう思うと心が浮き立つようだったが、ふとセブルスは夏休み中もリリーと会うのだと思い出し、フィフィフィズビーで浮き上がった体も地に落ちるようだった。

名前はセブルスの脇に置かれた本をちらりと見た。あの黒い表紙の本ではない。図書館にも置いてある、上級魔法薬の本だ。名前はほっと胸を撫で下ろした。ルシウスも今年で卒業だ。闇の魔術に対するセブルスの関心は、今後薄らいでいくかもしれない。

「ねえ、聞くまでもない事だとは思うけど…」
フィフィフィズビーの箱を握りしめながら、名前は彼に問いかけた。
「セブルスも純血主義の思想なんて、嫌いだよね?」

セブルスは車窓の外を眺めたまま、すぐには答えなかった。沈黙を予期していていなかったせいか、名前は心が急にざわつくのを感じた。

「…厄介な思想だ。どうしてそんな事を聞くんだ?」

「ううん、何でも、ただ聞いてみただけ」
名前は大きく首を振って、誤魔化すように二つ目のフィフィフィズビーをセブルスの席に投げた。
「最近純血主義をうたってる良くない魔法使いがいるって聞いたから。嫌だよね、そういう人達」

セブルスは否定も肯定もせずに、座席に転がったフィフィフィズビーを拾って手の中に収めた。二人の間に気まずい空気が流れ、名前は自分の考え無しの発言を少しだけ後悔した。一年生の時、リリーを侮辱したパーキンソンにセブルスと共に挑んだではないか。それがセブルスの、反純血主義である事に対する何よりの証拠だ。名前はそう自分に言い聞かせながら、空になったお菓子の箱を必要以上に折って畳んだ。

「君の動物事件はあれからどうなったんだ?」

「えっ」
突然自分に関する話題を振られ、名前は驚いてぱっと顔を上げた。
「あ、いや何も…結局ホグワーツにいる間は見つけられなかった」

「そうか」
セブルスは窓枠に肘をつきながら、抑揚のない声で言った。名前はセブルスが窓の外に向けた視線を追って、流れゆく風景を見た。広大な森が広がっている。この森の中には、どれだけの動物がいるんだろう。鹿、リス、熊…。思い当たる動物を頭に浮かべながら、名前は自分の顕在意識に上がってくるその種類の少なさに失望しそうになった。

「動物図鑑でも読もうかな…」

「ああ、それはいい」
名前の呟きに、セブルスが鼻で笑いながら答えた。
「マグルの本屋にも売ってるぞ。幼児向けのコーナーに」

「もう、こっちは必死なんだってば!」
そう言いながらも、セブルスの冗談に名前は笑ってしまった。
「知ってても思いつかない動物っていっぱいいるじゃない?セブルスもいざ挙げてみようとしたら、そんなに思いつかないと思うよ」

「そうか?じゃあ競ってみるか?」

「え、うん、いいよ…」
突然の申し出に面食らいながらも、名前は承諾して鞄からノートを取り出した。
「じゃあ交互に挙げてみようよ。亀と猿はなしで」

「蛇」

「ライオン」

「キリン」

「キリン!?えっと…あ、ちょっと待って、書くのが追いつかないから」
名前はそこまでの動物の名前を急いで書き留め始めた。しかしキリンに関してだけは括弧にくくって小さく記した。
「じゃあ、穴熊」

「寮のシンボルを言ってるだけじゃないか、芸がないな。象」

「ねえ、真面目にってば!」
再び登場した大型動物に、名前は思いがけず噴き出した。動物もどきは隠密行動に役立つとマクゴナガルは言っていたが、象に変身した場合はどうなのだろう。想像をするだけでおかしく、あまりに滑稽な回答に二人は笑った。

それからいくつもの動物が二人の口から飛び出し、名前のノートはあっという間に埋まっていった。段々と名前が出てこなくなってきた名前に対して、セブルスはすらすらと止まることなく動物の種類を挙げていく。疲れで頭が働かなくなった名前はとうとう虫の名前を挙げそうになり、慌てて首を振った。

「えー、うーん、じゃあ…ヤ、ヤモリ…」

「鷺」

「鷺?はー、よくそんなに出てくるね」

「今そこを飛んでいる」
そう言ってセブルスは窓の外を指さした。森の中に美しい湖が広がっている。名前が咄嗟に空を見ると、一羽の白鷺が汽車に追い越され遠のいて行くところだった。

「なるほどねー…じゃあ、えっと…」
名前もセブルスに倣うように車窓からの風景を眺めながら、何か動物の姿がありはしないかと必死に探した。
「あ!ふくろう!あっ違う、ふくろうはもう試したんだった…」

「アルマジロ」

「またそういう変わった動物の名前出すんだからー」
ノートに顔を突っ伏しながら、名前は小さく"アルマジロ"と端に書いてため息をついた。
「だめだ…もう、無い…つかれた…」

「情けないな。もっと努力しろ」
一人涼しい顔をしたセブルスが名前の額めがけてフィフィフィズビーを投げた。
「まだ沢山あるぞ。ダチョウ、マングース、ラマ…」


ロンドンに近付く頃には名前はすっかり疲れ果て、ノートの残り枚数も少なくなっていた。魔法が使えない夏休みにはやる事がないとばかり思っていたが、とんでもない思い違いだった。この数時間で書き留められたあまたの動物について、共感できるかどうか考え、取捨選択しなければならない。

「ありがとうセブルス。おかげで方向性が見えました…」
虚ろな目で彼を見上げながら、名前は鞄からドルーブルの風船ガムを取り出して言った。
「これ、お礼です」

「いや、いらない。そんなものを自分の家で食べるなんて、考えるだけでも恐ろしい」

名前は渋々ガムをしまい直し、荷物をまとめて立ち上がった。汽車は停車し、窓からはたくさんの大人たちの姿が見える。キングス・クロスに着いたのだ。名前とセブルスはプラットフォームの最後尾に降り立ち、それぞれのトランクを受け取って出口に向かって歩き出した。

「じゃあね、セブルス、良い夏休みを」

「ああ、人生最高の夏休みになるだろうな。楽しみすぎて泣きそうだ」
無表情でそう返すセブルスの隣で、名前は声をあげて笑った。ホームの向こうで家族が待っている。嬉しい再会のはずが、名前の心は寂しさでいっぱいだった。

「早く夏休み終わるといいね。セブルスがいないとつまらないから」

「僕は君のバカな話から解放されると思うと嬉しいね」
名前を横目で見ながら、セブルスがにやりと笑った。名前は口では文句を言ったものの、彼のその言葉にどれだけの友情が込められているか、今となってはよく分かっていた。それに少しの愛情が加わってくれればいいのに。そう思ってしまった自分の惨めさに、名前は再び気落ちしそうになった。

「夏の間、手紙書くね」

「やめてくれ、絶対に送らないでくれ。せっかくの休暇が台無しだ」

「絶対送って、とっても嬉しいから、ってことね?」

「違う。言葉通り、そのままだ」

ふっと笑いながら、二人はホームの端で別れた。名前は後ろ髪を引かれる思いで何度も振り返りながら、レンガの壁を通過していくセブルスの姿をしっかりと目に焼きつけていた。

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