第一部
名前変換
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ガンッと足に何かが当たった衝撃で、名前は驚いて顔をあげた。どうやら机に突っ伏したまま、眠っていたようだ。
いつの間にか教卓の横にマクゴナガル先生が立っている。それを見て、名前はセブルスが寝ている自分を蹴って起こしたのだと気付いた。
「それでは授業を始めましょう。」マクゴナガル先生は名前を見つめながらコホンと咳払いをした。
「変身術は皆さんがこの学校で習う魔法の中で、最も難しいものです。」
先生が杖を振ると、黒板に何やら幾何学的な図が描かれ始めた。滑るように正確な円がいくつも生み出されていくさまを、生徒たちはじっと見守った。
もうダメだ。マクゴナガル先生が図の横に見たこともない文字を書いた瞬間、名前はそう確信した。魔法薬や飛行訓練よりも難しい学問を自分が理解できるわけがない。
教科書をめくると、先生が描いたものとまったく同じ図が早速載っていた。円の中にまた円があり、ヒトデのような形をした七角形がその内側に書かれている。七角形のそれぞれの頂点には記号なのか数字なのかも分からない文字が記されていた。名前は教科書をパタリと閉じたい気持ちをぐっとこらえて、マクゴナガル先生の方に向き直った。
「変身術の理論を一年生のうちから全て理解しろとは言いません」先生は厳格な面持ちのまま、生徒全員の顔を見渡した。
「ですがやみくもに杖を振るのは非常に危険です。変身術は、一歩誤るだけで取り返しのつかない状態になる場合もあります」
そう言って、マクゴナガル先生は教卓の前に置かれた小さな腰掛け椅子に杖を向けた。何が起こるのか、クラス全員が息を飲んでそれをじっと見つめた。そして次の瞬間、椅子が目にも止まらぬ速さで回転したかと思うと、何と生きた子ブタに変わったのだ。
「私の授業では集中を第一とすること。さもないと、皆さん自身がブタになりかねません。」
名前は教室中がピリピリと緊張に包まれるのを感じた。そして同時に恐ろしさがこみ上げてきた。ついさっきまで椅子だった子ブタは、鼻をフガフガ鳴らしながらあたりの匂いを嗅ぎ回っている。もし、術が失敗して自分にはね返ってしまったら…考えるだけで身震いがした。
それからマクゴナガル先生は黒板に書かれた全てをノートに写すよう指示した。
名前が書き写した図はお世辞にも綺麗とは言えなかったし、読解不能な文字に関しては、もはや見よう見まねである。計算式のような記述が変身術を理解する上での要になると先生は言ったが、名前にはさっぱりだった。
生徒たちが黒板を写し終え、羽根ペンを動かす手を止めた頃、一人一人にマッチ棒が渡された。魔法薬学のガヤガヤした授業とは対照的に、教室は水を打ったように静かだった。
「最初の授業では、基礎の基礎にあたる変身術を試してもらいます。」
先生はマッチ棒を一本手に取ったかと思うと、あっという間にそれを銀の針に変えてしまった。
「変身術はこういった小さな変化の集合体です。見かけや大きさの近いもの同士から挑戦していきましょう。」
名前は目の前に置かれたマッチ棒を恐る恐る手に取った。極めて普通のマッチ棒のようだ。今度は杖で軽く叩いてみた。何も起こらない。
その後、先生は呪文を黒板に書き、皆にやってみるよう促した。教室は生徒たちの呪文を叫ぶ声に包まれたが、飛行訓練の時とは違い、誰も得意げに声をあげる様子はなかった。
教室を歩き回りながらマクゴナガル先生が言った。
「針の形や色をよく思い出してください。マッチ棒の赤い部分が針の糸を通す穴になるよう、対応させて想像することが大切です。」
なるほど、そう言われてみると針に形が似ているような気がしなくもない。名前はマッチ棒をまっすぐ見ながら、その上に針の姿を思い描いた。
半透明の針がマッチ棒に被さるようなイメージだ。マッチの実体は頑固なまでにくっきりと目に映っていたが、名前は想像の針がマッチ棒にしっかり重なるよう集中し続けた。
そして、ついにマッチ棒の色がゆらっと薄れ、銀に輝く瞬間を見つけた。今だ!名前は針の幻影に集中したまま、呪文を唱えマッチ棒を杖で強く叩いた。
瞬きをした一瞬の隙に、名前の手元からマッチ棒が消えていた。
まさか、誤ってマッチ棒を消してしまった?
名前は焦って手元を見渡した。それと同時に、マクゴナガル先生が名前のもとへ駆け寄ってきた。
「なんと、まあ!」
先生は名前の机のわきでしゃがみ、1本の細い針を拾い上げて名前を見た。銀色の針がキラッと光に反射して輝いている。
「ミス・苗字」マクゴナガル先生は針を名前の机に置いて言った。「素晴らしいです。こんなにも早くマッチ棒を針に変身させたのは、あなたが初めてですよ。」
名前は驚いて先生が拾い上げた針を見た。なくしたと思っていたマッチ棒は、既に針へと姿を変えていたのだ。杖で叩いた時、勢い余って床に落ちてしまったのだろう。
「随分と一生懸命、予習をしてきたのですね?」マクゴナガル先生は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。先生の笑った顔を見るのは、これが初めてだ。
その穏やかな表情を崩したくなくて、名前はとっさに嘘をついた。
「は、はい。そうです、予習を…」
名前の答えを聞いて、先生は満足そうに手を合わせた。
「本当によく出来ました。見事な針です。スリザリンに10点与えましょう。」
先生がそう言った矢先、名前はクラス全員の目線が自分に注がれていることに気付いた。皆が信じられないという表情で名前を見ている。教室の隅の方から、アニーも恨めしそうな顔を向けていた。
「ありがとうございます…」名前は先生を遠慮がちに見上げながら、小さく呟いた。
その瞬間、教室の前方でバーンという音が轟いた。誰かが術に失敗して、机ごとひっくり返ったらしい。マクゴナガル先生はそれをフォローするために名前のそばを離れ、惨事の起こった方へ早足で向かっていった。
先生が去って初めて、名前は隣のセブルスが驚愕した目つきで自分を見つめている事に気付いた。もっとも、一番驚いていたのは名前自身だった。二人は思わず顔を見合わせ、セブルスが小声で囁いた。
「どうやったんだ?」信じられない、という気持ちが語気に表れている。「君が予習をしてる所なんて見たことないがー…」
「でしょうね。」名前は声を押し殺して答えた。「教科書を開いたのだって今日が初めてなんだから…」
それを聞いて、セブルスは悔しそうな表情で机の上のマッチ棒に向き直った。名前は急に手持ち無沙汰になったようで、どことなく居心地が悪くなった。本来なら得意げに次々とマッチ棒を変身させていくべきなのだろうが、苛立ちながら杖を振るセブルスの隣にいては、それもはばかられる気がする。
名前は仕方なく、微塵も理解出来ない黒板の図を熱心に読み込むフリをしながら、合間合間にマッチ棒をほんの数本だけ針に変えた。針の輝きは回数を重ねるごとに増していくようだった。
結局その授業でマッチ棒を変身させられたのは名前一人だけだった。自分に注がれるクラスメイトの目線が痛く、名前はそそくさと教室を出た。
しかし珍しい事に、名前のすぐ後をセブルスが追うように駆け寄ってきた。
「今朝一緒にいたあの人と関係があるのか?」肩を並べられる距離まで追いついてから、セブルスが口を開いた。
「何のこと?」ミランダの事を言っているんだろうか。質問の意図が分からず、名前は聞き返した。
「あの人は魔法の石の持ち主だって…ルシウスから聞いた。変身術に効く石でも貰ったのか?」
名前は驚いてセブルスを見た。怒るべきなのか、笑い飛ばすべきなのか分からなかった。あれは自分の実力だと言いたいところだが、あまりに上手く行き過ぎだとも思っていた。まぐれな可能性だって否定しきれない。それに、確かにミランダから石を譲り受けたー…。
だが、気配消しの石は変身術とは関係ないはずだ。名前はポケットの奥に手を突っ込み、石が効力を抑える袋に入れられているのを確認した。
しかし万が一…ミランダが説明し忘れていただけだとしたら?名前は急に不安に駆られた。そもそも今まで散々浮かばれなかった自分が、変身術だけ異様に出来るなんておかしいじゃないか。セブルスの言う通り、もしかしたら石のおかげなのかもしれない。
「もらって…ない」確信が揺らぎながらも、名前は上ずった声で否定した。「別の石ならもらったけど…。でも、授業に影響するようなのはもらってない。多分……」
そう言う名前を、セブルスは疑わしそうな目で見つめた。名前は早くミランダに会いたかった。気配消しの石に他の効果があるのかないのか、今この瞬間に知りたくてたまらない。
目の前に大広間へ続く踊り場が見えてきた。
名前はてっきりセブルスも大広間での昼食に向かうものだと思っていたが、廊下の突き当りで彼は方向を変えた。どうやらまた図書館に行くらしい。
「あの石の人の事で、一つだけ聞きたいんだが」去り際にセブルスは名前の方を振り向いて言った。
「そもそも君みたいなのが、どうやって取り入ったんだ?どんな手を使って?」
名前は今度ばかりはムッとなった。取り入るだなんて、なんて失礼な表現をするんだろう。まるで自分に下心があるみたいな言い方じゃないか。
「取り入ってなんかいません!」名前は声を荒らげた。「普通に、友達になったんです。」
厳密には普通でなかったが、石目当てにミランダと友達になったわけではない。人の気も知らないで、と名前はセブルスを睨みつけた。
「そうか」
そう言って、セブルスはその場を立ち去ろうとした。もう名前の話に興味はないらしい。あまりにそっけない態度に、名前は少し怒りがこみ上げてきた。
「あなたみたいな人とは、ミランダは絶対友達になってくれないわよ!」
名前はセブルスに向けて、舌をべーっと突き出した。セブルスはそれを冷めきった目で受け流し、顔色ひとつ変えずに図書館へと歩いていった。
いつの間にか教卓の横にマクゴナガル先生が立っている。それを見て、名前はセブルスが寝ている自分を蹴って起こしたのだと気付いた。
「それでは授業を始めましょう。」マクゴナガル先生は名前を見つめながらコホンと咳払いをした。
「変身術は皆さんがこの学校で習う魔法の中で、最も難しいものです。」
先生が杖を振ると、黒板に何やら幾何学的な図が描かれ始めた。滑るように正確な円がいくつも生み出されていくさまを、生徒たちはじっと見守った。
もうダメだ。マクゴナガル先生が図の横に見たこともない文字を書いた瞬間、名前はそう確信した。魔法薬や飛行訓練よりも難しい学問を自分が理解できるわけがない。
教科書をめくると、先生が描いたものとまったく同じ図が早速載っていた。円の中にまた円があり、ヒトデのような形をした七角形がその内側に書かれている。七角形のそれぞれの頂点には記号なのか数字なのかも分からない文字が記されていた。名前は教科書をパタリと閉じたい気持ちをぐっとこらえて、マクゴナガル先生の方に向き直った。
「変身術の理論を一年生のうちから全て理解しろとは言いません」先生は厳格な面持ちのまま、生徒全員の顔を見渡した。
「ですがやみくもに杖を振るのは非常に危険です。変身術は、一歩誤るだけで取り返しのつかない状態になる場合もあります」
そう言って、マクゴナガル先生は教卓の前に置かれた小さな腰掛け椅子に杖を向けた。何が起こるのか、クラス全員が息を飲んでそれをじっと見つめた。そして次の瞬間、椅子が目にも止まらぬ速さで回転したかと思うと、何と生きた子ブタに変わったのだ。
「私の授業では集中を第一とすること。さもないと、皆さん自身がブタになりかねません。」
名前は教室中がピリピリと緊張に包まれるのを感じた。そして同時に恐ろしさがこみ上げてきた。ついさっきまで椅子だった子ブタは、鼻をフガフガ鳴らしながらあたりの匂いを嗅ぎ回っている。もし、術が失敗して自分にはね返ってしまったら…考えるだけで身震いがした。
それからマクゴナガル先生は黒板に書かれた全てをノートに写すよう指示した。
名前が書き写した図はお世辞にも綺麗とは言えなかったし、読解不能な文字に関しては、もはや見よう見まねである。計算式のような記述が変身術を理解する上での要になると先生は言ったが、名前にはさっぱりだった。
生徒たちが黒板を写し終え、羽根ペンを動かす手を止めた頃、一人一人にマッチ棒が渡された。魔法薬学のガヤガヤした授業とは対照的に、教室は水を打ったように静かだった。
「最初の授業では、基礎の基礎にあたる変身術を試してもらいます。」
先生はマッチ棒を一本手に取ったかと思うと、あっという間にそれを銀の針に変えてしまった。
「変身術はこういった小さな変化の集合体です。見かけや大きさの近いもの同士から挑戦していきましょう。」
名前は目の前に置かれたマッチ棒を恐る恐る手に取った。極めて普通のマッチ棒のようだ。今度は杖で軽く叩いてみた。何も起こらない。
その後、先生は呪文を黒板に書き、皆にやってみるよう促した。教室は生徒たちの呪文を叫ぶ声に包まれたが、飛行訓練の時とは違い、誰も得意げに声をあげる様子はなかった。
教室を歩き回りながらマクゴナガル先生が言った。
「針の形や色をよく思い出してください。マッチ棒の赤い部分が針の糸を通す穴になるよう、対応させて想像することが大切です。」
なるほど、そう言われてみると針に形が似ているような気がしなくもない。名前はマッチ棒をまっすぐ見ながら、その上に針の姿を思い描いた。
半透明の針がマッチ棒に被さるようなイメージだ。マッチの実体は頑固なまでにくっきりと目に映っていたが、名前は想像の針がマッチ棒にしっかり重なるよう集中し続けた。
そして、ついにマッチ棒の色がゆらっと薄れ、銀に輝く瞬間を見つけた。今だ!名前は針の幻影に集中したまま、呪文を唱えマッチ棒を杖で強く叩いた。
瞬きをした一瞬の隙に、名前の手元からマッチ棒が消えていた。
まさか、誤ってマッチ棒を消してしまった?
名前は焦って手元を見渡した。それと同時に、マクゴナガル先生が名前のもとへ駆け寄ってきた。
「なんと、まあ!」
先生は名前の机のわきでしゃがみ、1本の細い針を拾い上げて名前を見た。銀色の針がキラッと光に反射して輝いている。
「ミス・苗字」マクゴナガル先生は針を名前の机に置いて言った。「素晴らしいです。こんなにも早くマッチ棒を針に変身させたのは、あなたが初めてですよ。」
名前は驚いて先生が拾い上げた針を見た。なくしたと思っていたマッチ棒は、既に針へと姿を変えていたのだ。杖で叩いた時、勢い余って床に落ちてしまったのだろう。
「随分と一生懸命、予習をしてきたのですね?」マクゴナガル先生は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。先生の笑った顔を見るのは、これが初めてだ。
その穏やかな表情を崩したくなくて、名前はとっさに嘘をついた。
「は、はい。そうです、予習を…」
名前の答えを聞いて、先生は満足そうに手を合わせた。
「本当によく出来ました。見事な針です。スリザリンに10点与えましょう。」
先生がそう言った矢先、名前はクラス全員の目線が自分に注がれていることに気付いた。皆が信じられないという表情で名前を見ている。教室の隅の方から、アニーも恨めしそうな顔を向けていた。
「ありがとうございます…」名前は先生を遠慮がちに見上げながら、小さく呟いた。
その瞬間、教室の前方でバーンという音が轟いた。誰かが術に失敗して、机ごとひっくり返ったらしい。マクゴナガル先生はそれをフォローするために名前のそばを離れ、惨事の起こった方へ早足で向かっていった。
先生が去って初めて、名前は隣のセブルスが驚愕した目つきで自分を見つめている事に気付いた。もっとも、一番驚いていたのは名前自身だった。二人は思わず顔を見合わせ、セブルスが小声で囁いた。
「どうやったんだ?」信じられない、という気持ちが語気に表れている。「君が予習をしてる所なんて見たことないがー…」
「でしょうね。」名前は声を押し殺して答えた。「教科書を開いたのだって今日が初めてなんだから…」
それを聞いて、セブルスは悔しそうな表情で机の上のマッチ棒に向き直った。名前は急に手持ち無沙汰になったようで、どことなく居心地が悪くなった。本来なら得意げに次々とマッチ棒を変身させていくべきなのだろうが、苛立ちながら杖を振るセブルスの隣にいては、それもはばかられる気がする。
名前は仕方なく、微塵も理解出来ない黒板の図を熱心に読み込むフリをしながら、合間合間にマッチ棒をほんの数本だけ針に変えた。針の輝きは回数を重ねるごとに増していくようだった。
結局その授業でマッチ棒を変身させられたのは名前一人だけだった。自分に注がれるクラスメイトの目線が痛く、名前はそそくさと教室を出た。
しかし珍しい事に、名前のすぐ後をセブルスが追うように駆け寄ってきた。
「今朝一緒にいたあの人と関係があるのか?」肩を並べられる距離まで追いついてから、セブルスが口を開いた。
「何のこと?」ミランダの事を言っているんだろうか。質問の意図が分からず、名前は聞き返した。
「あの人は魔法の石の持ち主だって…ルシウスから聞いた。変身術に効く石でも貰ったのか?」
名前は驚いてセブルスを見た。怒るべきなのか、笑い飛ばすべきなのか分からなかった。あれは自分の実力だと言いたいところだが、あまりに上手く行き過ぎだとも思っていた。まぐれな可能性だって否定しきれない。それに、確かにミランダから石を譲り受けたー…。
だが、気配消しの石は変身術とは関係ないはずだ。名前はポケットの奥に手を突っ込み、石が効力を抑える袋に入れられているのを確認した。
しかし万が一…ミランダが説明し忘れていただけだとしたら?名前は急に不安に駆られた。そもそも今まで散々浮かばれなかった自分が、変身術だけ異様に出来るなんておかしいじゃないか。セブルスの言う通り、もしかしたら石のおかげなのかもしれない。
「もらって…ない」確信が揺らぎながらも、名前は上ずった声で否定した。「別の石ならもらったけど…。でも、授業に影響するようなのはもらってない。多分……」
そう言う名前を、セブルスは疑わしそうな目で見つめた。名前は早くミランダに会いたかった。気配消しの石に他の効果があるのかないのか、今この瞬間に知りたくてたまらない。
目の前に大広間へ続く踊り場が見えてきた。
名前はてっきりセブルスも大広間での昼食に向かうものだと思っていたが、廊下の突き当りで彼は方向を変えた。どうやらまた図書館に行くらしい。
「あの石の人の事で、一つだけ聞きたいんだが」去り際にセブルスは名前の方を振り向いて言った。
「そもそも君みたいなのが、どうやって取り入ったんだ?どんな手を使って?」
名前は今度ばかりはムッとなった。取り入るだなんて、なんて失礼な表現をするんだろう。まるで自分に下心があるみたいな言い方じゃないか。
「取り入ってなんかいません!」名前は声を荒らげた。「普通に、友達になったんです。」
厳密には普通でなかったが、石目当てにミランダと友達になったわけではない。人の気も知らないで、と名前はセブルスを睨みつけた。
「そうか」
そう言って、セブルスはその場を立ち去ろうとした。もう名前の話に興味はないらしい。あまりにそっけない態度に、名前は少し怒りがこみ上げてきた。
「あなたみたいな人とは、ミランダは絶対友達になってくれないわよ!」
名前はセブルスに向けて、舌をべーっと突き出した。セブルスはそれを冷めきった目で受け流し、顔色ひとつ変えずに図書館へと歩いていった。