ちはやぶる
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桜舞う季節ーーー
「…しんっどいっ!」
千歌は自室に倒れ込んだ。
居酒屋でアルバイトをしながら、調理師免許をとるために学校に通っているのだが、学業もさることながら4月というのは変化に富んでいる。そう、歓迎会の予約が立て続けにあり、まさかのバイトでヘトヘトになっているのだ。
学校もバイトも3年目。初めは皿洗いのみだったのが、今では即戦力としてこき使われる始末。店長は若くしてお店を立ち上げ、ご飯もめちゃくちゃ美味しいと評判なのだが、いかんせんアツイ男(いや、オネエ)だった。
悪い人ではないので、千歌もついつい手を貸してしまう。
「千歌ちゃんってば、ほんと生粋の世話焼き体質よねぇ。まぁうちは助かっちゃってるけどぉ」
見た目は単なるイケメンマッチョの店長が、ほほほと口元を押さえながら笑ったことがある。笑い方ほんとに上品だな。
「う、でもやっと、明日…休み…」
バイトも学校もお休みの土日。久しぶりの休みに大歓喜といきたかったが、そうは問屋が卸さなかった。
休みを正確に嗅ぎつけた母親が、祖父の家(倉つきのでかくて古い)の掃除を手伝うよう指示してきたのだ。店長お墨付きのお人好しな千歌は、「千歌ちゃんが手伝ってくれるなら助かるのぉ」という嬉しそうな祖父の電話にノーと言えなかった。
「ひとまず、お風呂…」
気怠い身体をなんとか起こし、日付が変わってしまいそうな時計を一瞥してからお風呂に入り、そのままベッドにダイブしたのだった。
*
「すまんのぉー、倉の中はわしらもなかなか手が出せんでな」
「平気だよー!じいちゃん休んでて!電気あるとこわかるし、掃除道具も場所は変えてないでしょ?」
最近腰を痛めた祖父は、物を出し入れすることがキツくなったようだ。じゃあ頼んだと母屋に戻って行く。祖母は千歌がせっかく来てくれたからとわざわざ買い出しに行ってくれている。
祖母の料理は、もともと千歌が料理に興味を持った原点なので、素直に嬉しい。
「さて、やりますかー」
気合いを入れて、まずははたきを手にとった。バンダナを頭に巻いて、マスクをつける。窓を開けて換気しながら、箱の上の埃をはたく。
その後は千歌でも持てるものを外に出して掃き掃除。最後に窓を拭いて、物を元に戻して終了だ。
片付けの最後に、箱を持ち上げるとカチャンと少し大きな音がしたので、中を見るととてもキレイな壺だった。紅葉が舞い散る様子が描かれている。壊れてはいなくてホッとする。
素敵だなぁと見ていると、祖父がやってきてその壺をくれると言うので、ありがたくもらうことにする。
いつか自分のお店が持てたら飾っても良いかも、とホクホクした気持ちで祖母の料理に舌鼓をうち、帰宅。
せっかくだから壺をいったんキレイにしたいな、と箱から取り出した壺をはたいたその瞬間ーーー
ボフンっ
「わぷっ!」
なんて埃の量なんだと驚く千歌だが、実は埃ではなかったとわかったのはその数秒後。
「えっ!?」
「ぐっ…誰だ?」
壺の横に、少年が座り込んでいたのだ。
ただの少年ではない。びしょ濡れな上、左腕を怪我している白銀の髪をした少年。口は布で覆われて見えないが、目元を見るに、これは美少年の類ではないか?
壺を磨いたら美少年が現れた件ーーー
っていやいや、現実逃避してる場合か?
驚きでひっくり返っていた千歌は、彼が構えているものがクナイであることにも気付かず、怪我の手当をしなくてはと勢いよく立ち上がった。
「怪我!大丈夫!?」
「…え?」
「てかなんでびしょ濡れ!?お風呂!ちょうど沸かしてたから入って!」
「え、ちょっ」
戸惑う少年をよそに、千歌は両肩を(怪我してる方はできるだけそっと)持ち、半ば引きずる様に浴室へ連行する。
「シャンプーこれ、リンスはこれ、身体洗うのに、タオル、シャワーはこのレバー使えば出るから!わかる?」
実物を触りながら説明し、少年を振り返ると躊躇いながら頷いてくれた。
「よし、じゃあ服は脱げそう?なんなら手伝うけど」
なんだか顔色も冴えない気がする。風邪をひかなければいいけど…としゃがんで顔を覗き込むと、ブンブンと頭を振り回す様に否のお返事。
わかったと立ち上がり、ドアから出かけてから、
「あ、服とかないよね?君が入ってる間に適当に出して脱衣所に置くからね」
とだけ伝えて扉を閉めた。
「…えっと、現実?」
少し呆然として扉の前で立ち止まる。しばし無音だったが、やっと服を脱ぐ音、シャワーの音がし始めて、現実味がわく。
「えー…?何がどうなってるの?壺?壺のせい?」
うー…と頭を抱えて3秒。
よし!
「よくわかんないけど、出来ることからしよう!」
ひとまず腹ごしらえの用意から。千歌は慌てて冷蔵庫に手を伸ばしたのだった。
*
何が起こったのか、カカシには全くわからなかった。
その日は任務中に負傷し、帰り際に雨に降られ、最悪な気分だった。
ただいまを言っても何も返ってこない空間。
少しずつだが、その事実に慣れてきた。父、サクモが自ら命を絶ったのは数ヶ月前。
「…」
少し躊躇して、家の扉を開けた。
ボフンっ
「!?」
突然煙玉にまかれたかのように、目の前が真っ白になる。咄嗟のことにカカシはクナイを構えたが、身体が一瞬浮いたせいで、無様にも尻もちをついた。
「えっ!?」
煙が薄れて来た時、敵襲にしてはあまりにも緊張感に欠ける声がした。起き上がろうとしたが、傷が痛み、うめき声が出てしまう。
煙がほとんど消え、相手が見える。
少女というよりは女性に見えるが、まだあどけなさを感じる顔立ちの女の子。
驚いたのか、腰を抜かして口が大きく開いている。敵意は無さそうだが、まだわからない。
「怪我、大丈夫!?」
先に立ち直ったのは彼女だった。あれよあれよという間に浴室に押し込められる。動きを見ても、忍ではなさそうだ。
少しだけ警戒を解き、たっぷり溜まった湯船に視線を向ける。お風呂なんてゆっくり浸かったのはいつだったか…よく思い出せなかった。服が身体に張り付いて気持ち悪いこともあり、カカシはお言葉に甘えることにした。
身体を洗って脱衣所に出ると、シャツと短パンとガーゼのようなテープのようなもの(多分傷を保護するやつだ)が扉の近くに置いてあったので、手当をして、着替えた。
温まったからか、少し気持ちが楽になる。
「あの…」
机に置いている壺をあらゆる角度から観察している彼女に遠慮がちに声をかけた。
「あ!良かった!無事出て来れて!ねぇ、お名前は?私は千歌。今21歳だよ!」
振り返った千歌とやらは、何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。
「…はたけ、カカシ。7つ」
「えー!大人びて見えるねぇ!7歳なんだ!」
座って座ってと壺を挟んで向かいに座らせられた。
「実はさっきさぁ、この壺磨いたら突然君が現れたんだよね!もう一回磨いたらまた何か起きないかと思って磨いてたらピカピカにしちゃった!カカシくん…はどこに住んでたの?」
木の葉隠れの里だと答えると、千歌はキョトンとして、どこらへん?と板のようなもの(後にスマホだと説明を受けた)で、地図を出してくれた。その技術もだが、世界だと言われた地図があまりにも自分が知っているものと違う。
異世界トリップというやつでは?と唸る彼女を見ながら、異空間忍術で逆口寄せをされたのだろうか?とぼんやり考える。
ぐぅうーーー
「!」
「あ!ごめん!お腹すいたよね!もうこんな時間だ…私が作ったものだけど、良かったら食べて!とりあえずしっかり休んで、明日考えようよ」
千歌は、壺をヨイショと横に追いやると、おにぎりと味噌汁、そしておかずを数品食卓へ並べた。
ホカホカと湯気がたっていて、思わず生唾を飲んだ。どうぞと勧める千歌がいただきますと食べ始めるのを見て、同じよういただきますと手を合わせる。
「美味しい…」
手作りのおにぎりってこんなに美味しかったっけ?昔父さんとハイキングに行ったことをふと思い出した。
「あれ?オレ、何で泣いて…?」
頬が温かくて、触ると自分の涙だった。千歌はなぜかもらい泣きしている。
「泣いて良いよっ…泣いて良い!…よく頑張ったね…」
現れた状況から、何か勘違いしているかもしれないが…励まされるのは心地が良くて、そのままにする。
泣きながら、こちらを安心させようと笑っている。鼻水まで垂れているのをみて、つい笑ってしまった。
