君がため
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「大名様の護衛、ですか?」
「さよう。正確には大名様の娘の護衛なのじゃが…。どうもこの任務、何人かの暗部の者が担当したが、わずか数日でいわゆるクビにされてな。こちらとしても困っておるところじゃ」
三代目が書類を手に持ち、深いため息をついた。ちょうど長期任務が終わり、しばしの休暇をもらったところだったが、身体的には特に怪我も何もなく、カカシ本人も仕事に明け暮れていたい気持ちがあり了承した。
しかし、三代目が渋るような様子なのは引っかかる。
「難しい娘なのですか?」
「うーむ」
差し障りがあっても良くないと、直球で聞けば煮え切らない回答。「ひとまず姿絵じゃ」と手渡された写真(まるで見合い写真のように台紙にはさがった大層キレイな写真だった)を見る。
「(…普通に可愛いな)」
吊り目がちな大きな瞳がこちらを見返していた。艶やかな赤い唇は引結ばれ、不敵な態度を隠そうともしないなんとも気の強そうな女の子。濡羽色の黒髪がキチンと結われ、高価な着物に肢体を包まれている。年齢はカカシとそう変わらないようだ。
「おぬし、今ちょっと可愛いとか思っとらんじゃろうな」
ジトリと三代目がこちらを睨むが、肩をすくめて誤魔化す。
「だいぶ扱いにくそうな雰囲気は見て取れました。」
「…本人の希望で、護衛は一人のみじゃ。親は数人置くようにと再三申しておるが、聞く耳もたんとのことでな。期間はひと月。勿論クビにされるか任務続行不可能な場合はその限りではない。」
こりゃ大変そうだ…。
*
十一の月15日。
山々が装い、赤から橙、黄色へと美しく変化していく木の葉に季節の変わり目を感じながら、カカシは隠れ里を後にした。
「千歌 様」
火の国大名屋敷に赴き、主つまり護衛対象の父親に挨拶をして、千歌本人の居室へいき、外から声をかける。向こうからしたら見ず知らずの男の声が突然したことになるが、「入れ」と至って平静な返答があった。
「はっ」と周囲の気配を一通り確認した後、障子に手をかけて中に入った。さすがに初対面で天井から行くわけにもいかないと正面から。
頭を下げたまま、部屋の中に入る。正面に座っている女性が一人。手前の間に3人の女性が控えている。
「おもてをあげよ。そのお面は外せ」
鈴を転がすような声が、耳に心地よい。位の高い、命令し慣れた声色。言われたとおりに狐面を置く。
視線をあげると、姿絵の少女が鎮座していた。千歌はこちらを一瞥するでもなく、正座した美しい姿勢のまま目の前に立て掛けた本をめくった。姿絵とは違い、質素な紅色の衣を着ているが、よく似合っている。
「名は?」
「はたけカカシと申します」
「そうか。道中ご苦労であったな。」
そうは言いながらも全く本から目を離さない。心がこもっているとは微塵も思えなかったが、建前でも労ってもらえた礼を述べる。すると千歌は右手を軽く払う。カカシに向けてというよりは控えていた女中に向けてのようだ。部屋にいた3人が音もなく下がっていく。
どうやら大名屋敷に代々仕える忍なのだろう。身のこなしから何人かはいそうだと当たりをつける。
パタンと戸が閉まると同時に、千歌は本を閉じてようやくカカシを見た。
「じゃあ、カカシ。ハダカになって」
「は?」
「ハダカよ。服を脱ぐの」
人払いしたから安心して、と初めて年相応の笑顔を見せる。さっきまでの改まった態度は家臣専用なのか、いきなりくだけた様子に戸惑う。
「1ヶ月も寝食共にするのよ?安全かどうか確かめる権利、あるでしょ?パンツは履いてて良いわよ」
「…は」
早くもゲンナリしてしまったが、服を脱いで足元に畳む。スッと立ち上がった千歌は近づいて来て目の前に立った。覗き込まれてついのけぞってしまう。
「何してるの?マスクも外して。顔もわからない護衛なんて嫌よ」
渋々マスクをずらして、多分指摘されるだろう左目を開ける。フワッとどこからともなく甘い香りがした。
「…キレイ。片目、赤いのね」
「…これは…」
俺のものじゃない。
口に出そうだったがなんとか堪えた。その間にも千歌の観察は続く。
「これ、肩のは刺青?…ふーん…やっぱり鍛えてるのね。あ、これが忍具ね。扱いは心得てるわ。壊さないから」
クナイやまきびしで怪我をされても困ると手を出そうとしたが、じっとしていろと釘を刺される。自分の足元でガサゴソされて落ち着かなかったが、納得ゆくまで堪能してもらうしかなさそうだ。
「ありがとう。あら?」
最後にもう一度顔を見てくる。近づいて来られて、一層香りが増す。何か香水でもしているのだろうか。甘い、花のような果実のような…
「口元にほくろ」
「!?」
いきなり口元に触れられ、ビクッと肩が跳ねた。さすがに口元に触れられるのははばかられ、パッと手で隠す。
千歌は悪びれもせず、「ごめんごめん。もう着ていいわよ」とカラカラ笑った。
顔には出さないが、かなり心臓が脈打つ。あまりに細く、柔らかい指に、触れられた部分がじんわりと熱を持った。
「さて、早速だけど頼まれて欲しいの。弟の猫が逃げ出しちゃったみたいでね…屋敷のどこかにいると思うから、探してきてちょうだい。三毛猫で、名前はカズラ。黒いリボンに鈴をつけてるわ。屋敷の者ならどこへ行ったか知ってるから聞いてみて。お昼は適当にすませてね。見つけたら弟、カエデの部屋に連れて行って手渡して。」
再度座り直した千歌は、ニコリと満面の笑みを浮かべた。カカシは服を着直して頷く。
「猫探しくらい、できるわね?」
「…御意」
*
「あの、スミマセン。猫を探してるんですが…。三毛猫で」
「おや、見ない顔だ。もしかして姫さまの護衛かな?」
「カズラなら、洗濯所でみたよ」
「あら、姫様の護衛の方?カズラなら物見櫓に登ってたわ!」
「やぁ!ご苦労さん!カズラだね?確か書庫で寝てたぞ」
「はぁ、カズラなら武器庫で遊んでましたよ」
なんて猫だ。千歌の使いで猫探しをしていると皆わかっているらしく、好意的に場所を教えてくれるのは良いが、動き回りすぎだろう。武器庫では遊んだ後の鞠が転がっており、恐らくこの時間なら厨房で煮干しでも食べてるだろうと助言を受けて厨房を覗く。
「スミマセン、猫を…」
「おぉ!いらっしゃい!カズラならそこでご飯中だ!」
遠慮がちに声をかけると、ようやく目当ての猫を見つけた。文字通り屋敷中を歩き回り、腹ペコだ。
「良かったら、君も食べていきなさい!姫様は許可くださっているだろ?」
許可?
ーーーお昼は適当にすませてね。
あれはここでこの時間にくることを想定して言ったのか。とんでもない姫様だな。
「今回は、姫様のお眼鏡に叶ったんだねー!なかなかいないからちょっと嬉しいな。あの方は、気に入らなかったら薪割りをさせて、難癖つけて追い出すからねぇ」
「…気に入らない、というのは?」
「色々だよ!殿に挨拶してから姫様のとこに来なかったとか、正面から挨拶しないとか、偉そうな態度が嫌だとか。でもやっぱり最後は顔が好きか嫌いかって言ってたかな!」
気難しいと思っていたが、これは相当だ。
「実は猫探しは屋敷の者に新しく来た護衛を紹介してくださってるんだよ。その上偉そうな態度で探してたら教えろと言われてる。君はここまで無事来れたってことは合格だね!」
姫様だけじゃなく、屋敷の者みんながグルだとは…。一時も気を抜けそうにない。
美味しい昼食をいただき、弟君カエデのもとへ猫を送り届けた。千歌に似た顔をしているが、彼女とは違い柔和な印象だ。
「戻りました」と最初と同じように声をかけると、「入れ!」といささか気合いの入った声が聞こえた。
スッと障子をあけると、千歌は着替え中だったのか、女中が一人帯を整えている所だった。
「よう戻ったの。ちょうど良かった。そこの着物に着替えよ」
チラリと見ると、簡素な着物だ。まさか…
「これから街にお忍びで向かう。護身術は一通り身につけているが、父上が護衛を連れて行けとしつこくてな。しばらく護衛がおらなんだゆえ、久々の外出じゃ」
このお姫様はじっとしていることがあるのだろうか?
*
千歌にとって、今回は賭けに近かった。目標が残り一ヶ月を切ったなか、次の護衛が最後の候補になりえたからだ。
3週間後、千歌のお見合いパーティーがある。ただのお見合いならまだいいが、年頃の大名の男たちを集めたハーレム状態の会で、絶対まともな男がいないことは想像に難くない。便宜上、琴の演奏会となっているが、何人がまともにきいてくれることやら。
父は千歌の好みを知り尽くしていた。だから半端な男では太刀打ちできない。
自分の理想とする恋人、それを用意できなければ絶対にお見合いパーティに来たミーハーな男をあてがわれるに違いない。
千歌のタイプその一
仕事ができること。上下関係を理解し、その場に応じた対応ができること。千歌より先に父に挨拶してくれるか、命令があるまで動かないか。
そのニ
親切なこと。力をひけらかさない。大切な忍具に触れても怒らないか諭す。屋敷の者に礼儀を尽くすか。
その三
真面目で誠実であること。脱いだ服をどう取り扱うかで大雑把か几帳面かはみて取れる。猫探しを投げ出さずできるか。
その四
イケメン。これは大事。
大前提
千歌より強いこと。
三代目には強くてイケメンを送って欲しいと伝えていたが、女心はまだ不勉強とみた。
ようやく条件をクリアする男がやってきて、千歌は少し気を緩める。
カカシと二人、抜け道を通り街に出る。
カカシは口布は目立つので外し、左目はコンタクトで隠した。目の傷はメイクで見えない。
食べ物を手に取る際、カカシは必ず毒味をしてくれた。団子を食べる時は、少し眉をひそめていたので、甘いものはあまり好まないのかもしれないが、こちらに遠慮してか何も言わずに一口食べてから「どうぞ」と手渡してくれる。
「(優しいひと、だなー…)」
さりげなく人混みから遠ざけてくれるし、公園の椅子に腰掛ける時には手拭いを敷いてくれる。さぞモテることだろう。女慣れしているかもしれない。隣に腰掛けたカカシを見る。
「ね、カカシは恋人はいる?家族は?」
「…突然何です?恋人はいません。家族も…」
死にました、とどこか遠くを見て話す。
少し離れたところに親子連れが遊んでいるのが見えた。
つらい記憶なのだろうか。年もそんなに変わらないように見える青年は、年代で言えば忍界大戦に重なる。多くの人の死を目の当たりにしてきたのだろう。
それでも思い出させてしまったことに申し訳なさを感じ、謝ろうと口を開きかけ、千歌は次のカカシのセリフで金縛りにあったように動けなかった。
「死ぬのは、覚悟しています。…忍ですから」
まるで死んでも構わないというような、投げやりな声。伏せた目元に影が落ち、千歌より大きな背中が突然小さく感じた。
「…っ!ねぇ!」
「!?」
千歌はつい、カカシの両頬を持って顔をこちらに勢いよく向けた。グギッと聞こえたがそのままカカシの目を覗き込む。
「覚悟してたら死んでもいいってことじゃないでしょ!カカシが人の死をどう感じるかは自由だけど、死んだ人のせいにして自分に言い訳かますのはやめなさいよ!」
「!」
瞳が揺らいだ気がした。しかしそれは気のせいだったかもしれない。カカシは視線を逸らすと、千歌の両手をそっと引き剥がした。
「…」
「悪かったわ…大きなお世話よね…」
「いえ」
千歌は謝るも、ふと意識が両手に向かった。先程カカシが優しく触れて頬から離した両手は、そのままカカシに握られている。
あれ、これはたから見たらただのカップルでは?
生まれてこの方、男性に手を握られたことはない。父の過保護のせいもある。立場もあるから、父も滅多に触れ合うことはない。例外は弟くらいだが、もちろん10歳すぎた小さなあの手と全然違う。
自分から触れたのには特に何も思わないのに、骨ばった大きな手に包まれた自分の手がいかに頼りないか。好みの顔というのも相まって、千歌はだんだんと恥ずかしくなってきた。
「…ふっ」
ん?今笑った?
パッと顔をあげると、同時に手が離された。
「だいぶ歩きましたね。そろそろ戻りましょーか」
カカシはスッと立ち上がり、その表情は結局わからなかった。千歌も照れを誤魔化そうと慌てて立ち上がる。
「そ、そうね!でも最後に一ヶ所、寄りたいところがあるから」
「はい、付き合いますよ」
くるりと振り返ったカカシは、ニコッと笑っていた。
*
「ここは…お店?」
迷いなく進む千歌に着いていくと、賑やかな通りの一際大きな建物にやって来た。看板を見ると、各国からの仕入れが様々あるのがみて取れる、木の葉の隠れ里にもある「若葉マート」だ。
千歌は店の奥までズカズカ入る。関係者以外立ち入り禁止の扉も遠慮なくあけた。
「ちょっ!」
「いいから。話、合わせてねっ」
顔だけ振り返り、ウインクする千歌に一瞬ドキリとした。
「久しぶり〜」
「あ!店長!わーもう!相談したかったことがたくさんあるんですー!」
…店長!?
バッと横の小さな少女を見る。千歌はイタズラっ子な笑顔を一度見せ、名札に副店長と書かれたメガネの女性に近づいて行った。
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