ちはやぶる
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次の日、同じような時間に起き、朝の支度をする。今日は学校後にバイトがある。千歌はさすがに夜遅くまで、カカシくん一人でお留守番させるのはどうなのか、と弁当を詰めながら悩む。
「千歌さん?どうかした?」
少し手が止まっていたのを目敏く見つけたのか、カカシくんはすかさず聞いてくる。この子ほんとにすごいなと感心しつつ、箸を置いてカカシくんに向き直った。
「あのね、今日私バイトがあるのは言ったでしょ?その、遅くまで一人で留守番してもらうの、なんだか心配で…。良かったら今日16時ごろに学校に来てもらえる?店長にバイトの間いてもらっていいかきいておくから」
「…別に一人でも」
「あのね、私が、心配なの!」
平気だと言われそうだったが、そこは遮る。千歌が心配であることを強調してずずいと顔を近づける。
むーっと力一杯頬を膨らませ、じっとカカシくんを見つめる。実は押しに弱いことを知った千歌は、強気でいくことにする。
「う、わかった…」
「へへ〜、うん!よろしい!」
あまり子ども扱いすると不機嫌になることも、何となくわかってきた。そのため、頭を撫でることは控える。
とりあえず微笑むことにした。
*
「行ってきます!」
嬉しそうに、弁当を忘れずに持って颯爽と出掛けた千歌に、行ってらっしゃいを伝えてる。
昨日と同様に掃除をするも、あまり散らかっていなかったからかすぐに終わってしまった。
そういえば、昨日千歌と作った煮魚が美味しかったなと台所を見て思った。
「元の世界に帰ったら、作ってみるか…」
いや、そもそも帰れるのか。
グッと手を握り、気付けば足元を見ていた。
昨晩、千歌とともに壺について確認した。磨いたことがキーであれば、同じことをしてみるのはどうか。またはカカシが触れたり、磨いてみることはどうか。
触ってみたがなんともなかった。壺には、綺麗な紅葉の木と、舞い散り落ちている紅葉という美しい絵が描かれているだけで、本当にただの壺でしかない。
「でも、ほら、一応ちゃんと壺は存在してるし、何かの拍子にケロッと戻ったりしちゃうんじゃないかな!」
「だといいけど…」
「そんなに落ち込まないで!ちょっとした休暇だと思えばいいよ!」
実に楽観的な推測と励ましに、力が抜けた。そうだねと相槌をうち、その話はそれで終わりとなった。
あまり心配かけたくない。でも、心配していて欲しい。まるで相反する心に、カカシは戸惑っていた。
千歌には、多分気付かれていないとわかるが、この慕う気持ちは、終わりがくるとわかっている。
だから、ちゃんとわきまえておかないといけない。あまり千歌に踏み込まないように。
「…まだこんな時間か…」
いつも一人でいたのに、この部屋では時が過ぎるのが遅過ぎる。
早く千歌が帰って、とりとめのない話で笑いあいたい。
そういえば、昨日面倒であまり髪を乾かさずにいるカカシを見かねて、千歌が乾かしてくれた。暖かい空気と優しい手つきが気持ち良くて、一瞬寝そうになった。
「ふふっ」
「?…何?」
下手すればドライヤーの音にかき消されかねない小さな声だったが、カカシの耳に笑い声が届き、目を開けて振り返った。
ニコニコ笑う千歌が、可愛くて、ぐっと顔が赤くなるのを感じた。
「だって、カカシくんなんだか猫みたい」
「ねっ!?…」
今度は顔だけじゃなく、耳まであつかった。猫だなんて初めて言われたし、千歌から言われたという事実も恥ずかしかった。
「もう、いいでしょ。乾いた」
「あ、待ってよーもうちょっとー」
甘えたような声に、どっちが猫だよと思ってしまった。
「はぁ」
カカシはため息をつき、散歩でもしようと玄関へ向かっていった。
*
16時の15分前には、校門についた。ポッケに両手をつっこみ、壁に背を預けていると、千歌の声がした。
「わ!カカシくんもう来てたの!?」
「約束だからね。ちゃんと守るよ」
「そっか!」
嬉しそうな千歌を見てると、自然とカカシ自身も嬉しくなった。隣を歩き始めると、パッと手を掴まれる。
「ね、こっちだよ!」
「ちょっ」
「早くー!遅れたら店長に叱られちゃう!あ、お昼に店長から返信きて、連れておいでって言ってもらえたの!」
良かったね!と少し振り返る千歌の満面の笑顔が、まるで太陽みたいだと思った。
「前、見ないと転ぶよ」
*
「やだー!親戚の子ってこんなに可愛い男の子だったのー?」
「…はじめまして」
なんでこんなイケメン顔の細マッチョから乙女な言葉が聞こえるのか、頭が追いつかず挨拶が遅れてしまった。
オレには知らない色んな世界があるんだ。これもその一つ。
そう思うことにする。
「てんちょお!カカシくんのこと、いじめないでくださいよ!」
「まぁ!千歌ちゃんったら失礼ねぇ!今日は皿洗いだけしててもらおーかしらぁ」
「えぇ!?それじゃ店まわらないじゃないですか!」
「…」
当たり前だが、千歌が砕けた態度になっていて少しムッとする。カカシといる時は、穏やかな印象なのだが、今は慌てふためきながらもはしゃいでいるような雰囲気だ。
「じゃ、カカシくんは厨房でテレビでも見ててね!」
「…ん」
せめてもの反抗で、そっけない返事を返したカカシは、千歌の顔を見ることなく奥に入っていった。途中で賄いだと晩御飯をいただき、一人で食べた。
「ふぃー終わったよぉ。お待たせ!帰ろっか!」
しばらくテレビを見ていたが、結局千歌の働く姿を目で追っていた。くるくると動き回っては笑顔を絶やさず働く千歌。
その間に店長にからかわれる姿も遠目でみていた。
「カカシくん?どうしたの?遅くなったから疲れちゃったかな?」
帰り道、あまりに口数が少ないカカシに不安になったようで、千歌が遠慮がちに覗き込んできた。
カカシ自身、くだらないことに腹が立っている自覚があったため、バツが悪くて視線を逸らす。
ようやく部屋に着き、先に千歌が風呂に入った。千歌が出てからカカシも入浴した。
「カカシくん、また髪の毛濡れてるよ」
「あぁ…」
「乾かしてあげるっ!ね?」
「いいよ。大丈夫…」
態度が悪いことはわかっても、うまく対処できない。気持ちがうまく処理できないのだと思うが、モヤモヤとした気持ちがどんどんたまっていく。
「カカシくん…どうし」
「千歌さんにはっ」
千歌が心からカカシの心配をしてくれているとわかるのに、遮ってしまった。
「千歌さんには、オレの気持ちはわからないっ」
