◆第一章◆『記憶なき天才のチュートリアル』
自動ドアが静かに開き、侑李が廊下へ出ると、塁は壁から背中を離して歩き出した。
「よし、付いてこい」
無駄のない足取りで進む彼の後ろを、侑李は短い歩幅で追いかける。
案内が始まるのかと思いきや、塁は面倒くさそうに頭を掻きながら、前を向いたまま口を開いた。
「おい、四ノ宮。施設の見学だが、ぶっちゃけ俺が付き添って案内して回るのは面倒くさい。見学したいなら後で自分で好きにまわれ」
「……え、それって放置じゃ…」
「自分の足で歩いた方が早く覚えるだろ?効率化だよ、効率化」
そんなもっともらしい
そこは、塁の
まさに、SF映画に出てくる
塁は部屋の壁側にある黒いワークチェアにどさりと腰を下ろすと、デスクの下の大きな引き出しから「ある物」を取り出し、侑李へと放り投げた。
「ほら、お前の
「っ!とっ…」
侑李が両手で受け止めたのは、鮮やかな赤色をしたヘッドホンだった。
「耳に設置してみろ。初期登録は済ませてある」
言われるがままに、侑李は赤いヘッドホンを両手で開き、自分の耳へと装着した。カチリ、と耳の裏側で心地いいホールド感が伝わった、次の瞬間――。
視界の
目の前に浮かび上がったのは、半透明の
そこには、侑李自身の現在の
「うわ……すげぇ……」
驚くべきは、その
手で触れる必要すらなく「マップを拡大したい」「バイタルを確認したい」と自分の脳内で意思を巡らせるだけで、画面が思考に
「……すごいなこれ…思考と
記憶はなくても、この高度なシステムへの理解と適応力は一瞬だった。
耳元のヘッドホンを
――ユイは、俺のことを『構築した』と言っていた。
もしも生身の人間ではなく、データによって生み出されたのだとしたら。この身体だからこそ、これほどまでにノイズなく世界のシステムとダイレクトにリンクできるのだろう。
自分がかつて何者だったかは思い出せない。
けれど、なぜか自分の中で「この仕組みなら、こう動いて当然だ」と、その構造を直感的に納得できていることが、侑李には少しだけ不思議だった。
侑李が夢中で画面を切り替えて操作感を確かめていると、塁は再びタバコに火を点け、ふぅーっと白い煙を天井へ吹き上げた。
「もし、お前がまだしばらくここに残って仕事する気があるなら、そのヘッドホンはそのままやるよ。……あー、用事はそれだけだ。もう戻っていいぞ」
塁はそれ以上侑李を見ることもなく、浮遊するホログラムディスプレイの一つを手元に引き寄せると、
そして、まだその場に立ち尽くしている侑李に対して、顔も上げずに手のひらをシッシッと振って、追い払うような仕草をする。
(本当にマイペースな人だな……)
呆れ混じりの視線を塁に向けながらも、侑李は耳元の赤いヘッドホンの感触を確かめながら、オフィスの自動ドアへと向かった。
手渡された
どうせなら、まずは自分の目で見て回ろうと廊下に出る。