◆第四章◆『誰がための強さ』


 次に目を覚ましたとき、部屋の明かりは落とされたままだったが、デスクの上がやけに青白く光っていた。

 視線を向けると、そこには俺の椅子に座り、小さな手でせわしなくキーボードを叩いているライムの姿があった。ディスプレイの光が、彼の無表情な横顔を冷たく照らしている。

(……しまっ――!)

 頭が完全に覚醒した瞬間、血の気が引いた。あのPCには、俺が徹夜して組み上げた「ヘッドホンとリンクして武器を出力する」ための、上層部への反逆とも取れるプログラムが入っている。

「まっ、お前! 勝手に触るな、消すな……っ!!」

 俺はベッドから飛び起きるなり、デスクへ駆け寄ってライムの両手首をがっしりと掴んだ。類に筒抜けになれば、あのデータは一瞬で消去される。

 だが、手首を掴まれたライムは、痛がる様子もなく、ただ静かに視線を上に向けて俺を見上げてきた。

「エラーコードを見つけたので、修復しました。……このシステム、侑李さんが作ったんですか?」

「え……?」

 掴んでいた手の力が、ふっと抜ける。
 ディスプレイを覗き込むと、俺が力技で無理やり繋げたせいで荒削りだったコードの繋ぎ目が、驚くほど綺麗に最適化されていた。

「あ、ああ……そうだけど……」

 気圧されながら返事をすると、ライムはその澄んだ瞳に、微かな好奇心のような光が宿る。

「凄いですね。出力の効率が通常の3倍以上になっています。良ければ、僕の中にある戦闘用の武器データコードを、このシステムに記憶させても良いですか?」

「お前……このデータ、消さないのか?」

 俺は思わず、掴んでいた手を完全に離して問いかけた。

 こいつは類の差し金でここにいるはずだ。類に命令されて動いているなら、俺が独断でプログラムを書き換え、武力を持とうとする行為はアスタリスクの規律に反する「バグ(デメリット)」でしかない。真っ先に報告され、消去されると思っていた。ライムはキーボードに再び手を戻し、淡々とデータを入力しながら答える。

「類さんは、僕の製作者ではありません。ただ、上位権限(コマンド)を持っているので命令には絶対です。類さんからは『侑李さんの護衛』と、それから――『侑李さんの命令を最優先にしろ』と言われました」

 カタ、と最後のキーが叩かれる。ライムはそこで入力を止め、もう一度俺を真っ直ぐに見つめ直した。

「僕の今のマスターは、侑李さんです。あなたが望むなら、僕はすべてのコードを提供します」

「…………」

 胸の奥が、妙にむず痒くなるような感覚に襲われた。
 マスター。真珠が俺を「侑李君」と呼んで隣にいてくれたのとは違う、システムとしての絶対的な肯定。

 類がこいつをよこした真意はまだ分からない。けれど、このAI少年は、俺が強くなることを否定せず、むしろその小さな手で支えようとしてくれている。

「……そっか。じゃあ、お前の武器データ、見せてくれ」

「はい、マスター」

 ライムの感情のない声が、その時だけは、不思議と少しだけ温かく聞こえた。
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