◆第三章◆『プログラムされた優しさの果て』


 真珠と別れて自室に帰宅した俺は、ベッドの上で改めて自分の心に誓っていた。俺は俺の意思を持って行動する。

 思い返せば、真珠がいつも多種族の住人たちに笑顔で接していたのは、ただ社交的なだけじゃなかったんだ。
 俺みたいに、この世界のどこかで1人で悩んで、困っている人がいないかを、あの一歩引いた場所からずっと探して、見守るためだったんだ。

( なら、俺も真珠のような優しい心を持ちたい )

 ただ流されてプログラミングをするだけの人形にはならない。
 そう決めた。

 翌日。俺は昨日までとはまるで人が変わったように、朝から笑顔で、積極的にアスタリスクの多種族の住人たちに挨拶をして回るようになった。

 塁さんのオフィスへと向かう途中、広場ですれ違う住人たちを見かける。数週間過ごして名前も覚えた。

「おはようラミー! 今日も仕事頑張れよ!」「おつかれバルグナ!今度休憩の時にお喋りしようぜ!」

 俺が笑顔で名前を呼んで挨拶すると、相手の住人は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに嬉しそうに「おはよう侑李!侑李も仕事頑張れよ!」「おう!仕事無理すんなよ!」と挨拶を返してくれた。
 
 ただ挨拶をしてるだけなのに、返事を貰うだけでこんなにも嬉しい気持ちになれるなんてな。真珠を見習って正解だ。

 そのまま足取り軽く、塁さんのオフィスのスライドドアを開ける。

「おはよ、塁さん。昨日は悪かったな。今日はちゃんと仕事するから任せてくれ」

 いつもの気怠げなトーンを吹き飛ばすような笑顔を向けて、オフィスへ入る。すると、デスクでタバコを咥えようとしていた塁さんは、ライターを止めてキョトンとした顔で俺を見た。あからさまに不審そうな目で、俺の顔を凝視してくる。

「……なんか変なものでも食ったか?」

「いや? なんだよ。俺の笑顔がそんなに気持ち悪いのか?」

 首を傾げる塁さんに、俺がジト目を向けると、塁さんはようやくタバコに火をつけた。

「そうは言ってないが……さては真珠だな? 何か言われたのか?」

「何もねーよ。ただ、俺は真珠のような優しい心を目指したいと思っただけだ。よし、じゃあ仕事始めるぞ」

 自分のデスクについて、ホログラムのキーボードを展開する。そんな俺の後ろ姿を見つめながら、塁さんは煙を吐き出し「……非効率だな」と呆れたように小さく呟いた。

 効率を求めるこの世界で俺が選んだ「非効率な優しさ」。それが俺がアスタリスクで初めて自分の意志で刻んだ新しいプログラミングの形だった。

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