◆第二章◆​『レベル1のプラグイン』


 ユイさんと塁さんに連れられて再びやってきた広場は、相変わらず多種族の熱気で満ち溢れていた。人混みを見渡しながら歩いていると、ユイさんがぴょんと足元を弾ませ、ある一方向いちほうこうに向かって大きく手を振った。

「いたいた!真珠しんじゅちゃーーん!!おまたせー!」

「あ、ユイちゃん!」

 その声に応えるように、数人の異種族と楽しそうに談笑だんしょうしていた一人の女の子が、こちらを振り返った。
 ウルフカットに切りそろえられた、俺たちと同じ綺麗な青い髪。
 同年代?……いや、ニ〜三、上くらいに見える彼女は、話していた相手に「またね!」と笑顔で手を振ると、軽い足取りでこちらへと駆け寄ってきた。

「こんにちは、ユイちゃん。も〜、今日も一段と可愛いねぇ〜」

「にゃふっ……もう!だから子供扱いしないでってばぁ!」

 真珠しんじゅと呼ばれたその子は、ユイさんの前にしゃがみ込むと、親しげにその頭を――主に頭についている猫耳を優しく撫で回し始めた。

 ユイさんは頬を膨らませて抗議しているものの、耳の後ろを上手に撫でられると、抗いきれずに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしてしまっている。

 その様子を横で見ていた塁さんが、深くタバコを吸い込み、ため息混じりに声をかけた。

「……いつまでじゃれてるんですか、お二人さん。早く終わらせて戻りたいんですけど?」

「ハッ!?そうだった、仕事中だったっ!」

 ユイさんが我に返って身を正し、少し赤くなった顔を誤魔化すようにゴホンと咳払いをした。そして俺の背中をぽんと叩いて前に出す。

「侑李君、紹介するね!この子は戦闘員の真珠しんじゅちゃん。……で、真珠しんじゅちゃん、こっちは新しくここで働くことになった科学者の四ノ宮 侑李君だよ。今日から真珠しんじゅちゃんには侑李君の専属護衛になってもらいます!」

「わぁ……!」

 真珠しんじゅさんはパッと顔を輝かせると、俺の目を真っ直ぐに見つめ、一歩踏み込んで満面の笑顔を咲かせた。社交的で、気さくで、何よりその場がパッと明るくなるような優しい笑顔だ。

「はじめまして、侑李君!私は真珠しんじゅ!十八歳だよ!種族は『魚人』なんだけど、見ての通り陸の上では普通の人間と変わらない見た目なんだ。特技は身体強化!陸でも海でも襲ってくる魔物やクリーチャーとか一発でKOできちゃうんだから!」

(……ん?いま魔物って言わなかったか…?)

 陸でも海でも一発KO。

 笑顔でさらりと言い放たれた不穏ふおんな単語と、魔物とクリーチャーと言う言葉に、俺の顔は内心引きつっていた。どうやらこの世界の「護衛」というのは俺の想像以上に物騒な現実から身を守るためのものらしい。
 
 そんな俺の内心を察してか、塁さんが気怠げに頭を掻きながら補足を入れる。

「ビビるな四ノ宮。真珠しんじゅはうちの戦闘員の中でトップクラスに優秀な人材だ。何よりお前と年齢も近いし、おっさんの俺やチビのユイさんといるより気が楽だろ?」

 その言葉の裏には、早く自分の執務室オフィスに戻ってタバコを吸いながら仕事を終わらせたい、という塁のオーラが隠しきれずに滲み出ていた。ユイさんは俺と真珠しんじゅさん交互に見て、満足そうに手を叩く。

「よし!それじゃあお互いの交流も兼ねて、今日はもう真珠しんじゅちゃんに侑李君を預けちゃうね!二人でゆっくりお話しして、仲良くなってね!」

「了解だよ、ユイちゃん!任せて!」

「えっ、あ、ちょっと――」

 俺が声を上げる暇もなく、ユイさんと塁さんは「じゃあ、よろしくねっ!」「しっかりなぁー」と軽い調子で手を振りながら、あっという間に人混みの向こうへと去っていってしまった。

 広場に取り残されたのは初対面の俺と笑顔の眩しい最強の護衛――真珠しんじゅさん。


こうして、俺のアスタリスクでの初仕事タスクは年上の護衛お姉さんとのマンツーマンの顔合わせから始まることになった。

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