引っ越し前夜
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ガクちゃんはわざとらしく肩を落として、残念がる振りをする。
あの顔はそれ以上の条件を突き付けるつもりでいるはず……
「もう決めているんでしょ?
勿体振らずにさっさと言えば。」
「わかった。
じゃあさ……」
ガクちゃんは私の反応に目を細め、掴んだ手を更に強く握り締める。
「明日……宮城に行くの、止めろ。」
はっ?
……今、何て言った?
想定外の条件に呆然とする私を見て、彼がクスッと笑う。
「ここに残れ、つばさ。
そしたら、許してやる。」
驚いた。
去年の年末、ガクちゃんに宮城に行くことを打ち明けたとき、『そうか』 としか言われなかったのに。
どうして、そんなことを言うのだろう……
「何で、今更……」
「今、思い付いたんじゃない。
あの話 聞いたときから、お前がここに残ればいいって思っていた。
お前、本当に宮城 行きたいのか?
本当はここに残って、サークル続けたいんだろ!」
ガクちゃんの顔からさっきまでの微笑みは消えていた。
「おばさんと折り合い悪くて、宮城に行くって……噂で聞いた。
今日、俺からおばさんに言っ……」
「ごめん、その条件……ダメだ。」
私は彼に頭を下げる。
明日の宮城行きはこれ以上、先伸ばし 出来なかった。
この話は、両親の離婚後……
私が中学生になる前から出ていた。
私と母の生活を心配した叔母(母の妹) が祖父母を説得し、宮城で私を引き取ろうと申し出たのだ。
母は、私を手放すことをあっさりと了承。
話はトントン拍子に進みかけたが、私が頑なに断った。
『何も意地悪で言ってるんじゃないの。
つばさが宮城で暮らせば、お母さんの負担も減るし、つばさだって 経済力のあるおじいちゃん達に面倒見てもらう方がいいと思うの。
アンタだって、これから高校や大学に行きたいなら、その方が絶対にいい!
双方の為なのよ。』
上京してくる度に叔母が、根気よく何度も説得してきた。
それは頭ではわかっていた。
ここを離れることになれば、母は今よりも経済的に楽になるだろう。
自分の為に働き、余暇は自分の為だけに使える。
良いことばかりだ、って思い込もうとしたが、心は無理だった。
私が宮城に行って……
母は一人で……私がいなくて大丈夫なのだろうか?
それが胸の奥でぐるぐると渦を巻き、私は素直に頷けないまま……
叔母は私に三年間の猶予をくれた。
「ガクちゃん、私……母さんとはうまくいってるんだよ、最近。
サークルの皆が噂してるほど、酷くないから……安心して。」
二人並んで、ゆっくりとアパートに向かって歩き始めた。
ガクちゃんはあれから何も言わずに黙ったまま、私の話を聞いている。
「宮城に行くのは母さんの為でもあるけど、私の為でもあるんだ。
家族は一緒の方がいいのかもしれないけど、私達は離れた方がうまくいくんだよ。」
母は昔ほど怒らなくなったし、酒やタバコの量も激減した。
今 思えば、私が心置き無く宮城に行けるように仕向けていたのかもしれない。
「母さんと暮らして、たくさん喧嘩もして嫌な思いもした。
どうして、この家に生まれてきたんだろう……
この人の子どもなんだろうって泣いたこともある。
いろんなことがあったけど、でも……私、憎めないんだよ、母さんのこと。
どうしてかな……」
話しているうちに視界がぼんやりと滲んでいく。
慌てて右手で拭おうとした途端、私の視界は白で覆われる。
ふと隣に目をやると、穏やかな表情をしたガクちゃんがハンカチで涙を拭ってくれた。
「憎みきれないのは、好きだからだろ?
おばさんのこと。」
ガクちゃんの優しい声に涙が一気に溢れていく。
「そっ……か。
……き、なの、かなっ……」
母のこと……
今はまだ、わからない。
一生、わからないかもしれない。
だけど、離れてみれば わかるのかもしれない。
あの顔はそれ以上の条件を突き付けるつもりでいるはず……
「もう決めているんでしょ?
勿体振らずにさっさと言えば。」
「わかった。
じゃあさ……」
ガクちゃんは私の反応に目を細め、掴んだ手を更に強く握り締める。
「明日……宮城に行くの、止めろ。」
はっ?
……今、何て言った?
想定外の条件に呆然とする私を見て、彼がクスッと笑う。
「ここに残れ、つばさ。
そしたら、許してやる。」
驚いた。
去年の年末、ガクちゃんに宮城に行くことを打ち明けたとき、『そうか』 としか言われなかったのに。
どうして、そんなことを言うのだろう……
「何で、今更……」
「今、思い付いたんじゃない。
あの話 聞いたときから、お前がここに残ればいいって思っていた。
お前、本当に宮城 行きたいのか?
本当はここに残って、サークル続けたいんだろ!」
ガクちゃんの顔からさっきまでの微笑みは消えていた。
「おばさんと折り合い悪くて、宮城に行くって……噂で聞いた。
今日、俺からおばさんに言っ……」
「ごめん、その条件……ダメだ。」
私は彼に頭を下げる。
明日の宮城行きはこれ以上、先伸ばし 出来なかった。
この話は、両親の離婚後……
私が中学生になる前から出ていた。
私と母の生活を心配した叔母(母の妹) が祖父母を説得し、宮城で私を引き取ろうと申し出たのだ。
母は、私を手放すことをあっさりと了承。
話はトントン拍子に進みかけたが、私が頑なに断った。
『何も意地悪で言ってるんじゃないの。
つばさが宮城で暮らせば、お母さんの負担も減るし、つばさだって 経済力のあるおじいちゃん達に面倒見てもらう方がいいと思うの。
アンタだって、これから高校や大学に行きたいなら、その方が絶対にいい!
双方の為なのよ。』
上京してくる度に叔母が、根気よく何度も説得してきた。
それは頭ではわかっていた。
ここを離れることになれば、母は今よりも経済的に楽になるだろう。
自分の為に働き、余暇は自分の為だけに使える。
良いことばかりだ、って思い込もうとしたが、心は無理だった。
私が宮城に行って……
母は一人で……私がいなくて大丈夫なのだろうか?
それが胸の奥でぐるぐると渦を巻き、私は素直に頷けないまま……
叔母は私に三年間の猶予をくれた。
「ガクちゃん、私……母さんとはうまくいってるんだよ、最近。
サークルの皆が噂してるほど、酷くないから……安心して。」
二人並んで、ゆっくりとアパートに向かって歩き始めた。
ガクちゃんはあれから何も言わずに黙ったまま、私の話を聞いている。
「宮城に行くのは母さんの為でもあるけど、私の為でもあるんだ。
家族は一緒の方がいいのかもしれないけど、私達は離れた方がうまくいくんだよ。」
母は昔ほど怒らなくなったし、酒やタバコの量も激減した。
今 思えば、私が心置き無く宮城に行けるように仕向けていたのかもしれない。
「母さんと暮らして、たくさん喧嘩もして嫌な思いもした。
どうして、この家に生まれてきたんだろう……
この人の子どもなんだろうって泣いたこともある。
いろんなことがあったけど、でも……私、憎めないんだよ、母さんのこと。
どうしてかな……」
話しているうちに視界がぼんやりと滲んでいく。
慌てて右手で拭おうとした途端、私の視界は白で覆われる。
ふと隣に目をやると、穏やかな表情をしたガクちゃんがハンカチで涙を拭ってくれた。
「憎みきれないのは、好きだからだろ?
おばさんのこと。」
ガクちゃんの優しい声に涙が一気に溢れていく。
「そっ……か。
……き、なの、かなっ……」
母のこと……
今はまだ、わからない。
一生、わからないかもしれない。
だけど、離れてみれば わかるのかもしれない。