母と私
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おじさんに手を振り、大好きな人が待つ家へと駆け出そうとした。
その瞬間、『ガシャン』という硝子が割れる音が響く。
『バカ、何すんだよ!
危ねぇだろ!』
それと同時に男の人の声も聞こえてきた。
それは駆け込もうとしていた私達が住む棟からだった。
『……お父さん?』
それは、時折 電話で聞いた父の声に似ていた。
その後、更に畳み掛けるように『ガチャン、ガチャン!』という音が続く。
『うちの、家から……』
驚きの余り、一瞬足を止めて一階の我が家へと視線を向けていると、
『おい、おじさんが中見てくるから、お前はここにいるんだ。
こっち、来るんじゃねぇぞ!』
隣にいたおじさんがそう言い残し、急いで建物へと駆け出した。
格子越しに見える窓は半分開け放たれていたが、白いレースのカーテンで中の様子を窺い知ることは出来なかった。
『何?
さっきの音……』
『さぁ……お皿でも割ったのかしら?』
周囲も先程の騒音を聞きつけ、こちらの様子を遠巻きに眺めている。
『おい、何してるんだ?
大きな物音立てて……止めるんだ。』
おじさんが中に入ったのか、物音を立てた人間を諭すように話しかけている。
私はゆっくりと建物へと近付き、息を殺しながら 窓から室内を覗き込む。
だが、目を凝らしてもカーテンの隙間から部屋の様子は見えない。
仕方ない、玄関へ向かおう。
そう思い、歩き出そうとした瞬間、
『うるさい!!
アンタは関係ないでしょ!』
今度は女の人の叫ぶ声が聞こえた。
その緊迫したやり取りに足がすくむ。
呼吸もうまく出来ない。
『いつもいつも、ごちゃごちゃ言いやがって……
あたしだって、いろいろ考えてるよ!
部外者は引っ込んでよ!』
今にも泣き出しそうな叫び声。
初めて聞く、感情むき出しの母の声だった。
『なぁ、落ち着けよ。
つばさだって、もう帰ってくるはず……』
『うるさいよ!
今、つばさは関係ないだろ?
あたしはアンタと話してんだよ!』
再び、大きな物音が響く。
『いきなり帰ってくるって言うから、てっきり借金返せたのかと思ったのに……
女が出来た、子供が出来た、何が離婚してくれだよ!!
いっつも、そうだ……
アンタがいい思いしてる間、あたしがいつもどんな気持ちでいたか、わかんないだろっ?
一人で朝も夜も、一生懸命頑張っても……全然報われないっ!!』
『頑張っても報われない……』
母の言葉が胸に刺さる。
それは私の心の中にも渦巻いていた言葉だった。
『あっ、つばさちゃん!
こっちに、こっちにおいで!!』
騒ぎを聞き付けたのか、隣のおばさんが駆け寄って、私の身体をきつく抱き締める。
柔らかで温かい腕の中に包まれるが、自宅の窓から視線を反らすことが出来ない。
中からは母の大きな呻き声が聞こえてくる。
『おばさんと向こうへ行こう……ほらっ、行こう。』
隣の棟の仲の良いおばさんの家に行こうと手を引かれるが、足が動かなかった。
おばさんは仕方無く私を抱えると、その場から離れていく。
『……だ、っ……やだあぁっ!』
おばさんに抱えられ、綺麗な夕焼けの中、いつの間にか大声をあげながら泣いていた。
美しい色彩が涙で滲み、その景色もぼんやりと歪んでいく。
綺麗な夕焼け……
ついさっきまで、私の心をあんなにも温かくしていたのに。
『……き……らいっ……だぁっ……』
そのせいだろうか……
あのときから、夕焼け空が嫌いになった。
その瞬間、『ガシャン』という硝子が割れる音が響く。
『バカ、何すんだよ!
危ねぇだろ!』
それと同時に男の人の声も聞こえてきた。
それは駆け込もうとしていた私達が住む棟からだった。
『……お父さん?』
それは、時折 電話で聞いた父の声に似ていた。
その後、更に畳み掛けるように『ガチャン、ガチャン!』という音が続く。
『うちの、家から……』
驚きの余り、一瞬足を止めて一階の我が家へと視線を向けていると、
『おい、おじさんが中見てくるから、お前はここにいるんだ。
こっち、来るんじゃねぇぞ!』
隣にいたおじさんがそう言い残し、急いで建物へと駆け出した。
格子越しに見える窓は半分開け放たれていたが、白いレースのカーテンで中の様子を窺い知ることは出来なかった。
『何?
さっきの音……』
『さぁ……お皿でも割ったのかしら?』
周囲も先程の騒音を聞きつけ、こちらの様子を遠巻きに眺めている。
『おい、何してるんだ?
大きな物音立てて……止めるんだ。』
おじさんが中に入ったのか、物音を立てた人間を諭すように話しかけている。
私はゆっくりと建物へと近付き、息を殺しながら 窓から室内を覗き込む。
だが、目を凝らしてもカーテンの隙間から部屋の様子は見えない。
仕方ない、玄関へ向かおう。
そう思い、歩き出そうとした瞬間、
『うるさい!!
アンタは関係ないでしょ!』
今度は女の人の叫ぶ声が聞こえた。
その緊迫したやり取りに足がすくむ。
呼吸もうまく出来ない。
『いつもいつも、ごちゃごちゃ言いやがって……
あたしだって、いろいろ考えてるよ!
部外者は引っ込んでよ!』
今にも泣き出しそうな叫び声。
初めて聞く、感情むき出しの母の声だった。
『なぁ、落ち着けよ。
つばさだって、もう帰ってくるはず……』
『うるさいよ!
今、つばさは関係ないだろ?
あたしはアンタと話してんだよ!』
再び、大きな物音が響く。
『いきなり帰ってくるって言うから、てっきり借金返せたのかと思ったのに……
女が出来た、子供が出来た、何が離婚してくれだよ!!
いっつも、そうだ……
アンタがいい思いしてる間、あたしがいつもどんな気持ちでいたか、わかんないだろっ?
一人で朝も夜も、一生懸命頑張っても……全然報われないっ!!』
『頑張っても報われない……』
母の言葉が胸に刺さる。
それは私の心の中にも渦巻いていた言葉だった。
『あっ、つばさちゃん!
こっちに、こっちにおいで!!』
騒ぎを聞き付けたのか、隣のおばさんが駆け寄って、私の身体をきつく抱き締める。
柔らかで温かい腕の中に包まれるが、自宅の窓から視線を反らすことが出来ない。
中からは母の大きな呻き声が聞こえてくる。
『おばさんと向こうへ行こう……ほらっ、行こう。』
隣の棟の仲の良いおばさんの家に行こうと手を引かれるが、足が動かなかった。
おばさんは仕方無く私を抱えると、その場から離れていく。
『……だ、っ……やだあぁっ!』
おばさんに抱えられ、綺麗な夕焼けの中、いつの間にか大声をあげながら泣いていた。
美しい色彩が涙で滲み、その景色もぼんやりと歪んでいく。
綺麗な夕焼け……
ついさっきまで、私の心をあんなにも温かくしていたのに。
『……き……らいっ……だぁっ……』
そのせいだろうか……
あのときから、夕焼け空が嫌いになった。