午後のひととき
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「なぁ、いつも 何 聴いてんの?」
悲しげなチェロの音色に交じって、イヤホンをしていない右耳から能天気な彼の声が聞こえる。
ふと隣を見ると、興味津々といった顔でこちらの様子を窺っていた。
「……クラシック。」
曲のタイトルなんて言ってもわかんないだろうから、ジャンルだけ伝えることにした。
この人は相変わらず、他人の領域にずかずか入り込む。
「ふーん。
高尚な趣味だな。」
校舎の屋上で時々 顔を合わせる人。
名前は何て言ったっけ?
珍しい名字だったはず……
えっと、あ……ボクトさんだ。
彼は校内では結構 有名人らしい。
男子バレー部の主将さんだそうだ。
初めはすごく煩わしくてガン無視してたけど、空気も読めない人で全く気に留めてなかった。
そんなことが何度もあり、私は根負け。
時々、ここで午後のひとときを一緒に過ごす。
「高尚なんかじゃないですよ。」
私は音痴だ。
そんなコンプレックスのせいか……
皆が聴くJ-POPとか、ヴォーカル入りの曲を聴くのが苦手。
聴いてしまったら、唄いたくなる。
音程を外しまくる自分が嫌で嫌で……
クラシックを聴いてるだけ。
「精神安定剤、みたいなもんです。」
「そうか……
ちょっと、聴かせてくれよ。」
「はぁ?!」
この人は突拍子もないことを言い始めた。
「お前が聴いてる曲、聴いてみたいんだよ。
精神安定剤みたいなもんなんだろ?」
キョトンとした顔で私をじっと見つめ、空いてるイヤホンを掴む。
そして、私との距離を詰めたかと思ったら、それを自分の耳へと突っ込んだ。
ちょうど聴いていたのは、バッハの『無伴奏チェロ組曲 第一番 プレリュード』。
「……音量、大丈夫ですか?」
「ああ。」
イヤホンのコードが短いせいで、私達の肩は触れ合う。
「これ、バイオリン?」
「いえ、チェロです。」
「……これがチェロか。
良い音だな。」
本当にそう思って言ったのか、わからない。
だけど、その瞬間……
私の中にチェロ以外の音が生まれた。
「そう……ですか?」
「ああ。
精神安定剤っていうの、わかる気がする。」
お世辞の言えない彼がいつものようにニッと笑った。
チェロの音は
彼にどのように響いたのだろう。
2017.3.22
Web拍手お礼小話として公開
悲しげなチェロの音色に交じって、イヤホンをしていない右耳から能天気な彼の声が聞こえる。
ふと隣を見ると、興味津々といった顔でこちらの様子を窺っていた。
「……クラシック。」
曲のタイトルなんて言ってもわかんないだろうから、ジャンルだけ伝えることにした。
この人は相変わらず、他人の領域にずかずか入り込む。
「ふーん。
高尚な趣味だな。」
校舎の屋上で時々 顔を合わせる人。
名前は何て言ったっけ?
珍しい名字だったはず……
えっと、あ……ボクトさんだ。
彼は校内では結構 有名人らしい。
男子バレー部の主将さんだそうだ。
初めはすごく煩わしくてガン無視してたけど、空気も読めない人で全く気に留めてなかった。
そんなことが何度もあり、私は根負け。
時々、ここで午後のひとときを一緒に過ごす。
「高尚なんかじゃないですよ。」
私は音痴だ。
そんなコンプレックスのせいか……
皆が聴くJ-POPとか、ヴォーカル入りの曲を聴くのが苦手。
聴いてしまったら、唄いたくなる。
音程を外しまくる自分が嫌で嫌で……
クラシックを聴いてるだけ。
「精神安定剤、みたいなもんです。」
「そうか……
ちょっと、聴かせてくれよ。」
「はぁ?!」
この人は突拍子もないことを言い始めた。
「お前が聴いてる曲、聴いてみたいんだよ。
精神安定剤みたいなもんなんだろ?」
キョトンとした顔で私をじっと見つめ、空いてるイヤホンを掴む。
そして、私との距離を詰めたかと思ったら、それを自分の耳へと突っ込んだ。
ちょうど聴いていたのは、バッハの『無伴奏チェロ組曲 第一番 プレリュード』。
「……音量、大丈夫ですか?」
「ああ。」
イヤホンのコードが短いせいで、私達の肩は触れ合う。
「これ、バイオリン?」
「いえ、チェロです。」
「……これがチェロか。
良い音だな。」
本当にそう思って言ったのか、わからない。
だけど、その瞬間……
私の中にチェロ以外の音が生まれた。
「そう……ですか?」
「ああ。
精神安定剤っていうの、わかる気がする。」
お世辞の言えない彼がいつものようにニッと笑った。
チェロの音は
彼にどのように響いたのだろう。
2017.3.22
Web拍手お礼小話として公開