桐山和雄と俺の関係

 ※

 桐山の元気がなかった。といっても微かにわかる程度なんだが。

 理由はイングラムM10が壊れてしまったからなんだそうだ。

 俺の好きな携帯型ゲーム機が壊れたとき、桐山はそっけなかったので今度は俺も声をかけなかった。

 そんだけ。

 ※

 今日も、バイトを終えて家に帰ったら、相変わらず台所に桐山がいた。

 桐山は、トンカツを作りながら俺に

「やあ、おかえり」と無表情で言った。

 俺は、なぜ俺の家に桐山が居続けるのかわからなかったが 、

「ただいま。お腹空いたよ」

 と、とても自然に返せるようになっていた。

 その後、桐山が作ったトンカツを食べた。

 やっぱりうまかった。

 そんだけ。

 ※

「……そんだけ」という俺の口癖を、桐山がマスターし始めた。

 イングラムの「ぱらららっ」といい、変なところで愛嬌のある奴だ。

 無表情なのに。

 そんだけ。

 ※

 桐山が最近バイトを始めたらしい。歳を誤魔化して高校生だということにしているようだ。

 まあ、あいつ中学生には見えないしな。誰も怪しまないだろう。

 そんなある日、友人と駅前のケーキ屋に行った。

「ここ、プリンがすごくおいしいんだよ」

 店の奥でちらりと見えたパティシエが桐山だった。

 そんだけ。

 ※

 友達に連れられ初めてのオカマバーに行ったら、桐山がいた。

 なんでもこの店は、オカマの友人の父親が経営する店らしく、時折ここに来て遊んでいるのだそうだ。(その父親というのも、当然オカマである)

 桐山は女装をしていた。いや、させられていた、と言ったほうが正しいのか?しかし桐山は恥ずかしげもなく言った。

「こういう経験をしてみるのも、悪くないと思ったんだ」
「可愛いでしょー?アタシ、前から桐山くんって女装が似合いそうだと思ってたのよねー」

 月岡というリーゼントのいかつい男がウフフ、と笑っていた。

 お前ら……

「ボ、ボス……」

 他の3人の不良仲間は怒りか、困惑か、悲しみか、複雑な表情で遠巻きに俺たちを見ていた。

 ……桐山、お前不良グループのボスだったのか。いや、っていうかなんかもう色々と……

 もはやどこから突っ込んでいいのかわからなかった。

 そんだけ。
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