桐山和雄と俺の関係

 ※

 折れた指は、桐山に治療してもらったとはいえ、やっぱり少し不安だった。なので一度ちゃんとした病院で診てもらうことにした。

「どうされましたか?」
「人差し指と中指を骨折してしまいまして」
「どれ……。うん?治療はきちんとできているようですが?」
「ああ……か、看護士の勉強してる友人が手当してくれたんですけど、ちょっと不安だったもんで」
「問題ありませんよ。適切な処置ができています。そのお友達は、きっと良い医者になれるでしょうねえ」
「ははは……そ、そうですか」

 大丈夫だったようだ。診察室から出て行くと、眼帯をしたいかつい男がべそをかいていた。なんだか尋常じゃない雰囲気だった。

「((((((○A・`))))))ガクガクブルブル」

 俺は見かねて声をかけた。

「ど……どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「うう……そ、それが……」

 話を聞いてみた。なんでも、この男は体育教師で、生意気な生徒に対してちょっときつく“指導”してやったら、仕返しに目ん玉を抉り出されて、更にそれを観察するようにぐりぐりとこねくり回されたんだそうな。「この液体は硝子体というらしい」とかなんとか。

 ……なんて恐ろしいことをするやつなんだ。いくら頭にきたからっていっても、普通そこまでしないよな……

 まあでも、力ずくってのは良くないと思いますよ。多感な時期なんですから、もう少し慈悲を持って穏便に、ねえ?

 無難な感じの言葉を選んで、俺はそう諭した。

「……そ、そうだな。そうかもしれない」

 教師ってのも大変だなあ。

 …

「ただいまー」
「どこに行っていたんだ?」
「病院だよ。やっぱり一回くらいは診てもらった方がいいかもしれないと思ってさ」
「そうか。……で、どうだったんだ?」
「問題ないってさ。治療したやつは、良い医者になれるだろうって言ってたぜ」
「……そうか」

 桐山は、ふいと顔を横に向けた。なんだ、褒められて照れてるのか?

 ……ん?

 俺は桐山の横顔を見て気がついた。

「おまえ、どうしたんだ?その傷」

 桐山の左頬が、少し赤くなって腫れていた。喧嘩でやられたのか?

「いや……体育の授業で、少しなっ……」

 ツ……と頬を指先でなぞりながら桐山はそう言った。

 ……体育?

 俺は病院で会った“体育”教師のことを思い出した。

 いや、まさか。まさかな……

 でも俺は、怖くて聞けなかった。

 そんだけ。
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