桐山和雄と俺の関係

 ※

 季節は冬。俺は桐山に何か熱中できるものを見つけさせてやろうと思い、今日はスケートリンク場へとやってきた。

「気をつけろっ。そいつはなんだかよく滑るっ……」

 桐山が言った。

 ああ、うん。そりゃそういう風に作られた氷上なんだし。

 どうでもいいがお前、その姿になってから語尾に「っ」ってつけること多くなったよな。どうしたんだ?

 最初は様子を見るようにゆっくり滑っていた桐山だが、10分もするとプロスケーターよろしくスイスイと縦横無尽にリンクを駆けていった。

 昨日、テレビでフィギアスケート選手の演技を観てたけど、まさかそれだけで要領掴んだのかっ!?

 一方、俺はというとリンクに立っているのがやっとで滑るなんて状態じゃなかった。

 それどころかこけて下手に受身を取ろうとしたのが災いして、人差し指と中指が変な方向に曲がった。

「ひぎぃっ」

 尋常じゃない痛みに、俺は変な声を上げた。

 桐山はそんな俺を見て、

「病院に行った方がいい傷だな」

 と静かに言った。

 そんだけ。

 ※

 ちくしょう、こんなことになるなんて。まあ利き手の方じゃなかったのは不幸中の幸いかっ……

 ……あ、語尾に「っ」ってつけるのが伝染っちまった。

 桐山に言われたとおり、病院に行かなきゃいけないのだが、痛い出費だ。

 これまでひとりで暮らしていたのが桐山が転がり込んできたことによって、食事などの費用も倍近くに増えた。

 ……そうだ、桐山。お前が治療してくれよ。

「……俺が?」

 ああ。お前、前に人体解剖学の本読んでたろ?人の身体の壊し方がわかるんなら、治し方もわかるよな?お前なら治療できるんじゃないのか?

 馬鹿げていると思いながらも、俺は言ってみた。

「やってみよう」

 マジか。

 すると桐山はテキパキと注射器やら酒やらを用意して俺の折れた指の治療を始めた。

 ……なんで酒が必要なんだ?

「血管に酒を注入するっ。麻酔薬代わりだ」

 そうなのか。……ところでその注射器は?

「充たちが持っていたものだ」

 中学生がなんでそんなもの持ってるんだよ!?

「……」

 桐山は何も言わなかった。知らないのか、それとも知られたくないのか。

「できたぞ」

 ……おお、なんだかそれっぽく治療できてるぞ。治りそうな気がする。

 しかしホント、桐山って器用なやつだな。俺は改めて感心した。

 ……一方で、謎は深まるばかりなんだが。

 そんだけ。

 ※

 そうだ。最近桐山は、ミリタリーに凝ってるんだったよな。

 それって好きってことなんじゃないか?ミリタリー雑誌なんかも読むようになったし。

「そうかもしれないな」

 雑誌を読みながら、桐山は言った。

 そうか、よかったな。……日常生活では、あんまり役に立ちそうにない趣味だけどな。(立ったら怖いが)

「次はこの銃を手に入れようと思うんだ」

 ベレッタM92F?ああ、これなら俺も知ってるよ。よく映画とかに登場してるもんな。

 他に欲しいと思うものはないのか?どうせならもっと派手でカッコイイ銃のがいいんじゃないか?

 ほら、ショットガンとかアサルトライフルとかさ。ロケットランチャーやグレネードガンとか色々あるだろ。
 俺はゲームなんかによく出てくる銃を、適当に言ってみた。

「……」

 桐山は首をフルフルと横に振った。

 どうやらこいつは、片手で撃てる銃にしか興味がないらしい。

 ……でもよ、お前の持ってるそのイングラム、片手で撃てる代物じゃないよな?

「いや、撃てるぞ」

 あ、そう。

 そんだけ。
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