桐山和雄と俺の関係


 今日、バイトを終えて家に帰ったら、何故か台所にオールバックの少年がいた。

 黒い学生服を着ている。そんなに体が大きいわけではない、しかし恐ろしくハンサムな少年が、そこに、立っていた。

 少年は、シチューを作りながら俺に

「やあ、おかえり」と無表情で言った。

 俺は、なぜ俺の家の台所に少年がいるのかわからずに当惑したが

「た、ただいま」

 とぎこちなく微笑みかえした。

 盗みに入ったわけでも、ストーカーといった類の人間ではないようだが……

 とりあえず名前を聞いてみた。少年は桐山和雄というらしい。

 その後、桐山が作ったシチューを食べた。

 プロの料理人が作ったみたいにうまかった。

 そんだけ。

 ※

 次の日、なんでここに来たの?って聞いたら桐山はこう答えた。

「そうしてみようかと思ったんだ」

 答えになってねーよ。

 いや、そもそもお前中学生だろ、無断外泊なんてしていいのかよ?
 親御さん心配するだろ。

 俺がそう言うと桐山は無言で首を横に振った。

 その顔は、俺の思い込みかもしれないけどなんとなく寂しげだった。
 何だか触れてはいけないことのような気がしたのでそれ以上は突っ込まないことにした。

 わかった、いいよ。気が済むまでいるといいさ。

 桐山は「ありがとう」と言った。

 相変わらずの無表情だったけど。

 そんだけ。

 ※

 ところで桐山、お前学校はどうしたんだ?ちゃんと行ってるのか?
 あんまり悪さとかはしてなさそうに見えるけど、こいつ不良なのか?髪型もオールバックだし。

 そういや噂で聞いたが、この町にはすごく強い中学生の不良がいるらしい。
 名前は「キリヤマ」、だったような気がする。もしかしてこいつが……?

 いや、まさかな。

 学校には行ってるのか、と聞いたら桐山は。

「気が向いたときと、テストがある日には行っている」

 と言った。

 おいおい、そんなんで大丈夫かよ。ちゃんと授業受けてなきゃテストだってできないだろ?

 ―と思ってたら、後日テストの結果表を見せられた。
 学年1位だった。

 勉強なんていつしてたんだ?カンニングか?いや、そんなセコいことするようなやつには見えないし……

 桐山はやっぱりよくわからないやつだ、と謎が深まった。

 そんだけ。

 ※

 初めて会ったときから既にそうだったので、桐山といえばオールバックの髪型、という印象が強い。

 しかしそんなやつも風呂に入ったりすれば当然その髪は下ろされる形になる。

 やはりというか、なんというか、前髪を下ろしているとオールバックのときよりは幼い感じに見えた。
 端正な顔立ちと相まって、上品ささえも感じられる。

 そういやこいつ、食事のときなんかも綺麗な箸の使い方をするよな……
 ケーキ買ってきたときなんかもわざわざ皿とフォークを用意して食べてるし……

 もしかしていいところのお坊っちゃんだったりするのか?

 いや、ないだろう。お坊っちゃんは家出したり、勝手に人の家に居座ったりなんてしないもんな。
 それに桐山は頭がいいとはいえ、気が向いたときだけにしか学校に行かない不良だ。

 ないない、絶対ないよ。

 そんだけ。
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