蜀軍 同盟延長
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「夏侯惇!夏侯惇ーー!」
「恨まれるのは、お門違いだ!」
「夏侯惇殿!私とお手合わせ願おう!」
「お前は俺になんの恨みがあるんだ!?」
早速魏軍撲滅チームの二人に絡まれていた夏侯惇さん。諸葛亮さん、いるんなら止めてあげてください?
「どうしたものか…。趙雲は別として、馬超は…その、魏軍に対し他のものとは募るものがありまして…」
「存じております…。ここはどうか私におまかせを」
私は背負っていた戟を構え、夏侯惇さんと魏軍撲滅チームの間に割入った。二人同時攻撃だったので二人共の攻撃をなんとか受け止める
「なっ…!」
「1人ならまだしも、二人同時に…ぬぁっ!」
驚いた様子で目を見開き、隙のできた二人を薙ぎ払って夏侯惇さんに振り返った。すると額に彼の指が弾かれる
「痛っ……」
「馬鹿!あれ程無茶はするなと言っただろう!」
「…夏侯惇様を守る為でしたが、不必要でしたか?」
「あぁ不必要だ!お前の身に何かあれば、俺は死んでも死にきれんぞ…」
「物騒な事を仰るのはやめてください。今度はこっちが本気でデコピンしますよ」
夏侯惇さんが私にデコピンした時と同じ仕草を指で行うと、夏侯惇さんが顔を青ざめさせ、額を掌で隠した
「頼む、それだけは勘弁してくれ!頭が割れる…!」
「なら貴方も無茶をしないで下さい。何かあったら呼んでくださりませんと」
「何をゴチャゴチャと………女!貴様も魏軍ならば、今ここで──」
夏侯惇さんと話をしていると、殺意剥き出しで槍を構えた馬超さんが私を睨んだ。瞳に宿る炎が、とても切なく見える
「馬超!夏侯惇はまだ分かるが、彼女がなにかしたのか!」
「ですが!……くそっ!」
主君である劉備さんに止められ、何も言えなくなった馬超さんは悔しそうに鍛錬場を後にした
「…すまない颯閃殿。馬超にも事情があるのだ……本当ならば止めなくてはならないのに、申し訳ない」
少し悲しそうにそう言って頭を下げた劉備さん。馬超さんがなぜあんな風に敵意を剥き出しにするのか知っているから、攻めることなんて出来ない
「…人それぞれ、何かを抱えて生きているのがこの時代。私は彼を咎めることは出来ません」
実際、私も転生者という事をひた隠しにして生きている。この時代の人間は、『何かしら』を胸に秘めるものだ。野心であったり、平和への想いであったり、はたまた形容しがたいものを
それは、切なければ切ない程簡単に『闇』に染まる。危険なものでも…秘めずにはいられない。秘めておかなくては誰かを巻き込みかねない、そんなものだから。まぁ、一部は隠しておかなくては自分の身が危険になるというものがあるのだけれど
「夏侯惇様、少しこの場をあとにさせて頂きます。くれぐれもお怪我のないように」
「お前に言われたくないがな」
「…ちょっとムカチンとくる言葉ですよそれ。まぁ、すぐに戻ってきます」
私は夏侯惇さんに背を向け馬超さんの走っていった方へと歩みを進める。馬超さんも色々抱えてるんだ、私でよければ軽くしてあげたい。あの時みたいに……
《馬超視点》
「くそっ…!俺に復讐の機会を与えてくれたと、過信しすぎたのか……」
俺はそう毒づきながら地面に拳を叩きつけた。滲む血を見ながら、俺は考える
目の前に現れたのは、曹操の腹心だった。あの男さえ殺せば曹操自身を殺すよりも、アイツに多大な影響を与えられると思っていた。それなのに…
「あの女……っ!」
頭の中で浮かぶ顔を布で隠した女の子の事を思い出し、俺はまた拳を地面に叩きつける。俺や趙雲殿の攻撃をいとも容易く受け流したあの女は一体何者だ?夏侯惇の強力な相棒か何かか…それとも雇われ人?いや、あの様子からしてそれはない。確実に絆が芽生えていた。信頼するが故の行い……
「……くそっ」
今日何度目かの毒吐きに可笑しくなってくる。こんなにも目の前に復讐するてかがりがあるのに、何も出来ない自分が情けない。父上に…申し訳ない。一族に示しがつかない
そう思っていると、横に誰かが座ったのが視界の端に映った。馬岱かと思い頭をあげると──
「どうも」
「貴様…!」
俺の最高の機会をぶち壊した張本人。夏侯惇の付き添いの女だった。それを見て、俺の心は一気に殺意が溢れだす
「何の用だ!」
「…少々、お話がしたくて」
「貴様の言葉など聞く耳持たん!」
「なら、相槌も何もなくていいので、適当に聞き流して下さいませ」
女は俺の意思に関係なく、ポツポツと話をしだした。俺は女の話を聞くつもりはなく、女とは真逆の方向に顔をそらした
「…この時代に生きるもの、誰しもが胸中に何かをひた隠しに生きております。燃える様な野心、限り無い忠義、果てなき平和への想い…。その別には誰かを憎む者だって少なくないでしょう」
女はそこで俺の方を見た。勿論、俺はそっぽを向いているので、そう思っただけだが
「私だって、仲間にでさえ隠しているものがあります。話していいのか、よく分からないので……。でも、貴方に一つだけ、言えることがあるんです」
女は立ち上がって、俺の側から離れる。言いたいことがあるのではないか?そう思ってついそちらを向いてしまった
「…それは、『復讐』は何も利益を生み出すことがない…という事です」
それを分かっていたように女は薄く微笑みそう話した。半透明な布から薄らと見える瞳は、悲しげに揺らいでいる気がした。その瞳を、俺はどこかで見た気がする
「復讐は、新たな復讐を生むことを知っていますか?貴方は復讐の後を、どうする気なのですか?復讐心だけを糧に生きて、その後は何を糧にして生きていくのですか?」
「俺は………」
そこで言葉が詰まった。今の俺は復讐に身を燃やし生きている、あの男……曹操を殺す事だけを考え生きてきた。だがその後は?今初めて、その事を考えた
「大切な家族を殺された時の心境を味わったことは私にはありません。ですが、きっと私も相手を恨むでしょう」
「…ではなぜだ、なぜ貴様は俺にそんな『綺麗事』が言える!あぁそうだっ!貴様の言っていることは綺麗事だ!」
女の言葉を全て否定し、俺は先程まで考えていたことを頭から消し立ち上がる。そして地面に置いていた槍を手にし、それを女へと向けた
「魏軍との友好関係など知ったものか!貴様を殺し、夏侯惇も殺す!」
「…もう一度、聞かせてください。貴方は復讐の心が晴れたあとどうなるのですか」
「知ったものか!俺の目的は曹操を殺す…。それだけだ!」
煩わしく感じた女に俺は勢いよく槍を振る。だが女はそれを避けなかった。地面に押し倒す形になり、槍の矛先は女の顔横間近に突き刺さり、頬に薄らと傷をつけた。赤い鮮血が頬を伝う
「……なぜ、避けない…!」
「……私は貴方を説得する為にここに来ました。貴方が曹操様を怨むという事は魏軍も敵対象。そこに所属する私が説得に失敗すれば死は確定しています」
覚悟の上で俺に近付いた。自分の命を賭けてでも、負の連鎖を断ち切ろうとした。そんな姿が、一瞬劉備殿を彷彿とさせた。あの方も、俺の話を聞いて少しでも力になれればと相談に乗っていてくれた。それを踏まえ、俺は疑問を抱いた
「何故そこまでして、復讐を嫌う…?貴様も言っていただろう!一族を皆殺しにされた時、相手を恨むだろうと!」
そう、復讐を嫌う理由だ。この女は確かに言った、自分も恨むだろうと。だがそれを自覚してなお、なぜそう言えるのか。俺はそれが疑問だった
「えぇ、言いました。それでも、負の連鎖を自らの手で結んでしまうのは、戦が長引く要因になるでしょう?自らの感情で、平和な世の中を先延ばしにする事は私の一族が許しませんし、これ以上悲しむ人が増える事はしたくありませんから」
俺を見据える瞳に迷いはない。真っ直ぐな、光を宿す希望の瞳に、俺の心がまた揺らぎ始める
「…何故だ、なぜ……」
「…どうぞ、煮るなり焼くなりお好きに。貴方の気持ちを変えることが出来なかった私には、もう何も言うことはありません」
そう言って瞳を閉じ、全てを受け入れる準備を整えたらしい女はもうピタリとも動かない。話す気配もなければ、息をするという事以外は行っていないようだ
「………」
その覚悟や意思に、俺は胸を痛めた。そこまでしてこの女が成そうとしたのは先程の通りで間違いないだろう。俺はそれを思い、自分の復讐を振り返る
俺は、曹操に一族を殺された。憎くて堪らなかった。大事な家族を、親族を、殺されたから。俺は自分の不甲斐なさと悔しさで自分を制御できていなかったと認めている。そして、その制御できていない状態で、俺は曹操を魏軍のとある一族を何人も殺した。それが…また復讐を呼んでいることを俺は知っている
この女は、復讐の先を知っている。どれだけ果たしても、また次の復讐が次へと続くことをその脳が理解している。だから、終わらせたいんだ。少しでも自分の想う『泰平』の為に
永遠に続くであろう負の連鎖を
「…起きろ、女」
「?」
「いいから起きろ!あと手を出せ!」
「は、はい……」
呆気に取られたと言った様子で起き上がり、手を差し出す女。俺はその手に自分の右手を重ねた。いつしか感じたことのある温もりに、俺は少し胸が痛んだ
「…お前の、平和への想いは確かに受け取った。今は仕方なく!仕方なく停戦だ……」
「馬超様…!」
顔が近い為か先程よりは見える女の顔は嬉しそうに笑っていた。そしてその時、俺は相手の正体に気づくことになる。それを知って俺の鼓動は嫌に鳴り響き始めた
「颯閃…!?お前、なんでここに…!!」
「あっ、バレました?」
「…お、俺は…颯閃に槍を向けたのか…?」
一気に血の気が引いていくのがわかった。俺は、自分を助けてくれた颯閃を、あの男の手から救い出すと決めた颯閃を殺そうとしていたのか。そう思うだけで、俺の体が震え始める。その頬の傷は、俺がつけてしまったものだ
「馬超様?…槍のことは大丈夫、あれは賭けみたいな物ですから。心配することはありませんよ」
「だが!俺はお前のことを…」
「もう、大丈夫って本人が言ってるんだから大丈夫なんです。はい仲直り」
颯閃はそう言いながら俺の手を握ってきた。その手はじんわりと暖かく、俺の心の臓が大きく動き続けるのがわかる。久々に感じる人の体温が、とても暖かい。先程の嫌な心音とは違った、とても気持ちいいものだ
「颯閃……その、頬の傷……」
「はいはい、大丈夫ですよ」
「……すまない、まだ嫁入り前であろうお前に、こんな……」
「あはははっ、私ってわかった途端態度変えすぎですよ」
「仕方ないだろ!俺はお前に幾度も助けられたんだ……今回も……」
俺はそう言って口を噤んだ。考えてみれば、俺は助けられてばかりだ。颯閃を助けた記憶が、俺にはない。最初は手当を受けて送ってもらい、次は敵から逃がされ、今では命を懸けて俺を連れ戻してくれた
(……俺は、お前を助けられるだろうか)
心の中で浮かんだその言葉が俺の心にずっと浮かんだまま消えない。あぁ、俺は心も身体も来たえ直さなくてはいけないと再度感じさせられる。颯閃を守り、助けるには、颯閃より強くあらねば……
「恨まれるのは、お門違いだ!」
「夏侯惇殿!私とお手合わせ願おう!」
「お前は俺になんの恨みがあるんだ!?」
早速魏軍撲滅チームの二人に絡まれていた夏侯惇さん。諸葛亮さん、いるんなら止めてあげてください?
「どうしたものか…。趙雲は別として、馬超は…その、魏軍に対し他のものとは募るものがありまして…」
「存じております…。ここはどうか私におまかせを」
私は背負っていた戟を構え、夏侯惇さんと魏軍撲滅チームの間に割入った。二人同時攻撃だったので二人共の攻撃をなんとか受け止める
「なっ…!」
「1人ならまだしも、二人同時に…ぬぁっ!」
驚いた様子で目を見開き、隙のできた二人を薙ぎ払って夏侯惇さんに振り返った。すると額に彼の指が弾かれる
「痛っ……」
「馬鹿!あれ程無茶はするなと言っただろう!」
「…夏侯惇様を守る為でしたが、不必要でしたか?」
「あぁ不必要だ!お前の身に何かあれば、俺は死んでも死にきれんぞ…」
「物騒な事を仰るのはやめてください。今度はこっちが本気でデコピンしますよ」
夏侯惇さんが私にデコピンした時と同じ仕草を指で行うと、夏侯惇さんが顔を青ざめさせ、額を掌で隠した
「頼む、それだけは勘弁してくれ!頭が割れる…!」
「なら貴方も無茶をしないで下さい。何かあったら呼んでくださりませんと」
「何をゴチャゴチャと………女!貴様も魏軍ならば、今ここで──」
夏侯惇さんと話をしていると、殺意剥き出しで槍を構えた馬超さんが私を睨んだ。瞳に宿る炎が、とても切なく見える
「馬超!夏侯惇はまだ分かるが、彼女がなにかしたのか!」
「ですが!……くそっ!」
主君である劉備さんに止められ、何も言えなくなった馬超さんは悔しそうに鍛錬場を後にした
「…すまない颯閃殿。馬超にも事情があるのだ……本当ならば止めなくてはならないのに、申し訳ない」
少し悲しそうにそう言って頭を下げた劉備さん。馬超さんがなぜあんな風に敵意を剥き出しにするのか知っているから、攻めることなんて出来ない
「…人それぞれ、何かを抱えて生きているのがこの時代。私は彼を咎めることは出来ません」
実際、私も転生者という事をひた隠しにして生きている。この時代の人間は、『何かしら』を胸に秘めるものだ。野心であったり、平和への想いであったり、はたまた形容しがたいものを
それは、切なければ切ない程簡単に『闇』に染まる。危険なものでも…秘めずにはいられない。秘めておかなくては誰かを巻き込みかねない、そんなものだから。まぁ、一部は隠しておかなくては自分の身が危険になるというものがあるのだけれど
「夏侯惇様、少しこの場をあとにさせて頂きます。くれぐれもお怪我のないように」
「お前に言われたくないがな」
「…ちょっとムカチンとくる言葉ですよそれ。まぁ、すぐに戻ってきます」
私は夏侯惇さんに背を向け馬超さんの走っていった方へと歩みを進める。馬超さんも色々抱えてるんだ、私でよければ軽くしてあげたい。あの時みたいに……
《馬超視点》
「くそっ…!俺に復讐の機会を与えてくれたと、過信しすぎたのか……」
俺はそう毒づきながら地面に拳を叩きつけた。滲む血を見ながら、俺は考える
目の前に現れたのは、曹操の腹心だった。あの男さえ殺せば曹操自身を殺すよりも、アイツに多大な影響を与えられると思っていた。それなのに…
「あの女……っ!」
頭の中で浮かぶ顔を布で隠した女の子の事を思い出し、俺はまた拳を地面に叩きつける。俺や趙雲殿の攻撃をいとも容易く受け流したあの女は一体何者だ?夏侯惇の強力な相棒か何かか…それとも雇われ人?いや、あの様子からしてそれはない。確実に絆が芽生えていた。信頼するが故の行い……
「……くそっ」
今日何度目かの毒吐きに可笑しくなってくる。こんなにも目の前に復讐するてかがりがあるのに、何も出来ない自分が情けない。父上に…申し訳ない。一族に示しがつかない
そう思っていると、横に誰かが座ったのが視界の端に映った。馬岱かと思い頭をあげると──
「どうも」
「貴様…!」
俺の最高の機会をぶち壊した張本人。夏侯惇の付き添いの女だった。それを見て、俺の心は一気に殺意が溢れだす
「何の用だ!」
「…少々、お話がしたくて」
「貴様の言葉など聞く耳持たん!」
「なら、相槌も何もなくていいので、適当に聞き流して下さいませ」
女は俺の意思に関係なく、ポツポツと話をしだした。俺は女の話を聞くつもりはなく、女とは真逆の方向に顔をそらした
「…この時代に生きるもの、誰しもが胸中に何かをひた隠しに生きております。燃える様な野心、限り無い忠義、果てなき平和への想い…。その別には誰かを憎む者だって少なくないでしょう」
女はそこで俺の方を見た。勿論、俺はそっぽを向いているので、そう思っただけだが
「私だって、仲間にでさえ隠しているものがあります。話していいのか、よく分からないので……。でも、貴方に一つだけ、言えることがあるんです」
女は立ち上がって、俺の側から離れる。言いたいことがあるのではないか?そう思ってついそちらを向いてしまった
「…それは、『復讐』は何も利益を生み出すことがない…という事です」
それを分かっていたように女は薄く微笑みそう話した。半透明な布から薄らと見える瞳は、悲しげに揺らいでいる気がした。その瞳を、俺はどこかで見た気がする
「復讐は、新たな復讐を生むことを知っていますか?貴方は復讐の後を、どうする気なのですか?復讐心だけを糧に生きて、その後は何を糧にして生きていくのですか?」
「俺は………」
そこで言葉が詰まった。今の俺は復讐に身を燃やし生きている、あの男……曹操を殺す事だけを考え生きてきた。だがその後は?今初めて、その事を考えた
「大切な家族を殺された時の心境を味わったことは私にはありません。ですが、きっと私も相手を恨むでしょう」
「…ではなぜだ、なぜ貴様は俺にそんな『綺麗事』が言える!あぁそうだっ!貴様の言っていることは綺麗事だ!」
女の言葉を全て否定し、俺は先程まで考えていたことを頭から消し立ち上がる。そして地面に置いていた槍を手にし、それを女へと向けた
「魏軍との友好関係など知ったものか!貴様を殺し、夏侯惇も殺す!」
「…もう一度、聞かせてください。貴方は復讐の心が晴れたあとどうなるのですか」
「知ったものか!俺の目的は曹操を殺す…。それだけだ!」
煩わしく感じた女に俺は勢いよく槍を振る。だが女はそれを避けなかった。地面に押し倒す形になり、槍の矛先は女の顔横間近に突き刺さり、頬に薄らと傷をつけた。赤い鮮血が頬を伝う
「……なぜ、避けない…!」
「……私は貴方を説得する為にここに来ました。貴方が曹操様を怨むという事は魏軍も敵対象。そこに所属する私が説得に失敗すれば死は確定しています」
覚悟の上で俺に近付いた。自分の命を賭けてでも、負の連鎖を断ち切ろうとした。そんな姿が、一瞬劉備殿を彷彿とさせた。あの方も、俺の話を聞いて少しでも力になれればと相談に乗っていてくれた。それを踏まえ、俺は疑問を抱いた
「何故そこまでして、復讐を嫌う…?貴様も言っていただろう!一族を皆殺しにされた時、相手を恨むだろうと!」
そう、復讐を嫌う理由だ。この女は確かに言った、自分も恨むだろうと。だがそれを自覚してなお、なぜそう言えるのか。俺はそれが疑問だった
「えぇ、言いました。それでも、負の連鎖を自らの手で結んでしまうのは、戦が長引く要因になるでしょう?自らの感情で、平和な世の中を先延ばしにする事は私の一族が許しませんし、これ以上悲しむ人が増える事はしたくありませんから」
俺を見据える瞳に迷いはない。真っ直ぐな、光を宿す希望の瞳に、俺の心がまた揺らぎ始める
「…何故だ、なぜ……」
「…どうぞ、煮るなり焼くなりお好きに。貴方の気持ちを変えることが出来なかった私には、もう何も言うことはありません」
そう言って瞳を閉じ、全てを受け入れる準備を整えたらしい女はもうピタリとも動かない。話す気配もなければ、息をするという事以外は行っていないようだ
「………」
その覚悟や意思に、俺は胸を痛めた。そこまでしてこの女が成そうとしたのは先程の通りで間違いないだろう。俺はそれを思い、自分の復讐を振り返る
俺は、曹操に一族を殺された。憎くて堪らなかった。大事な家族を、親族を、殺されたから。俺は自分の不甲斐なさと悔しさで自分を制御できていなかったと認めている。そして、その制御できていない状態で、俺は曹操を魏軍のとある一族を何人も殺した。それが…また復讐を呼んでいることを俺は知っている
この女は、復讐の先を知っている。どれだけ果たしても、また次の復讐が次へと続くことをその脳が理解している。だから、終わらせたいんだ。少しでも自分の想う『泰平』の為に
永遠に続くであろう負の連鎖を
「…起きろ、女」
「?」
「いいから起きろ!あと手を出せ!」
「は、はい……」
呆気に取られたと言った様子で起き上がり、手を差し出す女。俺はその手に自分の右手を重ねた。いつしか感じたことのある温もりに、俺は少し胸が痛んだ
「…お前の、平和への想いは確かに受け取った。今は仕方なく!仕方なく停戦だ……」
「馬超様…!」
顔が近い為か先程よりは見える女の顔は嬉しそうに笑っていた。そしてその時、俺は相手の正体に気づくことになる。それを知って俺の鼓動は嫌に鳴り響き始めた
「颯閃…!?お前、なんでここに…!!」
「あっ、バレました?」
「…お、俺は…颯閃に槍を向けたのか…?」
一気に血の気が引いていくのがわかった。俺は、自分を助けてくれた颯閃を、あの男の手から救い出すと決めた颯閃を殺そうとしていたのか。そう思うだけで、俺の体が震え始める。その頬の傷は、俺がつけてしまったものだ
「馬超様?…槍のことは大丈夫、あれは賭けみたいな物ですから。心配することはありませんよ」
「だが!俺はお前のことを…」
「もう、大丈夫って本人が言ってるんだから大丈夫なんです。はい仲直り」
颯閃はそう言いながら俺の手を握ってきた。その手はじんわりと暖かく、俺の心の臓が大きく動き続けるのがわかる。久々に感じる人の体温が、とても暖かい。先程の嫌な心音とは違った、とても気持ちいいものだ
「颯閃……その、頬の傷……」
「はいはい、大丈夫ですよ」
「……すまない、まだ嫁入り前であろうお前に、こんな……」
「あはははっ、私ってわかった途端態度変えすぎですよ」
「仕方ないだろ!俺はお前に幾度も助けられたんだ……今回も……」
俺はそう言って口を噤んだ。考えてみれば、俺は助けられてばかりだ。颯閃を助けた記憶が、俺にはない。最初は手当を受けて送ってもらい、次は敵から逃がされ、今では命を懸けて俺を連れ戻してくれた
(……俺は、お前を助けられるだろうか)
心の中で浮かんだその言葉が俺の心にずっと浮かんだまま消えない。あぁ、俺は心も身体も来たえ直さなくてはいけないと再度感じさせられる。颯閃を守り、助けるには、颯閃より強くあらねば……