してよ してよ

 そしてその手は優しく背中を擦ってくれ、幾分か柔らかい声色で言い聞かせるようにして月島が言葉を口にする。
「占いなど信じるからこうなるんです。私のあなたへ向ける気持ちが知りたいなら、本人に直接聞けばいいんです。あなたは、聞ける相手がすぐ傍に居るんですから、聞いてください。本当に聞きたい時に、聞けなくなる前に……どうか」
 優しく頭を撫でられ、そして後頭部の髪をさらさらと梳かれる。その慈愛溢れる仕草に、鯉登からも手を伸ばして月島の身体をガシッと抱きしめる。
「……済まなかった。でも、不安なんだ。お前は時々、私といてもどこを見ているか分からない時がある。そういう時、思う。私の知らないお前のことを。私はお前の過去がどんなか知らない。だから、知りたかったんだ。本当に、お前に好かれているかどうか……どうしても、知りたくて。でも、直接聞けるほど私は素直ではない。でも、そうだな。聞ける時に聞いておかないと」
「そうですよ。さあ、なにが聞きたいか言ってください。直接、私が傍に居て聞ける間に。何が知りたいですか?」
 そっと月島が身体から離れ、その両手は鯉登の頬に添えられ、親指の腹で優しく撫で擦ってくるその仕草に、自然と涙が滲んでくる。
「月島……私が、好きか。本当に、そう想って傍に居るのか」
「はい、好きです。上官だから、ではなく一人の人間として、あなたを好ましく思ってますよ」
 その言葉に、鯉登は首を横に振る。
「好ましくじゃなにも分からん! 好きか、きらいか、愛しているか。愛してると言ってくれ! 私が想っているように、お前にもそう想って傍に居て欲しい……傲慢なのは分かってる。けれど……お前には、そう想っていて欲しいんだ。片想いは、いやだ……報われたい。愛し合っていたい」
 ぽろりと涙が瞳から零れ、それを月島の親指が拭い取ってくれる。そして、これ以上なく優しい笑みが月島の顔に浮かぶ。
 そしてその顔は徐々に近づいてきて、瞬きする間もなく唇に柔らかくて温かく、そして湿った感触が拡がる。
「んっ……つき、し、まっ……! んん、ンッ!」
 ちゅっちゅと音を立てて唇を吸われ、思わず息を上げてしまう。自然と身体が熱くなり、それがいつもよりも心地がいい。
 鯉登からも月島の唇を吸い、唾液を啜って飲み下すとのど奥からふわっと月島の味が上ってきて、それも気持ちが良く、さらに濃い口づけを強請ってしまう。
 ここが病室だからだとか、他人が見ているからだとかは今は考えたくなかった。
 月島に、どっぷりと溺れたい。今だけでいいから、溺れさせて欲しい。今だけじゃなく、これからもずっと、彼に溺れていたい。
 その一心で必死になって舌を伸ばして月島の唇を舐めて咥内へと入れると、そのまま絡め取られて欲していた濃厚なキスが始まる。
 鯉登が好きな口づけだ。
 月島としか交わしたことが無いので分からないが、こんなにも幸せな気分になれるのであればもう一生、キスし続けていたい。何分経っても、何十分経っても、何時間経ってもずっとキスしていたいと思う。
 ちゅぷちゅぷと濡れた水音が耳に届いて、それは興奮に繋がり月島の首に手を回し、自分は感じているんだぞと知らせるようにガリガリと爪を立てて引っ掻く。
 すると、口づけはますます激しくなり、頬を包んでいた片手は後頭部に回りさらさらと髪を梳かしてきては頭からも快感を送ってくる。
「は、はっ……んっふ、はっはっあっんン、ふっはっぁ、つき、しまっ……!」
 思わず月島を呼んでしまうと、両手で後ろ髪を梳かれ親指が両耳に入り、くしゅくしゅと愛撫され、また喘いでしまう鯉登だ。
 そのたびに肩が跳ね上がってしまい、ビグビグと身体を捩らせながら熱い吐息をつき、甘い声を発してしまう。
「あ、あっ……あ、やっ、やっあっ、ソコ、あっ……!! ああ、あっ」
「大好きです、愛してますよ。俺はずっと……あなたに夢中です。占いなんかに惑わされないでください……音之進は本当に、人を疑わない人ですね。でも、そういうところが……」
 実に好ましいと、耳に吹き込まれ思わず身体をブルッと震わせてしまう。
「あっ……!! み、耳元で囁くなっ!! はあっ、か、感じるっ……!! もっと、先が欲しくなってしまう。月島……」
 じっと月島を見つめると、そのまま身体が下に向かうのが分かったがそのままにしておくと、ぱさっとベッドに押し倒され、ゆっくりと着ていた寝間着である浴衣の合わせ目に手が入り、左右に割り切らかれたかと思ったら、包帯の上から、さらりと傷口を撫でられた。
「未だ聞いていませんでしたね。お加減はいかがですか? 未だ痛い?」
「いいや、お前の顔を毎日見ているから元気だ。痛みも、薄くなってきている。さっきは……悪かった。私がお前の気持ちを疑ったりしたから……お前はあまり、言ってくれないだろう。私にその、好きだとか、愛しているだとか。だから……聞きたかった。卑怯だったな、私は。済まない、月島」
 ぎしっと音を立ててベッドへ乗り上げてきた月島の手はそのまま、脇腹を撫でてへその窪みに指を入れたりと、まるで身体で遊んでいるようにして愛撫してくる。
 そしてその手は両肩に乗り、すりすりと優しく撫で擦られ、その手は二の腕へと移動し、そこでも肌を擦られ、思わず息を上げてしまう。
「あなたが人を疑うことを知らない人だということは知っていますから。……でも、気持ちを疑ったのは許せませんね。私があなたのことをどう想っているかくらい、分かってくれていてもよさそうなのに。そんなに信用無いですかね」
 その言葉に、鯉登は目を伏せ、身体をいじってくる月島の手を見つめる。
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