とうこねくと! ~東子さまと秋田犬ともうひとつのツナガリ
騒動の後、八重樫さんは「ご迷惑おかけしました……。でも……ごちそうさまでした……うふっ」と、あの含みのある笑みを浮かべて帰っていきました。
「……八重樫さんは、『女性限定のキス魔』……ですか……。しかも重度の……」
東子さまと並んで縁側に座り、夜の月を見上げながら私はそう口にします。
「そうなの。私は修くんからその話を前もって聞いていたわ。「葵はシラフでも、女性相手にキスをしたがります。なんとか付き合ってやってください」って。あなたは修くんから聞かなかったの?」
「……すみません。大事なこと聞く前に、東子さまのところへ飛んでいったものですから……」
「まったく……」
「だって、もし東子さまの身に何かあったらと思ったら……」
「まあ、本人に悪気は全くないわけだし、大丈夫よ。あなたも葵ちゃんにキスされたし」
「……っ」
思わず、自分の唇をさわります。東子さま以外の、女性の唇が……
「それでも、私……やっぱりこんなの──」
言いかけた私の口を、東子さまの唇が塞ぎました。そのまましばらく、長いキスが続きます。
そして唇を放した時、東子さまは言いました。
「……もう忘れなさい」
「でも、東子さま……」
「唇が奪われるのは、心までごっそり奪われることと同じ?」
「そ、それは……」
「あの子のキスは、言ってしまえばあいさつのようなものよ。あいさつに怒る理由はないはずよ」
「そうかもしれませんが……」
「まだ納得しきれてないみたいね」
「だって……」
「もう……」
呆れたようにため息交じりでそう言った東子さまは、隣に座る私を力強く抱き締めました。
「私の心が、あいさつ程度のキスひとつで揺らぐとでも思った? まったく、失礼しちゃうわ……」
「……」
「心配しなくても、私の心はあなたしか見てないんだから。だからあなたも、私だけ見ていなさい」
「東子さま……」
「……わかった?」
おでことおでこをくっつけた至近距離で、東子さまが見つめてきます。その瞳は夜の闇のように黒いのに、月明かりが混じって金色に光っているようにも見えます。私はいろいろなものがこらえ切れなくなり……
「……はい!」
目にいっぱいの涙を溜めこんで、精いっぱいの返事をしました。
私の心も、東子さまの心も、共にお互いの胸の中。簡単には揺らがない、つながった心。私はずっと、東子さまと、東子さまの心と共に生きたい……です。
「……八重樫さんは、『女性限定のキス魔』……ですか……。しかも重度の……」
東子さまと並んで縁側に座り、夜の月を見上げながら私はそう口にします。
「そうなの。私は修くんからその話を前もって聞いていたわ。「葵はシラフでも、女性相手にキスをしたがります。なんとか付き合ってやってください」って。あなたは修くんから聞かなかったの?」
「……すみません。大事なこと聞く前に、東子さまのところへ飛んでいったものですから……」
「まったく……」
「だって、もし東子さまの身に何かあったらと思ったら……」
「まあ、本人に悪気は全くないわけだし、大丈夫よ。あなたも葵ちゃんにキスされたし」
「……っ」
思わず、自分の唇をさわります。東子さま以外の、女性の唇が……
「それでも、私……やっぱりこんなの──」
言いかけた私の口を、東子さまの唇が塞ぎました。そのまましばらく、長いキスが続きます。
そして唇を放した時、東子さまは言いました。
「……もう忘れなさい」
「でも、東子さま……」
「唇が奪われるのは、心までごっそり奪われることと同じ?」
「そ、それは……」
「あの子のキスは、言ってしまえばあいさつのようなものよ。あいさつに怒る理由はないはずよ」
「そうかもしれませんが……」
「まだ納得しきれてないみたいね」
「だって……」
「もう……」
呆れたようにため息交じりでそう言った東子さまは、隣に座る私を力強く抱き締めました。
「私の心が、あいさつ程度のキスひとつで揺らぐとでも思った? まったく、失礼しちゃうわ……」
「……」
「心配しなくても、私の心はあなたしか見てないんだから。だからあなたも、私だけ見ていなさい」
「東子さま……」
「……わかった?」
おでことおでこをくっつけた至近距離で、東子さまが見つめてきます。その瞳は夜の闇のように黒いのに、月明かりが混じって金色に光っているようにも見えます。私はいろいろなものがこらえ切れなくなり……
「……はい!」
目にいっぱいの涙を溜めこんで、精いっぱいの返事をしました。
私の心も、東子さまの心も、共にお互いの胸の中。簡単には揺らがない、つながった心。私はずっと、東子さまと、東子さまの心と共に生きたい……です。
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