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moon.3 葵のドタバタお届け係

10時を少し過ぎた頃、私は図書館の前に立って葵ちゃんを待った。3分ほどしたところで、向こうからうさみみフードをかぶった白い人影が見えた。
「あっ、葵ちゃー……ん?」
思わず振りかけた手を止め、葵ちゃんを凝視する。「恵理子さーん」と笑顔で手を振り駆けてくる葵ちゃんの右手に握られていたのは……私の家の炊飯ジャーだ。
「はぁ、重かった」
葵ちゃんはハンカチで汗を拭いた。
「ちょ……えっ待って葵ちゃん、これ……」
戸惑いが隠せない私は、炊飯ジャーを指差す。
「ごはんが炊けてなかったから、時間もないしその場で炊けばいいと思って持ってきたの。せっかくなら、炊き立てのごはんを食べてほしくて」
ニッコリ笑う葵ちゃんを見て、私は「そ、そうなの……ありがとう……」と動揺を隠せなかった。まさか、炊飯ジャーごと持ってくるなんて……あまりに想定外だ。
「あっ、おかず忘れたから持ってくるね」
「あ……ありがとう。そうだ、一緒にお昼ごはん食べましょ! 戻ってきたら、ずっと休憩室にいていいからね」
「うん、わかった。じゃあまた後でね」
そう言って葵ちゃんは家に戻っていった。
「大丈夫かしら……」
小さくなる後ろ姿を見守りながら、私はポツリとつぶやいた。
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