4th connect とうこいっ♡ ~東子さまは恋をする
着ぐるみのバイトから帰ってきて、夕食を食べ、片付けを済ませ、麦茶とグラスふたつを準備し、ふたりで縁側に座ります。
「あの時ベンチに座ってた男の人──大ちゃんはね、私の高校時代の同級生なの。ちなみに、修くんの職場の元先輩よ。今は違うお仕事してるみたいだけど」
東子さまは続けて口を開きます。
「出会ったきっかけは私が高校3年生になった初夏のある日。帰りのバスを待ってたら急に雨が降ってきてね。私は傘を持ってなかったし、バス停の近くには雨宿りできそうなところもないし、どうしようって思ってたの。そしたら突然傘を持った腕が伸びてきて、男の子が「これ、使ってください!」って言って、雨の中を走って帰っていって……その男の子が大ちゃんだったのよ。それが始まり」
「その方は、優しい方だったんですね」
「優しくて、元気で爽やかだったわ。次の日からいつも彼とバス停で会うようになって、私がバスが来るのを待っている時間にお話するようになったの。学校のこと、日常生活のこと、今日のニュースのことや、昨日のドラマのこととか……。私、男友達とかいなかったから、男の子と話すのがすごく新鮮で。彼はいつも楽しそうにお話をしたり聞いたりしてくれてね。話しているうちに彼のことが気になり始めて、そこから彼が好きになり始めたわ。ひとつのお話をすることで、またひとつ彼を好きになっていく。今まで彼氏も作ったことないし、好きな人もいなかった私だから、これが初恋」
そこまでおっしゃると、東子さまは麦茶を一口飲みました。
「毎日、バス停で会うのが楽しくてね。夢中でお話してたから、バスが来ちゃうのが寂しくて。ずっとお話していたかったな。私のお誕生日にはプレゼントもくれたのよ。もう嬉しくってね……」
東子さまは目の前の中庭の方を向いて微笑みます。
「いいですね……告白はなされたんですか?」
私は尋ねます。
「ううん、できなかった。「好きです」ってその4文字がどうしても喉から出てこなくて、ずっと今だけのシアワセにひたってたわ。告白は、卒業してからでもいいと思ってた。……でも、それが間違いだった」
東子さまは唇をきゅっと噛んで俯きます。
「7月の終わり頃、いつものバス停で待ってたら、大ちゃんが知らない女の子を連れてやってきた。同じ制服、同じ学校の女の子。すると大ちゃん、女の子のことをこう言ったわ。「僕の彼女です」って」
「彼女、いたんですか……」
「話を聞けば、その女の子は大ちゃんのクラスメイトでこの日の前に付き合い始めたんだって。なんだか心にポッカリ穴が開いたみたいになって何も言えなかった」
「……」
「その日を境に、私は帰りのバス時間を変えて大ちゃんと会わないようにし始めた。大ちゃんに会っても笑顔でいられる自信がなくてね……大ちゃんの顔を見たら泣いちゃいそうでさ。そのまま、私が大ちゃんを避け続けて卒業を迎えたわ」
そこまでおっしゃると、東子さまは残っていた麦茶をゴクゴクと飲み干しました。
「あの時、私が早く告白していたら、状況は変わっていたのかもしれない。あの時、私が大ちゃんに「好きです」って伝えていたら、私は大ちゃんの彼女になれていたかもしれない。そんな後悔ばっかりが頭の中を駆け巡ってた。駆け巡ったところでどうすることもできないんだけどね……」
空のグラスを置き、東子さまは夜空を見上げました。私も同じく見上げます。満月に近いお月さまと星たちが、夜空で集会を開いています。
「好き、だったのよ……彼のこと」
口を開いた東子さまの横顔を見ると……東子さまの頬には一筋の涙が。
「今、あんなところで彼を見つけるなんて……。彼、全然変わってなかったし……昔を思い出しちゃうじゃない……」
そうおっしゃると、東子さまはポロポロと泣きだしました。
「東子さま……」
「恵理子ちゃん……ちょっと胸、借りるね……」
私の胸に飛び込む東子さま。ここで冒頭に戻ります。
東子さまは私にギュッとしがみ付き、私の胸でわあっと声を上げて泣いています。私は気のきいた言葉のひとつも出てこなくて、ただただ泣き続ける東子さまをギュッと抱きしめ返すことしかできませんでした。
「あの時ベンチに座ってた男の人──大ちゃんはね、私の高校時代の同級生なの。ちなみに、修くんの職場の元先輩よ。今は違うお仕事してるみたいだけど」
東子さまは続けて口を開きます。
「出会ったきっかけは私が高校3年生になった初夏のある日。帰りのバスを待ってたら急に雨が降ってきてね。私は傘を持ってなかったし、バス停の近くには雨宿りできそうなところもないし、どうしようって思ってたの。そしたら突然傘を持った腕が伸びてきて、男の子が「これ、使ってください!」って言って、雨の中を走って帰っていって……その男の子が大ちゃんだったのよ。それが始まり」
「その方は、優しい方だったんですね」
「優しくて、元気で爽やかだったわ。次の日からいつも彼とバス停で会うようになって、私がバスが来るのを待っている時間にお話するようになったの。学校のこと、日常生活のこと、今日のニュースのことや、昨日のドラマのこととか……。私、男友達とかいなかったから、男の子と話すのがすごく新鮮で。彼はいつも楽しそうにお話をしたり聞いたりしてくれてね。話しているうちに彼のことが気になり始めて、そこから彼が好きになり始めたわ。ひとつのお話をすることで、またひとつ彼を好きになっていく。今まで彼氏も作ったことないし、好きな人もいなかった私だから、これが初恋」
そこまでおっしゃると、東子さまは麦茶を一口飲みました。
「毎日、バス停で会うのが楽しくてね。夢中でお話してたから、バスが来ちゃうのが寂しくて。ずっとお話していたかったな。私のお誕生日にはプレゼントもくれたのよ。もう嬉しくってね……」
東子さまは目の前の中庭の方を向いて微笑みます。
「いいですね……告白はなされたんですか?」
私は尋ねます。
「ううん、できなかった。「好きです」ってその4文字がどうしても喉から出てこなくて、ずっと今だけのシアワセにひたってたわ。告白は、卒業してからでもいいと思ってた。……でも、それが間違いだった」
東子さまは唇をきゅっと噛んで俯きます。
「7月の終わり頃、いつものバス停で待ってたら、大ちゃんが知らない女の子を連れてやってきた。同じ制服、同じ学校の女の子。すると大ちゃん、女の子のことをこう言ったわ。「僕の彼女です」って」
「彼女、いたんですか……」
「話を聞けば、その女の子は大ちゃんのクラスメイトでこの日の前に付き合い始めたんだって。なんだか心にポッカリ穴が開いたみたいになって何も言えなかった」
「……」
「その日を境に、私は帰りのバス時間を変えて大ちゃんと会わないようにし始めた。大ちゃんに会っても笑顔でいられる自信がなくてね……大ちゃんの顔を見たら泣いちゃいそうでさ。そのまま、私が大ちゃんを避け続けて卒業を迎えたわ」
そこまでおっしゃると、東子さまは残っていた麦茶をゴクゴクと飲み干しました。
「あの時、私が早く告白していたら、状況は変わっていたのかもしれない。あの時、私が大ちゃんに「好きです」って伝えていたら、私は大ちゃんの彼女になれていたかもしれない。そんな後悔ばっかりが頭の中を駆け巡ってた。駆け巡ったところでどうすることもできないんだけどね……」
空のグラスを置き、東子さまは夜空を見上げました。私も同じく見上げます。満月に近いお月さまと星たちが、夜空で集会を開いています。
「好き、だったのよ……彼のこと」
口を開いた東子さまの横顔を見ると……東子さまの頬には一筋の涙が。
「今、あんなところで彼を見つけるなんて……。彼、全然変わってなかったし……昔を思い出しちゃうじゃない……」
そうおっしゃると、東子さまはポロポロと泣きだしました。
「東子さま……」
「恵理子ちゃん……ちょっと胸、借りるね……」
私の胸に飛び込む東子さま。ここで冒頭に戻ります。
東子さまは私にギュッとしがみ付き、私の胸でわあっと声を上げて泣いています。私は気のきいた言葉のひとつも出てこなくて、ただただ泣き続ける東子さまをギュッと抱きしめ返すことしかできませんでした。