十五歳
《雅也side》
レポートを書き終えて、チェアに腰かけたまま小さく伸びをした。支柱がしなり、ギシリと音が鳴る。
葵はいつの間にか眠っていた。
掛け布団をぎゅっと胸に抱え、胎児のように丸まってすうすうと静かに息を吐いている。いつも大人びた言動をする葵だけど、寝ているときの顔はまだまだ昔と変わらずあどけない。
「……おやすみ、葵」
そう起こさないよう小さな声で、そっと呟いた。
うう……、と苦しげに呻く声で目が覚めた。
寝ぼけていて一瞬、自分の呻き声かと思った。でも、すぐにそんなわけないと思い直す。魘されるような夢、見てないし。
となると葵か? 心配になって、体を起こす。
見れば、フローリングに敷かれた布団の上で葵がジタバタと手を動かしていた。……かわいそうに、魘されてるのか。
起こしてあげたほうがいいな、とベッドを降り、葵の体を揺する。
「葵、……葵、」
「……っ、ん……兄さん?」
「よかった、起きた。おまえ魘されてたよ」
そう言うと葵は「ああ……」と呟いて起き上がり、ガシガシと頭を掻いた。
「なんかすっげー嫌な夢だった」
「どんな夢?」
「…………忘れた」
忘れたとは言いつつも嫌な夢だったことに変わりはないのだろう、葵は布団をぎゅっと抱いたまま、ずっと俯いていた。
しかし、その様子を見て、なんだか変だなと思う。なにがと尋ねられれば答えられない。でも、どうしてだろう。兄としての勘が騒いで、気がついたら「葵」と口にしていた。
「ちょっと布団めくってみな」
「…………っ!」
ビクッと震える体。布団をつかむ手に、ぎゅっと力が入る。
——ああ、やっぱりか。当たった。
「は? え、なんで、」
葵の瞳は、暗がりでもわかるほどにぐらぐらと揺れていた。だから、安心させたくて「大丈夫だから」となるべくゆっくり話しかける。
「寒くない? とりあえずお風呂いこ」
立ち上がるよう促せば、葵はのろのろと膝を立てた。その瞬間、葵のスウェットのズボンが股の中心からぐっしょりと色を変えているのがはっきりと目に映った。その下の布団カバーには歪な円形の跡が大きく染みとなって残っている。
「だ、大丈夫……布団、おれ洗ってくる、」
「いいよ、俺やる。早くシャワー浴びないと風邪ひいちゃうよ」
そう言って俺が布団を畳んで抱えるのを見ると、葵は「ごめん」と呟いて部屋を出ていった。……そのときの葵の、今にも泣き出しそうに潤んだ瞳。
二日も続けて布団を濡らしたことにかなりショックを受けて参っているのだろう。葵のことだから、今ごろひとりで自分を責めてしまっているかもしれない。
なら、葵が風呂から上がったらうんと甘やかして、大丈夫だよと言ってやらないと。そう思った。
レポートを書き終えて、チェアに腰かけたまま小さく伸びをした。支柱がしなり、ギシリと音が鳴る。
葵はいつの間にか眠っていた。
掛け布団をぎゅっと胸に抱え、胎児のように丸まってすうすうと静かに息を吐いている。いつも大人びた言動をする葵だけど、寝ているときの顔はまだまだ昔と変わらずあどけない。
「……おやすみ、葵」
そう起こさないよう小さな声で、そっと呟いた。
うう……、と苦しげに呻く声で目が覚めた。
寝ぼけていて一瞬、自分の呻き声かと思った。でも、すぐにそんなわけないと思い直す。魘されるような夢、見てないし。
となると葵か? 心配になって、体を起こす。
見れば、フローリングに敷かれた布団の上で葵がジタバタと手を動かしていた。……かわいそうに、魘されてるのか。
起こしてあげたほうがいいな、とベッドを降り、葵の体を揺する。
「葵、……葵、」
「……っ、ん……兄さん?」
「よかった、起きた。おまえ魘されてたよ」
そう言うと葵は「ああ……」と呟いて起き上がり、ガシガシと頭を掻いた。
「なんかすっげー嫌な夢だった」
「どんな夢?」
「…………忘れた」
忘れたとは言いつつも嫌な夢だったことに変わりはないのだろう、葵は布団をぎゅっと抱いたまま、ずっと俯いていた。
しかし、その様子を見て、なんだか変だなと思う。なにがと尋ねられれば答えられない。でも、どうしてだろう。兄としての勘が騒いで、気がついたら「葵」と口にしていた。
「ちょっと布団めくってみな」
「…………っ!」
ビクッと震える体。布団をつかむ手に、ぎゅっと力が入る。
——ああ、やっぱりか。当たった。
「は? え、なんで、」
葵の瞳は、暗がりでもわかるほどにぐらぐらと揺れていた。だから、安心させたくて「大丈夫だから」となるべくゆっくり話しかける。
「寒くない? とりあえずお風呂いこ」
立ち上がるよう促せば、葵はのろのろと膝を立てた。その瞬間、葵のスウェットのズボンが股の中心からぐっしょりと色を変えているのがはっきりと目に映った。その下の布団カバーには歪な円形の跡が大きく染みとなって残っている。
「だ、大丈夫……布団、おれ洗ってくる、」
「いいよ、俺やる。早くシャワー浴びないと風邪ひいちゃうよ」
そう言って俺が布団を畳んで抱えるのを見ると、葵は「ごめん」と呟いて部屋を出ていった。……そのときの葵の、今にも泣き出しそうに潤んだ瞳。
二日も続けて布団を濡らしたことにかなりショックを受けて参っているのだろう。葵のことだから、今ごろひとりで自分を責めてしまっているかもしれない。
なら、葵が風呂から上がったらうんと甘やかして、大丈夫だよと言ってやらないと。そう思った。
