第一章 審神者一族
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ナオトは、自宅のリビングダイニングの扉の前へと立っていた。
何かを決意したように小さく息を吐き、扉を静かに開ける。
「母さん」
扉を開けて左側を見ると、女性の姿が彼の目に飛び込んできた。
ナオトの母【真希】だった。
台所で、食事の支度の為に背を向けている母に、ナオトが声を掛ける。
「ん~? なあに?」
ナオトの母【真希】は、振り向く事なく包丁を動かしている。
「あのさ……。僕、『時の政府』から出陣を命じられたよ」
「……そう、とうとう……」
真希は、リズムよく包丁を動かしていた手を止めて振り返り、穏やかに目を細める。
穏やかに装うその顔は、少し……複雑な想いを抱えているように見えた。
「うん……出立は明後日……」
「明後日!? それは、随分に急ね」
真希は、目の前のダイニングテーブルにある椅子に手を掛ける。
「そうなんだ。正直、僕も驚いてる」
ナオトは、苦笑いをしながら真希の向かいの椅子に腰を掛けた。
「いよいよ、あなたもお役目を果たす時が来たのね……おめでとう」
真希は、お祝いの言葉を息子に掛ける。
だが、その言葉とは裏腹に、複雑な表情を孕んでいるように思えた。
「母さん……。うん……」
「こんなに早く、あなたがここを離れる事になるだなんて……。これも、審神者一族に生まれた宿命かしらね……」
真希は、目を伏せ、苦笑する。
行って欲しくない……だが、それは許されない。
審神者一族だから。
そんな想いがチラチラと垣間見えた。
「母さん……」
ナオトは、その後の言葉が出ない。
言葉にしないが……。母の気持ちが手に取るようにわかるからだ。
それは……。父がこの神月(こうづき)家に不在なのと、関係している。
「……ごめんね! しんみりしちゃった!!」
真希は、薄らと浮かんだ涙を指でそっと拭うと、目の前に座る息子に笑顔を向けた。
「母さん……。僕は神月(こうづき)家の人間として恥じない功績を残せるよう、頑張るよ」
ナオトは、決意を新たに表情を引き締める。
「母さんは、貴方の武運と無事を祈るだけ……。あそこはココとは違い、危険な地よ……。貴方を守ってくれる良い刀剣に出会えるといいわね……」
「うん、そうだね……。あのさ、母さん……」
「ん? どうしたの?」
「母さんだから言うけど……。僕……、父さんを探すつもりなんだ」
「!?」
真希の顔色が変わる。
かたや、ナオトは至極冷静だった。母の目を真っ直ぐに見つめていた。
「ナオト!? 貴方……お爺様にその事を言っているの?」
真希を目を見開き、ナオトを凝視する。
「言ってないよ。反対されるに決まってるからね……」
ナオトは、母親の顔を見た後、視線を膝へと落とす。
「ナオト、貴方……」
「母さんだって、お爺様の前では言わないけど……心配しているんでしょう? もう、ずっと」
ナオトは、自身の膝にあった視線を上げて、真希を見つめた。
ナオトがずっと母【真希】に聞きたい事だった……。
「それは……。だけど、それであなたに危険が及ぶのなら、母さんは反対よ」
「僕、知ってるよ……。時々、母さんが泣いてる事……。あれって……父さんの事、思い出してるからでしょ?」
「……」
息子の言葉に、真希は目を見開くと共に、唇を噛み締める。
「お爺様は、『あれはもう死んだ。忘れなさい』って言ったけど……。僕にはどうしてもそうは思えないんだ。だって、父さんが活躍していた時神月(こうづき)家の歴史上、イチニを争う能力だって、お爺様が自慢していたんだよ? そんな父さんが戦で死ぬだなんて……どうしても思えないんだ!」
ナオトは、テーブルを両手の拳で叩く。
その勢いは、テーブルに置かれた湯呑が倒れる程だった……。
「ずっと、そんな事を考えてたの……?」
真希は、静かにナオトを見つめる。
「僕にはわかるんだ。きっと、父さんは生きてる。僕は、父さんがいなくなった理由を……知りたいんだ」
テーブルに置いた、両握り拳に力を込める。
「……そっか……。仕方が無いわね……。あの人に似て、言い出したら聞かないんだから」
「父さんが?」
「そう! あの人、あ~んな顔して、こうだ!と思ったら、とことんまで突き進んで行く人だったの。そんな所……貴方、そっくり」
まきはそう言うと、椅子から立ち上がり、ナオトに背を向けて料理を再開する。
「……母さん、この事……お爺様には―……」
「……1つ、約束なさい」
「え?」
「身の危険を感じる程、深追いしない事!! いいわね?」
真希は包丁を持ったまま振り向くと、ビシッと包丁をナオトに突き付けた。
「え……。う、うん! わかった、無理しないよ!」
「……よろしい! お爺様には、内緒にしてあげる。もし、知られたら一晩中お説教、確定よ!?」
真希は、肩越しに息子に微笑み掛けると、包丁を再び再開させる。
「……母さん、ありがとう」
ナオトは、背中を向けている母親に呟いた。
「……さあ、もうすぐお夕飯だから、お爺様にお声を掛けてきてね!」
真希はナオトに答える代わりに、とびきりの笑顔で返した。