第三章 月と畏れ
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「さっきも...言ったではないか」
キシ...キシ...
三日月が、月の光を横から浴びながら、ゆっくりと鶴丸へと近付いて来る。
「…………」
鶴丸は、その場を動かない……。
正確に言うと、動く事が出来無いでいた。
三日月の身体から発せられる、覇気のようなものが鶴丸の身体を動けなくさせる。
鶴丸は、息を飲む。
「どれだけ長い年月、哀しみや辛さを…………強いられてきたか……」
気の所為だろうか? 三日月の美しい月を宿した瞳が一瞬、濁って見えた。
「みか……づき……?」
鶴丸は、声を震わせる。
どうしてか……最悪のワードが、鶴丸の頭の中に浮かぶ。
「何処の誰が決めたか、わからないような禁忌など……」
三日月は、無表情のままで一歩……また一歩と鶴丸に近付いて来る。
三日月が踏みしめる度に、床がキシ、キシと小さく音を立てる……。
「三日月、何があんたをそこまで……」
鶴丸は、唇を震わせながら呟いた。
三日月宗近が、狂い始めている……。
言葉にならない確信が、鶴丸の頭の中を締め始める。
「俺には……知った事ではない!」
三日月がそう言った瞬間……!
ヒュンッ!
空を切る音が聞こえたかと思うと……
「みかっ―…!!!!」
鶴丸の叫び声が、本丸に響き渡る。
ガッキィィィィィィィン!!
ズシャッ!!
「ぐっ!?」
ドッ!! ……ズサーーーーーーーーーー!!!!
金属と金属が擦れる音がした次の瞬間、何かが切れるような音がし、次に床に何か倒れる鈍い音がする。
それは、あっという間の出来事だった……。
「くっ!!!! 痛っ……」
気が付くと、鶴丸が床に転がっており、自身の腕を押さえて、苦痛に顔を歪めていたのだ。
ポタ……ポタ……ポタ……
水が滴り落ちる音が聞こえてくる……。
見れば……三日月は冷たい視線で鶴丸を見下ろしていた。
彼の手にしている太刀の先からは、床へと黒い血が滴り落ち、小さな染みを作り始めていた……。
音は、三日月の太刀から発せられていた。
三日月宗近が……鶴丸国永を斬り付けたのだ。
「なかなかやるではないか、鶴丸。俺の攻撃を寸でのところでかわすとは……褒めてやろう」
三日月は、腕を押さえて床に突っ伏している鶴丸に向かって、自身の太刀から静かに滴り落ちる血を眺め、妖しく微笑む。
そう……鶴丸は、突然襲ってきた三日月の太刀を、咄嗟に自身の太刀で受け止めていた。
だが、力で押し負けてしまい、三日月の太刀は鶴丸の腕を掠ってしまう。
本来、鶴丸国永は三日月とほぼ同等、いや……ほんの少し打撃や機動などが高いはずだった。
なのに、ぎりぎりのところで凌ぐのがやっとだった。
その証拠に、腕に怪我を負ってしまった。
それほど、三日月の能力が、飛躍的に高くなっているという事なのか……。
「はは……。さすが、三条殿。この俺が、避けるだけで精一杯だとは……ここ最近イチの驚きだぜ」
鶴丸は、腕を押さえながら、ヨロヨロと立ち上がる。
「だが……。次はないぞ、鶴丸……。そなたも小狐丸と同様。俺は、邪魔する輩を容赦しない」
三日月は、目を細めて妖しい微笑みを鶴丸に向けると、太刀を持つ手に力を込める。
すると、三日月宗近から、再び立ち昇る黒い覇気……。
初月の冷たい明かりが三日月に降り注ぐと、彼の覇気が、益々高く立ち昇る。
鶴丸国永には、三日月の覇気が、先程の何倍も大きくなっているように感じられた。
「やれやれ……。厄介な奴に、惚れられたものだな……ナオト」
鶴丸は苦笑しながら、まだ覚束無い足で、太刀を構え直した。