第三章 月と畏れ
夢小説設定
名前を記入して下さい。この作品は、名前を変更機能を使用しています。
何も入力されない場合は、こちらで設定した名前で表示されます。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キシ……キシ……。
歩を進める度、僅かに軋む木の乾いた音。
虫のコロコロという声と何かが跳ねた水音……。
まるで……。
この空間に三日月とナオトしかいないのではないか、と感じさせる程、他の気配がない……。
三日月の足元を覆っていた霧は、いつの間にかすっかり晴れていた。
三日月は小さく息を吐くと、天を仰ぐ。
そこには、くっきりと『初月』が浮かんでいた……。
その青白くそれでいて柔らかな光を浴び、目を細める。
「……そなたも、喜んでくれるのか?」
三日月が薄らと口角の端を上げ、月に向かって呟く。
そうして、三日月自身が抱き上げている人物に視線を移す。
三日月は、ナオトを抱き上げたまま、外廊下を歩いていた。
僅かに冷えた風が吹くと、ナオトの髪を少しだけ乱し、さらさらと彼の頬に触れる。
それでも、ナオトがピクリとも身体を動かす様子はない……。
その顔は、まるで穏やかに眠っているようだった。
「ナオト……」
三日月は、うっとりとナオトをみつめる
そんな恍惚に浸る三日月に、1人の人物から声が掛かる。
「こいつは驚いた……。ナオトをどうするつもりだ? 三条殿?」
「…………」
背後から聞こえる声で、三日月のこめかみがピクリと反応し、歩みをピタリと止めさせた。
だが、三日月は振り向かない……。
振り向かなくてもわかるとでも言わんばかりに、溜息混じりに軽く息を吐く。
「三日月よ……なあ、説明してくれ。何故ナオトがそんな状態になっている?」
「……鶴丸……国永……」
声の主は、五条、鶴丸国永だった。
三日月は、表情を変える事なくゆっくりと振り向き、鶴丸と対峙する。
月の光を背に受け……三日月の表情は、闇に沈む。
「!? ……何があった………三日月……」
腕をだらりとさせ、全く動く様子がないナオトを目の当たりにした鶴丸の声色が変わる。目を細め、三日月を睨み付ける。
「そなたには、関係ない」
三日月は冷たい視線を鶴丸に向けると、言い放つ。
少しの間、2人の間に緊張感が漂う。
リーン・・・リーン・・・
すっかり床を覆っていた霧は晴れ、虫の鳴く声と魚が水から跳ね上がる音だけが響く。
「……おいおい、それはないだろ? ナオトはこの本丸の審神者だぜ? そして俺はその刀剣……。心配するのは当たり前だと思うがな~!」
「…………」
「……だんまりか……?」
鶴丸は、ナオトの様子を見て確信を持っていた。
三日月とナオトの間に、何かが起こったに違いない……と。
そして、確信を持っていた理由はもう1つあった。
昼間の、三日月とのやり取りだ。
そして、鶴丸国永の刀剣男士としての……勘。
「……無駄に騒ぐなよ? ……付いて来い。」
三日月は、鶴丸を一瞥すると彼に背を向け、再び歩き出す。
「…………」
その冷たい威圧感に、鶴丸は黙り込んでしまう。
そこには、いつもの三日月宗近の姿は……ない。
鶴丸は、三日月を追うようにゆっくりと歩き出した。