あの子が悩んでる理由
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撮影の買い出しのついでに、ショッピングモールの中にある雑貨屋に向かう。
ありがたい事に僕の本が増刷し、やっと店頭にも通常運転で並ぶようになったらしい。
普通は作家自ら自分の本を確認に行くなんてありえないんだろうけど、出版社の担当さんの入れ込みようが半端じゃないし、フォロワーの皆も売り切れだったとか言うから一度この目で確かめておこうと思ったんだ。
そしたらだ。
雑貨屋の一角、YouTuberの雑誌やグッズが並ぶ陳列棚の前に女性が1人。商品を手に取る訳でもなく、首をかしげたり眉間にしわを寄せて険しい顔をしている。
邪魔だなぁ。
僕も買う訳ではないんだけど、今後のマーケティングの一環としてちょっと覗いておきたいのに。
狭い店内で写真だ握手だと騒がれても困る…。
いや、それは天狗になり過ぎか。
…まだ悩んでる。買おうか買うまいか、かな。
しわの寄せ過ぎは良くないよと言いたい。
仕方ない、ちょっと横から失礼して。
「あ、すいません。…あっ」
やっぱり気付かれたか。ヤバいかな。
まぁ握手くらいはいいか。
「虫眼鏡さんですよね?」
「はい、そうです」
僕と同じくらいの目線の彼女は笑顔も見せずに淡々と呟いた。
ちょうどよかった、と続けた彼女は喜ぶでもなく感激して泣くでもなく、手に持っていた本に目を落とした。
「あ、僕の本。あり…」
「ファンだったんです。好きだったんです」
ん?過去形?
「でも失恋しました。彼女できたって動画で見て」
「それはごめんなさい。だからさっきから買うか悩んでたんですか?」
見てたんですね、と恥ずかしそうに言うと僕が見る限り初めて彼女の表情が和らいだ。
「虫さんが幸せそうだから、好きでい続けるのが辛くなったんです。でもこれ読んだらまた好きになっちゃうかなって」
「こればかりは何とも言えないのでごめんなさい。でも応援してもらえると嬉しいかな」
「…はい。じゃ、これ買いますね」
恥ずかしそうに、でもにっこり笑った彼女の姿に少しだけ僕の心が揺れたのは、絶対に内緒。
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