ひとりぼっちじゃない
両親が目の前で殺された日の夢を、ずいぶん時間が経った今でもよく見る。
怖くて、足が震えて、これが悪夢ならどんなにいいことかと、夢の中でさえ何度も何度も心で叫んで、あたしはその場に崩れ落ちる。
ひとりぼっちだ。
もう、あたしには誰も側にいてくれる人がいない。
自然と涙が零れ落ちる。
夢うつつ、涙が頬を流れる感触と、何か自分に触れるあたたかい温度で、フェニモールは目を覚ました。
薄暗く、ぼんやりとした輪郭がフェニモールの瞳に映る。
「……辛いのか」
低く、淡々とした口調で、でも優しさを含んだその声に、フェニモールはようやく夢から醒める。
涙の痕を優しくなぞりながら、ワルターはフェニモールをじっと見つめていた。
「ワルター、さん……?」
愛しいその名を呼びながら、フェニモールはワルターの手に指を重ねる。
「あたたかい……」
フェニモールは夢の名残を消すように、ワルターの手をぎゅっと握り締める。
それに応えるように、ワルターの指にも力が込められた。
「怖い夢を、見たんです…。両親が殺されて、ひとりぼっちになったあの日のこと……」
何度この夢を見たことか。
その度に激しく憔悴し、目を開ける度に夢ではない、現実なのだと、残酷な真実がフェニモールを襲う。
時が経つ毎に、夢を見る回数は減ったものの、こうしてまた時折彼女をひどく苦しめる。
「……でも今は、目を覚ませばワルターさんが側にいてくれる。…ひとりぼっちじゃないって、ワルターさんが安心させてくれるんです」
まだ濡れたままの瞳で、フェニモールは微笑む。
ワルターはその様子を見て、何も言わず、ただフェニモールを抱き寄せる。
優しい鼓動が、フェニモールの身体に響く。
フェニモールはワルターに触れながら、やがて眠りへと落ちていった。
今度は良い夢を見ているのか、幸せそうな顔をして、すやすやと寝息を立てている。
その寝顔を見て、ワルターはふ、と頬を微かに緩める。
やがて彼も、深い眠りへと落ちていった。
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