希望
『…だ、………何故だ…』
身体が言う事を聞かない。
何故、どうしてこんな所で。
まだ、
まだ果たしていない。
与えられた役目を、
俺の唯一の生きる目的を──
『…何故だ…』
地に伏せる自分の身体。頬に当たる感触は、絶望。
何故、お前は奪う。
息をすることすら困難になったその口から、何故、と掠れた自分の声が聞こえた。
奴は俺に手を差し伸べた。
──屈辱 だった
何故、俺から全てを奪ったお前が、
殺したいほど憎いお前が、
手を───
『…何故…』
メルネスが選んだのは
貴様だったのだ …… !
『セネ…ル……』
「────!」
目を開けると、暗闇だった。
ここは、どこだ?
ワルターは起き上がろうとするが、動かそうとした自分の右手に触れる温かい感触に気付いた。
「…?」
見ると、手を握りながら頭をワルターの身体に預けて眠るフェニモールの姿があった。
ようやく目が暗闇に慣れたのか、ぼんやりと周りが見えてきた。
見慣れた家具や物に、どうやら自分の部屋にいるらしい事をワルターは把握する。
「何故ここに…」
フェニモールの反対側の手には、タオルが握られていた。
視線を上に移すと、溶けかけた氷の入った容器が置いてあった。
状況から察するに、彼女が看病をしてくれていたのだろう。
看病を───
今自分がここにいるのは、倒れたからだ。
その理由も、先程まで見ていた夢は夢ではなかった事もワルターは理解する。
俺は、失った。
何もかも、すべてを。
「……は、」
自嘲気味に笑う声が零れる。
フェニモールの手を解き、ワルターは部屋から出て行った。