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希望





 優しい日差しと心地よい風がカーテンを揺らす。
 耳を澄ませば水の音。
 鼻腔をくすぐるのは、水と自然の香り。

 そして、もうひとつ。


 覚えのあるその香りに目を覚ますと、やはりフェニモールがそこにいた。


「ワルターさん……!」


 フェニモールはベッドに横たわるワルターの顔を覗き込んで大きく瞳を開く。
 その表情には、心配と安堵が入り混じった複雑な想いが表れていた。


「フェニモール……?」


 まだ意識がはっきりとしない頭で、彼女の名を呼ぶ。
 俺は一体、何をしていたのだろうか。


「ワルターさん、良かった……。もう1週間くらい眠っていたんですよ。もうあたし、……このまま目が覚めないかと……」


 語尾の声が掠れたかと思うと、フェニモールはパッと背中を向けた。
 それを目で追うと、微かに彼女の肩が震えているのが見えた。

 ……どうやら相当心配をかけてしまったらしい。


「……フェニモール」


 呼ぶと、フェニモールは焦って目のあたりを拭い、こちらを振り向いたときには元の笑顔に戻っていた。


「……何か食べられそうですか? リクエストしてくだされば作りますよ」

「いや……今は食欲がない。ところで、俺は……何故倒れた?」


 そう尋ねると、フェニモールから笑顔が消えた。


「……覚えて、いないんですか」

「……」


 無言で肯定すれば、フェニモールは目を伏せる。


「……」


 フェニモールは迷ったようにしばらく黙ったあと、ゆっくりと口を開いた。


「……今はまだ休んでいてください。ワルターさん、力を使いすぎてかなり弱っているんです」

「……」

「……汗、かいてますね。タオル持ってきます」


 そう言ってフェニモールは洗面所の方へ向かった。
 その背中を見送りながら、ワルターは考える。

 力を使いすぎた?

 何のために、そんなに使った?
  1週間も目覚めない程の、力を。

 まず俺は、何をしていた?

 ワルターは混乱する頭で、必死に答えを探し出そうと考えを巡らす。

 メルネスが目覚めて、そう、

 ようやく俺は──親衛隊長になれた。

 ああ、そうだ。
 こんなところで寝ている場合ではない、


 早く陸の民に粛清を──!


 ワルターは起き上がろうとするが、激しい倦怠感が襲い、身体は微塵も動かなかった。


「っ」


 腕を動かそうとするが、全く力が入らない。
 もう一度力を入れようとすると、今度は激しい眠気に襲われた。


「……っ」


 何とか目を開けていようとするが、やがて意識を失うようにワルターは眠りに落ちた。



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