世界が染まる瞬間
「良かった。もう大丈夫みたいですね」
あれから毎日フェニモールが手当てをし、ワルターのケガはほとんど目立たなくなっていた。
「痛みはどうですか?」
「大丈夫だ」
「そうですか……本当に良かった」
フェニモールは解いた包帯を持ってきたポリ袋の中に入れ、口をキュッと縛る。
「あたしの役目も今日で終わりですね」
「……」
片付けを手早く終えると、フェニモールはドアへと向かい、ワルターに振り向く。
ワルターは視線をそちらへは向けずに、黙っていた。
「……それじゃあワルターさん、お仕事頑張ってくださいね。もう無理はしないでくださいよ」
フェニモールは笑顔でそう告げると、そのまま外へと出て行った。
パタンと閉じたドアの音が、静かな部屋に響く。
「……」
訪れた静寂が、やけに重く圧し掛かるのをワルターは感じていた。
*
「よくフェニモールは親衛隊長と普通に話せるわね」
フェニモールが洗濯をしていると、最近仲良くなった水の民の少女が話しかけてきた。
「どうして?」
白いシーツをバサッと広げながらフェニモールは問う。
「だって、あの人無口だし、何考えてるかわかんないし、何より雰囲気が怖いわ」
顔はカッコイイのに残念、と付け加えて少女は肩をすくめる。
フェニモールは洗濯バサミでシーツを留めながら考えた。
確かに無口ではあるが、そんなに怖い人だとは感じなかった。
包帯を替えに行って、それが済むといつも必ず「すまない」とワルターは不器用に礼を述べるのだ。
「ただ単に感情を口にするのが苦手なだけじゃない?」
「へ?」
「ワルターさんって、本当は優しい人だと思う」
少女は呆気にとられた。
「みんな誤解してるだけよ」
微笑んで言うフェニモールに少女は、「フェニモールってずれてるわね」と苦笑を返した。
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