恋の魔法薬
「イチャイチャしたいのになかなかそういう甘い雰囲気にならない~?まぁ相手がワルちんじゃねえ……」
やれやれ、とでも言うように肩を竦めながらノーマが浅くため息をつく。フェニモールは慌ててそれを否定した。
「いっ……イチャイチャとは言ってません!ただ……恋人らしく、その……少しくらい手を繋いだり、とか……」
言いながら、フェニモールの顔は徐々に赤く染まっていく。その初々しい反応を微笑ましく思いながらも、ついからかいたくなる性分のノーマはどうしてもニヤニヤが抑えられなかった。
ここは、水の民の里。
陸の民と水の民の対立がなくなり共存する道を選んだ今、こうしてノーマが普通に水の民の里へと出入りし、フェニモールの家へと遊びに来ることが出来るようになった。
ワルターと恋人であるフェニモールに、あの堅物が一体どんな態度を取っているのか実態を知りたいノーマはこうしてよくフェニモールの元を訪れていた。
そしてワルターとなかなか恋人らしいことが出来ないと、半ば無理矢理ノーマによってフェニモールは吐かされたのである。
「フェモちゃんが積極的に抱きついてみたりとかしてみたら?あの堅物も案外デレデレになっちゃうんじゃない?あ、その顔絶対写真撮ってね!」
「そ、そんなこと出来ません!……というかノーマさん、面白がってますね?」
「そりゃあもう~!ワルちんがデレデレの顔してるとこ想像するだけで爆笑もんだっての!」
アッハッハッハと豪快に笑うノーマに、フェニモールは冷ややかな視線を送る。それに気付いたノーマは慌ててうそうそごめん!と笑いを引きずりつつも謝った。
「お詫びに、これあげるよ」
ノーマが懐から小瓶を取り出す。中には透明な液体が入っていた。フェニモールはそれを不思議そうにまじまじと見つめる。
「何ですか、これ?」
「ここに来る途中、怪しい出店見っけてさ~。ちょっと冷やかしで行ってみたら何か貰えたんだよね~。その店主曰く、これは『恋の魔法薬』なのだ!」
「胡散臭すぎません!?いらないです!!」
「お試しボトルらしいから効き目は二時間くらいなんだって~」
「毒でも入ってたらどうするんですか!?」
「さっきその辺のモンスターに毒味させたんだけど死ななかったよ安心して☆」
信用出来ません!と突っぱねるフェニモールに無理矢理ノーマは小瓶を押し付け、そのまま「あっそろそろ帰らなきゃ!」と逃げるように去っていった。
待ちなさい、と止める間もなくフェニモールはひとり部屋に残される。
「…………」
手に持った小瓶を、フェニモールは訝しげに見つめる。
『恋の魔法薬』……。効能全く不明の薬。
恐らく毒ではないようだが、何とも怪しさ満点の代物だ。普通ならこんなヤバそうな物を使えるはずがない。
「こ、こんなもの……」
捨ててしまおうとフェニモールは台所の方へ向かう。小瓶の口を開けて中身を流そうとするが、その手はぴたりと止まってしまった。
「…………」
フェニモールは瓶を睨みながら悩む。
恋の魔法薬。
恋の、魔法薬……。
「いやいや。普通に考えてそんな薬あるわけないから」
頭を振ってフェニモールは自分に言い聞かせる。
「ノーマさんがからかってるだけよ……。そうよ。うん。そうに決まってるわ」
フェニモールは一人でぶつぶつ呟くが、一向に小瓶を捨てようとしない。
「…………」
しばし黙り込んで悩んでいたが、フェニモールは唇をぎゅっと結ぶと、半ばやけくそになって決心した。
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