深い意味は……ない。
「隊長のこと優しい人っていうの、あなただけよフェニモール」
会話の中で、たまたま出てきた親衛隊長である彼についての話題。
他の水の民が口を揃えて「あの人は冷たい人だ」とか「厳しい人だ」とか言うものだから、フェニモールは「ワルターさんは優しい人ですよ」と言ったら冒頭の言葉を言われてしまった。
確かに彼は不器用な物言いしかしない。
もっと別の言い方で言えばいいのに、厳しい言葉しか選ばないから、冷たい印象を与えてしまう。
だけどその厳しい言葉の裏には、彼の優しさが隠れている。
それをフェニモールは感じ取るから、フェニモールにとってワルターは「優しい人」だった。
──確かに人と距離を取るために、わざと冷たくしているという印象も否めないけれど。
……だけど、彼は決して冷たい人ではない。
水の民たちが彼について誤解している事が、どうも胸のあたりがモヤモヤして、フェニモールは無意識に顔を顰めながら歩いていた。
すると不意に、その原因である彼の姿が視界に映った。
フェニモールは歩みを止め、声をかけようとする。
「───」
しかし、喉に何かが絡みついたかのように、フェニモールの声は出なかった。
「……?」
ワルターの姿を見とめながら、フェニモールは立ちすくむ。
しばらく動けずにいると、不意にワルターがフェニモールに気付き、視線がぶつかった。
「……!」
フェニモールは勢いよく目を逸らすと、今来たばかりの方向へと逃げる。
──気付いてしまった。
水の民たちが彼のことを誤解しているモヤモヤの正体。
『もっと水の民たちに優しく接してあげてください』
そう言いたかったのに、言えなかった。
ワルターさんが優しい人だと知っているのは、あたしだけでいい──
そんな想いが、喉に絡みついた。
子供じみた独占欲なんだろうか。
それとも──
そこまで考えた時、フェニモールは小さく首を横に振った。
「……深い意味は、ない、はずよ……」
フェニモールはぽつりと呟く。
胸のモヤモヤは、先程よりも広がっていた。
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